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傾聴を望んだ子どもたちとそれを拒否した大人たち〜スクール・オブ・ロック/桜の園

今月心に残ったのは新作2本、ミュージカ「スクール・オブ・ロック」とPARCOの「桜の園」でした。

ミュージカル「スクール・オブ・ロック」

2020年の公演中止から3年を経て、ようやく上演できた作品。もとは同名の映画で、音楽は(実は)アンドリュー・ロイド=ウェバー。私立の子どもたちが、元バンドメンバーでロックを愛するダメ男・デューイにより、ロックバンドを結成するお話。

ブリリアということで音響はイマイチ・歌詞もちょっと聞き取れなかったですが、子どもたちが自らの殻を破り、グループとして結託してパフォーマンスを作り上げる様はグッと来てしまう。特にラストの子どもたちによる生パフォーマンスはとてもかっこよかった!

子どもが活躍するミュージカルといえば、これまでアニーやビリーエリオットなど、どうしても主役(とその親友キャラ)だけが目立つ作品が多かったですが、こちらは群像劇。衣装や映像担当の子も見せ場があり、カテコも役名と名前がコールされるので、一人一人にしっかり拍手を送れるのが嬉しかったです。

成長する子どもたちに刺激され、大人たちの心も動き出します。校長先生やデューイの親友らが、少しずつ自分が大好きだったもの(推してたもの)を思い出し、その頃の情熱を再び呼び起こす様は往年のオタクそのものでした。

やや非現実的な展開がありつつも、「スマホ」「ジャスティン・ビーバー」「クイーン」と、世代を問わず現代の私たちが楽しめる要素が満載。大人の方がゲラゲラ笑っていた印象でした。

さて、本作に登場する子どもたちは皆、親とのコミュニケーションがうまくいかず(親が自分の話を聞いてくれない)、「If only you would listen」(あなたさえ聞いてくれれば)と、何度も傾聴(対話)を試みようとします。
対して大人たちはそれを拒否し、自分が望む”子ども”の姿を押し付けようとします。

そんな大人たちを強調して描いたのが、PARCO劇場で開幕したチェーホフの「桜の園」でした。

ここに出てくる登場人物たちはほぼ全員、愛・人生にまつわる話と他人に「黙れ」と言う時以外、人の話を聞いていません。目の前のことで精いっぱいで、人が喋っているときはどこか遠くをぼんやり。どんなにロパーヒンが迫っても、どこ吹く風。「どうにかなるでしょ」という楽観的な空気は、競売日にクラブさながらのコスプレ・ダンス大会にも表れています。
もはやロパーヒンに同情したくなるので、この作品を「喜劇」と言うのも納得です。

じゃあ「あー笑った。楽しかった」で済まされないのが、この作品の怖いところ。私としては、「いまの日本の社会を風刺しました?」と聞きたくなります。政治への無関心(諦念)はその最たるものでしょう。

”1人演説大会”のシーンが多い作品ですが、舞台経験豊富なキャストが多く、聞きごたえがありました。原田さんのラネーフスカヤは最後まで魅力的な女主人。長台詞の多い八嶋さん(ロパーヒン)、成河さん(トロフィーモフ)は、途中で観客も飽きさせず、置いてけぼりにもしない演技が素晴らしかった。

この作品もコロナの影響でケラさん版が中止となってしまいましたが、どんな作品にしようとしていたのか、気になるところです。


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