ぼくの前に、娘は立ちはだかった。
「そんなことしたらあかんで!」
そう言いながら娘がぼくの前に立ちはだかった。娘は、ぼくのことをとがめているのではなく、ぼくのことを守ろうとしていたのだ。
***
週末。幼稚園のお友達家族数人と、近所にある森へピクニックへでかけた。
ほどよく涼しく、持ち寄ったお弁当を食べながら、子どもたちもはしゃぎ回る。家から車で10分。通っている幼稚園から徒歩5分にその森はあった。
森にはたくさんの虫たちがいる。
今日の人気者は、カマキリ。子どもたちは大きなカマキリやバッタを捕まえてジップロックの中に入れて遊んでいた。
その中でもひときわ大きなカマキリがいた。彼の名はチョコと命名。
つかまえたカマキリのチョコを、子どもたちは手に乗せたり、背中を歩かせたりして遊んでいる。
とはいえ、娘は虫がすこし苦手。お友達が結構虫好きなので興味はあるが、なかなか触ることができない。
手を出しては「きゃー!」と言いながら引っ込めて、を何度も繰り返している。
お友達も、ゆっくり、触れそうなら渡してあげる、という感じで娘とカマキリの距離を近づけてくれている。
じつは、ぼくも虫が苦手。小さい虫ならまだしも、大きなカマキリなんてなかなか触れない。
遠くでキャーキャー遊んでいたはずの子どもたちが、走りながらこっちへやってきた。
「ねえねえ! 〇〇ちゃん、カマキリさわれるようになったよ!」
と、興奮気味にお友達が娘の手のひらを指差す。
そこには、娘の手のひらの上でじっと立ったままこちらを見つめるカマキリのチョコの姿。
娘は、大きく目を見開き、腕をぷるぷる震わせながらピンと伸ばしたまま直立していた。
「パパー! わたしさわれるようになったで!」
カマキリから目をそらすことなく、見つめたままぼくに向かって、誇らしげな声で言った。
「〇〇ちゃんのパパもカマキリさわる?」
お友達が声をかけてきた。娘がさわれるようになったことは心から喜ばしく思うけど、ぼくがさわるのは正直ごめんだ。これ以上、こっちへ近づいてなんかほしくない。
ぼくは、子どもたちに丁重に断った。すると、子どもたちの目がイタヅラっ子の光を放った。
「いいからさわってみなよー!」
娘の手からカマキリをつかみ取って、ぼくに向かって手を伸ばしてくる。平気な顔をしておこうと思うのだけど、反射的に身体がこわばってしまう。
あの細長い体が、自分に触れたらと思うと鳥肌が立ってしまうのだ。
グイグイとぼくに近づいてくる子どもたち。
それを遮るように、娘がぼくの前に立ちはだかった。
「そんなことしたらあかんで!」
カマキリをさわれるようになった娘が、せまりくるカマキリからぼくのことを守ろうとしてくれているのだ。
まさか、早くも4歳の娘に守られる日が来るなんて。鼻の奥がツンとなる。小さな背中が、なんだかとても頼もしく見えたのだ。
「ねぇ、ちょっとわたしに貸して」
ようやくさわれるようになったことが嬉しいのか、娘はお友達からカマキリを再び受け取る。
そして、ぼくの方をくるりと振り向く。口元をゆがませながら、目がキラリとひかる。
「ねえ、パパも触ってみる??」
***
今日も、見に来てくれてありがとうございました。
まさに「ブルータス、お前もか!」な気持ちでした。
ぜひ、明日もまた見に来て下さい。
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