2018 J3第16節 ギラヴァンツ北九州vsガイナーレ鳥取【自信と過信】
はじめに
忘れもしない悪夢がガイナーレ鳥取を襲った2016年シーズン。あれから2年、同じ舞台で再会するとは思いもしなかった柱谷哲二新監督が率いるギラヴァンツ北九州戦。あの時とは違う、成長と進化を遂げた強小の魂を見せたい。
両チームのフォーメーション
ガイナーレ鳥取は継続して3-4-2-1を採用。今節も山本がスタメンを張り、組織的な前プレと再現性の高い攻撃の形でペースを握りたいのは須藤監督。
対するギラヴァンツ北九州は前節に続いて4-4-2を採用。まずは初心に帰り、基本形のフォーメーションから守備・攻撃共に立て直しを図りたい柱谷監督の意図が伺える。
両チームのスタメンおよび基本フォーメーション
ロングボールの意図と前進
鳥取は序盤から北九州両SB裏のスペースへロングボールを供給する。これには明確な意図があった。
一つ目は、北九州の守備ブロック全体を縦横に間延びさせること。そして二つ目は、それによって北九州の2-3列目間の間延びしたスペースに位置するフェルナンジーニョと山本を起点にボールを前進させること、である。
始めに最終ラインの井上黎、甲斐、内山から北九州のDFライン裏のスペースに目掛けてロングボールを供給する。北九州としては放置すると背後のスペースに抜け出されて一気に決定機に持ち込まれるため、鳥取の最終ラインがボールを蹴る瞬間にロングボールを警戒しDFラインを下げるようになる。また、両WBの奥田と小林が高い位置で開いたポジショニングを取ることで、両SBの野口と浦田に大外への意識とケアを強いる。これにより相手の守備陣形を縦横に引き延ばし、鳥取が利用したい北九州の2列目と3列目間のスペースを拡大する。
DF裏へのロングボール
次に、先ほどのロングボールにより相手を誘導して創出したスペースを利用する。これには、4-4-2のブロックを敷く北九州守備陣形のスライドの遅れやポジショニングのズレを利用したい明確な意図があったと推察できる。それは以前にも紹介した2トップの両脇のスペースを狙う基本形が一つとして挙げられる。北九州のSH安藤と川島が危険なシャドーへのコースを十分に閉じれない場面が多く、鳥取は意図的に狙っていた。
2トップ両脇からの前進
さらに今節では、北九州2トップの池元とダヴィの守備意識が希薄であることに着目し、あまり見られなかった甲斐を起点とした前進も試みた。まずは間延びした2トップ間のスペースへドリブルを開始。もし放置すれば甲斐から加藤へのパスが直接通るため、北九州のボランチ(村松、藤原)は中央へのパスコースを閉じるカバーリングの対応を強いられる。次にカバーリングによりボランチが空けたパスコースからシャドー(山本、フェル)へのパスを狙う。もしSH(安藤、川島)によりカバーリングがなされれば、今度は大外のWB(奥田、小林)へのパスが狙える。以上のように、時には3バック中央の甲斐が持ち出し、理詰めでボールを前進させようした。
2トップ中央からの前進
中央を閉じられたらシャドーへ
SHがカバーリングに入ればWBへ
実際に12分の場面では、池元とダヴィの守備意識の希薄さを突き、ボランチの村松に加藤とフェルへのパスコースどちらを遮断するかの選択を迫った。ゴールへの最短距離である中央へのパスコースを村松が閉じたことでフェルナンジーニョへのパスコースが出現し、実際にパスを通すことに成功した。
シャドーに供給した場面
PA付近の崩し
ボールを前進させ、相手を自陣に押し込む状況になった場合。一例として8分の決定機の場面を挙げる。シャドーの山本が左ハーフスペースにポジションを取り、北九州のどの選手が山本へ対応するかの選択を迫った。
ここでは野口がプレスに行くことを選択したが、山本はスルーから野口が空けた背後のスペースで加藤からのボールを受け直し、さらに走り込んだフェルナンジーニョへワンタッチパス。ボールをハーフスペースと中央間で出し入れし、避けられないプレーの選択を常に相手に与える。これにより北九州の選手が空けたスペースを連続的に利用してPA内へ侵入。理想的な形で左サイドから決定機を演出した。
左サイドの攻略
DF背後へのパスを狙う山本と走り込むフェルナンジーニョ
北九州の狙い
対する北九州は、自陣守備からのカウンター攻撃を主な狙いとした。自陣に4-4-2のブロックを敷き、ボール奪取後は鳥取の3バック両脇のスペースを利用して手数をかけずにカウンターを仕掛ける。ボランチやSHによるサイドチェンジから逆サイドの広いスペースを利用してゴール前まで一気に迫った。また、相手のミスと素早い寄せによるボール奪取後は幾度と無いカウンターで鳥取の選手に長距離を走らせ、体力を消耗させることに成功する。
3バックの両脇を常時狙う
逆サイドへの展開からゴール前へ
ミスによる自滅
鳥取が誤算だったのは、普段は何でもなさそうなミスが多発していたことである。時間の経過とともに単調なサイドへのロングボールが対応され、強引に通そうとした結果のパスミスも顕著に現れた。また前プレに行っても、ロングボールから身体的優位を生かされてダヴィを中心に前線へボールが収まってしまう。その結果、北九州に度々カウンターを受けて一方的に消耗するという悪循環に陥った。
この日は動き出しをやや重そうにしていた選手が数名見られたのが印象的で、判断力の低下も明らかであった。延期で試合間隔が空いたことによる調整ミスなのだろうか。
そのため、多発するミスのカバーリングとロングボールを受けようとする意識がどうしても強まる。すると鳥取が得意としていたはずの前プレが影を潜める時間帯が増え、相手にペースを握られてしまう。このことは試合後の須藤監督のコメントにもよく表れていた。
後半の狙いと手詰まり
リードする北九州はプレッシングの開始ラインを一旦下げてリスクを管理する。それに伴い、鳥取がボールを保持し北九州のゴールに迫る時間帯が増えた。
レオナルドを投入した後半も、前半と同様な形でボールの前進を試みる。52分には基本形からシャドーに収め、再現性のあるボールの前進を実現した(下写真)。また、WBの小林が左サイドへ抜け出してゴールに迫る形が何度も再現されていた。
井上黎が2トップ脇のスペースへドリブル
パスコースが空いたフェルナンジーニョへ供給
一方で、相手を押し込んだ状態から中央のバイタルエリアへボールが収まった後の展開ではスピードダウン。北九州の選手がボール保持者に寄せたりポジショニングし直す余裕を与えてしまい攻めあぐねる時間帯が続く。そうこうする間にカウンターから2失点目、窮地に追い込まれた。8分に見せたようなプレー速度と選択肢の増加、そして前半から幾度となく受けたカウンターへのリスク管理という新たな課題が浮き彫りとなった。
予てからの課題
個人への批判は極力避けたいのだが、以前から守備の穴になっていると指摘されているフェルナンジーニョ。今節でも体力的に厳しくなる試合終盤にかけてその形が見え隠れする。鳥取は5-4-1の陣形を築いていたが、左サイドをケアするはずのフェルナンジーニョが前線に居残ることで相手にスペースを与えてしまっていた。
結果、可児と星野がカバーリングを余儀なくされて中央に隙ができ、また攻撃の軸となる二人へ無駄な労力を強いることに。年齢や復帰1年目による体力的な厳しさは承知で、キャプテンとしてピッチに立つ以上は守備に対しても献身的な姿勢を笛がなるまで貫いて欲しいと感じた次第。
雑感
最終的に自滅のようなミスとカウンターから3失点。新たな課題を出しきった一戦となった。須藤監督就任直後の2試合で得られた自信は過信だったのかもしれない。
今節はコースが空いていないところへの強引なパスや、準備できていない味方にパスを通そうとして何度もカット、インターセプトされるプレーが散見され、チーム全体として雑になっていた。前半と後半の序盤に一瞬光った冷静さが90分間維持できていればと悔やまれる。
長野戦とG大23戦では終始落ち着いたプレーが出来ており、完璧な試合運びを見せていた。意図的な攻撃の狙いは今節でもはっきりと確認できただけに、まずは最優先事項としてチーム全体の冷静さを取り戻して今後の試合に挑みたい。