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一橋MBA戦略ケースブック

戦略論を学び直しており、中身を立ち読みしたところ、面白そうだったので、購入読了。

いくつかの業界を分析しており、フレームワークの使い方及び洞察は、非常に勉強になった。

1.エコシステム全体をとらえるマーケティング戦略

消費財メーカーの分析を行っている。具体的には、食器用洗剤をめぐるP&Gと花王の戦いを分析している。

P&Gが「ジョイ」を売り出す時にターゲットとしたのは、「食器用洗剤を薄めずにスポンジにつけて、直接使用する、比較的若い消費者」だった。それまではつけ置き洗いがベースだったものを、スポンジから直接洗うという行動をとる消費者(シングルレバー水栓の普及、洗いやすいテフロン加工の鍋・フライパンの普及も背景にある)に的を絞った。即ち、P&Gは、これらの台所全体のエコシステムの変化を捉えて、戦略的にマーケティングを行い、花王からシェアを奪取した。

2.縮小市場における成長セグメントの取り込み

大和ハウスは、縮小する賃貸不動産相場で成長セグメントである、「地方出身の一人暮らしの女性」に的を絞った。都心に近く家賃の安い練馬区、江戸川区に絞って、大家の募集を行い、セキュリティ対策を施した上でやや高めの家賃設定で戦った。

3.顧客トレンドの変化と市場動向

人口減少が進む社会の中で、生命保険業界はダウントレンドにある。いわゆる保障の厚い生命保険が減少する一方で、保障は弱いものの投資性のある、貯蓄型の一時払いの生命保険が増加しているという外部環境が続いている。

生命保険はスイッチングコストが高い商品である。コストに反応して保険を切替える加入者は多数は見込めないが、インターネットから保険を買うという行動に対する理解が深まっているので、引き続きネット生保がシェアを拡大していくだろう。

4.造船業界における市場地位別の競争戦略分析

造船業界は30年間の景気サイクルの波がある。日本はかつて造船業界で世界トップだったものの、コスト競争により、韓国に水をあけられ、多くが撤退をしてしまった。その中で、バルカーという低付加価値の製品に的を絞った名村造船所の事例と、水平分業により高付加価値の設計やプロジェクト管理に的を絞ったニッチャー戦略をとる三井海洋開発を解説している。

5.ネット通販の普及による利益ポテンシャルの変化

アマゾンが各地に倉庫を建設している理由は、供給者から各消費者の自宅までの配送距離を、「供給者とアマゾンの倉庫」及び「アマゾンの倉庫から各消費者の自宅」という二つの距離に分断し、距離を短縮することにより、輸送コストの低下、在庫確保によるスピーディーな消費者への商品提供を狙ったものだった。

こういった配送プロセスの変化は、一配送当たりの輸送単価の下落を起こすとともに、全国的なネットワークがなくとも戦える地場の中小零細業者の配送への参入を招き輸送価格は一層下落している。

また、アマゾンという高ボリュームの利用者という特異性も相まって、アマゾンのヤマトや佐川に対する価格競争力は強まっており、ヤマト・佐川の強み(全国規模のネットワークを持ち、輸送できる)が失われている。

6.コンビニエンスストア業界の二極化要因

コンビニは98%程度がフランチャイズの経営となっている。コンビニ本社の収益は、フランチャイズからのロイヤルティ収入が一番多く、その収益に対する割合は、セブンイレブンが84.5%、ローソンが78.3%となっている。それ以外の収入は、ほとんどが直営店からの売上である。

コンビニフライチャイズは、大別して①店舗の家賃を本部が支払うパターンと、②オーナーが支払うパターンがある。セブンイレブンは先発企業のため、②の割合が3割程度となっている。

①の割合が高い企業は後発のコンビニ会社(ミニストップ、サンクス等)である。自社で家賃を払う必要があるため、固定費率が高く、収益上の足かせとなってしまっている。

またPOSシステムの情報の蓄積による各店舗への経営アドバイスや独自のPB商品による収益性の高さもあり、コンビニ一店舗当たりの日商はセブンイレブンが他社に比べ10万円ほど高く、消費者の消費行動情報を蓄積している強者がさらに強くなるという状況となっている業界である。

MBAのフレームワークを実際の事例を通して分析しているので非常に勉強になった。

自分がサービスをよく利用しているアマゾンについても、倉庫の保持理由について誤解をしていた。(在庫を持って、消費者に素早く商品を届けることが唯一の目的だと理解していたが、輸送のハブ機能を持たすことにより、輸送単価を下げる狙いがあったことは知らなかった。)

個人的には三井海洋開発の戦略が先進国企業がニッチャーとしてコストリーダーシップ戦略を取る後発企業と戦うための戦略として優れていると感じた。


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