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「くまのぬいぐるみ」(07)

箱を設置したその日は、ぐるりと散歩道を歩いてお家に帰りました。二人ともくまさんのことが気になって仕方ありませんでしたが、設置してすぐに持ち主が現れるなんていう偶然があるわけないのもわかっていました。

「少しは放っておかないと、見つかるものも見つからないもの」
その日はお互いにそう言い合って、努めてくまさんのことを考えすぎないようにしていました。

暗くなってきて、なんにしてももう箱を見に行ける時間ではなくなってきました。
「雨、やまないねぇ…」コグマは窓で頬杖をつきながら空を見上げて言いました。
「梅雨だからねぇ…」座って本を読みながらチャックまがこたえました。本を開いて文字を目で追っていたものの、上の空のチャックまの頭には内容が入ってきません。同じページを何度も読み返しています。二人とも口には出さないものの、くまさんが濡れていないか心配していたんです。

「…ボク、てるてる坊主つくる」コグマが言いました。チャックまも本を置いてにっこり笑いました。「それはいいね」

チャックまが目を閉じてウンウンうなって念じ、お腹のチャックを開けると中からてるてる坊主が出てきました。それを見たコグマが困った顔で言いました。
「てるてる坊主は自分たちで一生懸命お願いしながら作らないと効果がないと思うよ」
「しまった」チャックまは苦笑いしながら頭をかきました。
「もう一度やってみよう」

チャックまはもう一度目を閉じて念じました。ゆっくり時間をかけてチャックを開けると、真っ白い布が出てきました。それはそれは白くて、眩しいほどの白さです。
「わぁ、すごいねぇ!この布でてるてる坊主を作れば、きっと晴れるね!」
コグマがよろこんで言いました。

チャックまが裏からハサミとペンと紐を持ってきました。二人は並んでてるてる坊主を作り始めました。

チャックまは昔ながらのてるてる坊主を作りました。顔は“へのへのもへじ”です。ただ少し…いやかなり大きめに出来上がりました。

コグマは一生懸命お願いしながら作っているので余計に時間がかかりました。かわいい小さめサイズのその顔は、どことなくくまさんに似ています。
「かわいく出来たね」チャックまはそれを見て、嬉しそうに言いました。
「目のところ、塗りつぶさなくていいの?」丸く描かれた目が黒目になっていなかったのでチャックまは訊きました。
「てるてる坊主って、本当は顔を描いちゃいけないんだって。顔を描くのは、願いが叶って翌日晴れた時にお礼の意味で描くらしいの」コグマは言いました。
「えっ!そうなの?」チャックまはビックリしました。

「そうなの。でものっぺらぼうじゃ寂しいじゃない?だからボク、顔は描くけど目を塗りつぶさないようにしたの。明日晴れたら塗ろうかなって」
そしてコグマはチャックまの作った大きなてるてる坊主を見て、笑いながら言いました。「チャックまのも黒目塗ってないじゃない」
言われてみればなるほどチャックまのてるてる坊主も黒目が塗ってありません。それは“へのへのもへじ”で描いたからだったんですけどね。

出来上がった2つのてるてる坊主を軒下につるしました。そしてせっかくなので、その前にお腹からたくさん出てきたてるてる坊主もつるしました。軒下はにぎやかなてるてる坊主たちのパーティ会場のようになりました。

「これだけあれば、きっと明日は晴れるね!」コグマは嬉しそうに言いました。

08に続く


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