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日本発グローバルIPの勝ち筋

私事ですが、今月で30歳になりました。

ニュースでは失われた30年と呼ばれる期間の中で人生のすべてを過ごしてきた世代というわけだが、その30年の中で日本で起こった一番のイノベーションは何か?と問われたら、皆さんは何を思い浮かべるだろうか?個人的には「日本発グローバルIPの誕生」と答える。さらに具体名を出すと「ポケモン」だ。

ポケモンは、世界中のキャラクター経済圏の中でも最も大きな$92B(約13兆円)というビジネスであり、20世紀におけるライセンスビジネスの最高傑作だ。ゲームとアニメのメディアミックスとして、このタイトルが現代日本のポップカルチャー海外浸透の扉を開けたと言っても過言ではない。

海外に行った際に日本人だと認知されると、以前は日本車や電化製品だったのが、今の時代だとポケモンを始めとするマンガ/アニメキャラなどの「IP」の名前が出てくることが多いのではないだろうか。

一方で、海外におけるマンガ・アニメの地位も安泰とは言えない状況だ。韓国からはウェブトゥーンという新たな潮流が生まれ、中国でも「原神」をはじめとしてオリジナルのIPが続々と生まれている。日本の産業の中で今後も数少ない外貨を稼げるだろうコンテンツ産業の持続的な成長のために、改めてこれからのグローバルIPの勝ち筋について考察してみる。


日本のコンテンツ産業の課題

海外マーケットに目を向けた時に、日本の高い職人性と言語バリアに守られた閉鎖性は「売り込みに行く」マーケットインの戦略と相性が悪い

30~70代の日本人男性という人種・言語・文化・性別までもが同質的な集団が創り上げたアニメが、全世界をくぎ付けにする作品になっていたりする。このような創作プロセスは、他国では類を見ない。一方で、よその国の真似をして創造的なチームを壊してしまっては本末転倒であり、その創作方法を変えるべきとは思わない。海外を目指すために変えるべきは「プロダクト」の作り方ではなく「マーケティング」である。

家電、自動車と同じように、家庭用ゲームなどハードウェアとコンテンツがセットになっていた時代は、ハードに強みを持つ日本にとって有利な環境だった。しかし、デジタルプラットフォーム時代において、世界市場の中で日本のマーケティング能力の低さは大きな課題となっている。

マンガ、アニメ、ゲームが海外市場を開拓する際の強い武器であることは自明。それらの各プロダクトをどのメディア・チャネルに繋ぎこみ、マーケティングによってプロダクトの潜在能力を拡張できるのかがカギとなる。

マンガ/アニメ/ゲーム…どのジャンルが本当に海外に受け入れられているのか?

「日本のコンテンツは世界を席巻している!」という報道はよく見るが、なぜならマンガ/アニメ/ゲームなどが「サブカルチャー」として一緒くたにされてしまっていて、実際の正確な輪郭を捉えていない。

実際にどのジャンルが世界の日本ファンに認められているのか?
日本のコンテンツの海外市場における分野別割合は以下の通り(ゲームはオンライン+ソフトの合計)。

[海外市場規模]
ゲーム 2.5兆円 > アニメ 1.4兆円 >>> 出版/マンガ 3,000億円

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000041.000007447.html

皆さんのイメージと比較して実態はいかがだろうか?
ちなみに日本のコンテンツの国内市場の分野別割合は以下の通り。

[国内市場規模]
ゲーム 2.0兆円 > アニメ 1.5兆円 > 出版/マンガ 7,000億円

各ジャンルを比較すると目につくのは、マンガの国内/海外の規模の差。海外のマンガ市場は間違いなく成長市場ではある。ただ、北米/中国/韓国などを合わせても3000億円と、国内の半分以下の数字。つまり、マンガ市場だけを見ると、まだ日本が野球でいう「メジャーリーグ」なのだ。

マンガの海外市場が(まだ)大きくない理由

日本のマンガ生産・消費市場は、世界で随一の文化インフラとして機能しており、他のアニメ・ゲーム市場の成長に大きく寄与しているのは間違いない。また、日本のマンガで育ち、マンガを愛する一個人としては今後もっと海外で読まれるようになってほしいし、産業として成長してほしい。ただ、現状だといくつかのハードルを乗り越える必要ががある。

①物理的な文章の読み方の違い

一番分かりやすいのは、右→左へ読む日本語と、左→右へ読む英語に代表されるインド・ヨーロッパ語族とのギャップだ。中韓の読者と違って、英語話者にとっては我々の想像以上に初めて読む時の違和感があるのではないだろうか。

②「子供/オタク」向けのイメージ

米国において「アメコミ」は子供向けのイメージが強い。歴史的な背景としては、1950年代に上院議会でコミックの残酷描写をめぐる論争があり、戦前には比較的自由だったストーリーに制限が設けられ、子供の模範になる社会的に正しいヒーローしか主人公にしなくなった。

そのため、米国では大人向けコミックというジャンルが成長せず、日本のように書店にマンガが置いてあることは稀で、欲しい人はアメコミ/フィギュアショップで買うのが一般的。高校生以上でコミックを読んでいればナード(日本でいうオタク)と呼ばれ、大人になり切れない大人と見なされる。

③海賊版の存在

日本のマンガにとって海外市場は海賊版との闘いであり、日本国内の7000億円の市場に対して、2000年代は海外で海賊版によって無料消費されている分は1兆円を超えたという。上記の②「子供/オタク」向けだからという理由で、コミックが書店にほぼ置かれてないため手に取れる機会が少なく、日本のマンガの版権を持つ海外の出版社は人気作品でなければ在庫リスクを恐れ、新しいマンガが陳列される機会はさらに減る。その負の循環の中で、海賊版マンガは成長してきた。

今後の「日本発グローバルIP」という山の登り方

海賊版問題に直面するマンガは「プロダクト」は良いのに、そのポテンシャルを最大化する最適なメディアに繋げられていない、まさに日本のコンテンツ産業における「マーケティング」の課題を象徴している。VC観点からもどのアプローチに可能性がありそうか一つずつ見ていきたい。

マンガ to アニメ/Netflix型

海外の書店にマンガが並んでない現状でも、日本コンテンツが伸びている理由はNetflix等の動画配信サービスにおけるアニメの配信の普及が大きい。ハリウッド等の実写作品と日本のアニメが並列でカタログ化されたUIによって、海外ユーザーとの接触頻度は確実に増えた。直近の「進撃の巨人」「スパイファミリー」等のヒット作品の成功要因であることは間違いない。

ちなみに、現在韓国語コンテンツを上回って最も需要が高いのは日本語コンテンツ=アニメであり、非英語コンテンツの中ではほぼ5割と最大シェアを占める。ライバルのDisney+のようなキラーコンテンツを自社で保有していないNetflixにとっても、プラットフォームの色がついていない日本のマンガ/アニメコンテンツは非常に重要な資産に今後なっていくだろう。

また、アニメが入口となり、出口としてマンガ市場が拡大するという循環も発生している。巣ごもり需要とアニメ配信による派生購入による日本のマンガが主な成長要因となり、米国のコミックス市場は2021年には前年の倍近い$2.1Bに成長した。

出所:エンタメビジネス全史

歴史を見ると、これまでもマンガ→アニメの順番で海外展開に成功した事例は多くある。古くはドラゴンボール、自分の年代だとワンピースやナルトなど。今後もマンガ→アニメの展開は一つの確立された王道的メディアミックス戦略として続くだろう。

もしスタートアップとして挑戦するなら、マンガとアニメの制作を一気通貫で行える垂直統合型の事業として、組織・オペレーション体制+それを支える資本力が必要となり、相応のハードルはある。(言い換えると、目指せNext 集英社!チャレンジする起業家の方がいればぜひお話ししたい)

SNS派生型(ex. ちいかわ)

よりライトに挑戦可能なモデルとしては、「ちいかわ」のようなSNS派生型のIPがある。SNS上で個人で活動するクリエイターのナガノ氏が生み出した作品は、20年1月に公式アカウント設立+連載スタート、21年2月に書籍リリース、22年4月にはアニメ化という怒涛の勢いでメディア展開された。

アニメ化前はまだ局所的でニッチな人気だったように思うが、個性的なキャラとストーリーがSNSの活用により、強固な「ファンダム(ファン集団)」を形成したからこそ、一定リスクの高いアニメ化にも踏み切れたと思われる。まだ海外展開に成功したモデルではないものの、Day1からSNS上で海外ファンをターゲットにして各種メディアミックスを狙うSNS派生型IPは今後増えそうだと感じる。

(より詳細を知りたい方はこちらのnoteがおすすめです👇)

Youtube派生型(ex.Vtuber)

この10年で最も伸びたプラットフォームの一つとしてYoutubeがあり、その中でVtuberは最も成功した日本発のグローバルコンテンツだ。一方で、Vtuberビジネスはまだ完全に持続可能なIPになっているとは言えない。"Vtuberの魂"(注:いわゆる「中の人」だが、VTuberは人間であるため、中の人という概念が存在しないため、魂と呼ばれる)が何らかの理由で炎上・引退してしまうと、事務所としてその穴を埋めることは難しい。

現状は中の人依存のビジネスだが、すでにゲームや音楽配信など多様なコンテンツにできる拡張性はあり、究極的にはその中身を「AI」にするといった手段で上記の課題を解ける可能性はある。すでに生成AI技術の発展の中で人に頼らない「AItuber」というジャンルが誕生しており、この領域における真のグローバルIP出現にも期待したい。

日本は「なにで」誇りの持てる国になりたいか?

歴史を振り返ると、国内では60年代はマンガ雑誌、70年代はテレビアニメ、80年代は家庭用ゲームという具合に時代ごとのメディアが移り変わっていき、そうして日本のエンタメ黄金期が創り上げられた。いつの時代においても大ヒットは生まれるが、国内市場が縮小する現在、この黄金期を取り戻すには、海外のユーザーに向けて広げる以外に方法はない。そのために日本のコンテンツ産業が今注力すべき流通チャネルはNetflixであり、SNSであり、Youtubeであり、今後はまた別の新たなプラットフォームかもしれない。

著名社会派ブロガーのちきりんさんは、Voicyで「なにで」誇りの持てる国になりたいですかという問いについて話している。アメリカなら軍事力、ヨーロッパであれば規範やルールといったものだろう。日本の場合は何か?という問いかけに対して、自分はやはりコンテンツだと答える。

完全な余談。
自分は2000年ごろにフランスに住んでいたことがある。家庭の教育方針で現地の言葉を全く話せない中で、現地の小学校に放り込まれた。転校して数ヶ月は友達もできた記憶がなく、右も左も分からず泣いていた。そんな中で救世主となったのは、冒頭にも出てきたポケモンカードだ。

第1次ポケカブームは日本国内にとどまらず、遠いフランスの地の子供たちをも魅了し、クラスでは毎日のようにカードの交換とレアカードの自慢大会が開かれた。そして自分がはるばる日本から持ってきたポケカセットは「本家」の日本語版という、学校では誰も持っていない圧倒的な希少性を持つプレミアカードたちであり、一躍注目の的となった。自分の文化を自分と異なる社会の人々に受容されることで、幼いながらに自国への愛国心を持つことや自身のアイデンティティの確立に大きく影響したと思う。

20数年ぶりに発掘した秘蔵コレクション。
初期の丸いピカ様、調べたらメルカリで1枚3~5万円で取引されてた…⚡

高い職人性によって創られた最高のプロダクトを、その時代によって変わる最適なチャネル/プラットフォームを使って届けられれば、次の世代もコンテンツで誇りを持てる国になれると思う。スタートアップエコシステムの端くれとしても、そんな国の未来に少しでも貢献できるような仕事をしていきたい。

参考文献


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