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次のSaaSトレンド!Slack、Zoomが実践する"Product-Led Growth"とは?

Slack、Zoom、Dropbox、SurveyMonkey、Docusign…

2018年から2019年にかけて上場した上記の米国の主要なSaaS企業には一つ特徴がある。それはどの企業も、昨年あたりから米国のSaaSスタートアップ界隈で広まっている"Product-Led Growth"という成長モデルを実践している点だ。

この概念を実際に実現するには様々なハードルをクリアする必要があるものの、日本のSaaS企業にとっても参考になる部分があると思うので、本記事で紹介したい。

ソフトウェアのGTM戦略の歴史

本題に入る前に、軽くソフトウェアの歴史についておさらいしたい。GTMとはGo-To-Marketの略だが、どのようなマーケ・営業によって顧客を獲得し、プロダクトをマーケットインさせるかをまとめたプランのことである。

GTM戦略は大きく分けて3つほどのトレンドがあった。

①2000年以前:CIO時代
・1990年代~2000年はソフトウェアの黎明期
・オンプレミスでの導入・運用が主流、ソフトウェアが複雑で数千万円以上するほど高価
・決裁者:Chief Information Officer(CIO)
・意思決定基準:そのプロダクトが自社の環境で使えるか
・GTM戦略:Sales-Led Growth=そのCIOを取り入るために豪華なディナーやゴルフに連れていくという古き良き顧客獲得手法
**
②2000~2010年代:Exec時代**
・2000年以降はクラウド化が進んだ時期
・SaaSが広まって一つのコードベースに集約、開発コストが大幅に下がった
・ソフトウェアを「買う」→「借りる」というユーザー行動変容が起こる
・決裁者:非技術系の幹部
・意思決定基準:買った場合のROIとチームのKPIが達成できるか
・GTM戦略:Marketing-Led Growth=インバウンドマーケによって見込み客の獲得、インサイドセールスで検討のサポートをする
**
③現在:End User時代**
・2010年以降はB2Bソフトウェアのコンシューマー化/民主化の時代
・API連携が進み、開発コストをさらなる低下で、顧客にとって新プロダクトを無料で試す機会が増加
・決裁者:エンドユーザー
・意思決定基準:購入者個人の生産性が上がるか
・GTM戦略:Product-Led Growth = 無料/安価なプロダクトで見込み客を獲得し、プロダクトの中で有料顧客を獲得する

簡単にまとめると、SaaSの普及による初期費用・単価の低下、B2Bソフトウェアのコンシューマー化、そしてトライアル中のユーザーの行動を追って分析が可能になったことにより、エンドユーザーに焦点を当てることがB2Bサービスにとって重要になった。Product-Led Growthはそうした時代の流れの中で生まれた。

Product-Led Growthとは?

Product-Led Growth(以降「PLG」)とは、OpenView Partners(米ベンチャーキャピタル)が提唱した考え方で、以下のように定義されている。

Product led growth is a go-to-market strategy that relies on product features & usage as the primary drivers of customer acquisition, retention and expansion.
PLGとは、プロダクトの機能やユーザーの利用頻度を顧客獲得、リテンション、アップセルの主要ドライバーとするGTM戦略。

これだけだと分かりにくいが、言い換えると「今までプロダクトの外部で行っていたマーケ・営業・CS活動をプロダクトの内部で完結させて、高い資本効率で事業をグロースさせましょう」ということだ。

下のイメージでより具体的に見てみる。

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通常のB2B SaaSだと、顧客が認知し、サイトを訪問してリード化、トライアル/フリーミアムを経て有料化というプロセスを通じてカスタマーになる。SalesforceのCRM(Customer Relationship Management)などに代表されるように、従来はプロダクトの「外部」で顧客獲得を行い、契約後に初めて顧客はプロダクトに触れるのが一般的だった。

それに対してPLG型SaaSだと、LEAD(リード化)とSIGNUP(トライアル/フリーミアム)が逆の順序になっている。つまり、先にトライアルなどで先にプロダクトを使ってもらってから、その中で特に利用頻度が高かったりする顧客をリード化する。まずプロダクトに触れてもらい、顧客獲得をプロダクトの「内部」で行うというのがPLGの基本的な考えだ。

Product-Led Growth企業の実績

OpenViewは次のような会社を代表的なPLG企業として挙げている。

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上場社数は2012年以降増え続けており、現在21社(そのうち12社が2018~2019年にかけて上場)。

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(出典:2019 EXPANSION SAAS BENCHMARKS

2018年の数字にはなるが、PLG実践企業の各種指標(成長率や売上マルチプル、粗利益率など)は一般的なSaaSのそれよりも高く、IPO後にも大きな成長を見込める。

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(出典:2018 EXPANSION SAAS BENCHMARKS

BoxとDropboxはクラウドストレージ事業を持つ2社で、名前も非常に似ているが、その中身の数字を見るとだいぶ様相は違う。売上規模はDropboxがBoxの2倍強だが、売上マルチプルの差によって時価総額は3倍以上の差がある。この差を作っているのはコスト構造の違いである。

Boxはエンタープライズ向けで営業人員を多く抱えているのに対して、DropboxはSMB中心でセルフサーブ式のため営業・マーケ費用がかからない。そのセルフサーブ式を可能にしているのがPLGである。

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(出典:BoxDropboxの各社IR資料)

Product-Led Growthの4つの柱

PLGの戦略は以下の4つの柱をもとに構築される。

① Product
② Marketing
③ Pricing
④ Sales/Customer Success

① Product

その名の通り、PLGにおいてプロダクトは会社が潜在的な顧客にリーチして契約に至るまでの各ステップで重要な役割を果たす。PLGのプロダクトは以下の原則に従って開発される。

● Start with real user pain
(ユーザーの真の課題の解決にまず取り組む)
● Deliver value immediately
(価値をすばやく届ける)
● Strip out the uncritical
(重要でない要素を取り除く)
● Make the product stick
(プロダクトを仕事に不可欠でスティッキー状態にする)

② Marketing

PLGの戦略を実践していて、顧客の本当の課題を解決するようなキラープロダクトを持っているのであれば、大規模な予算でキャンペーンを打つよりもより資本効率の高いマーケ戦略を次の原則をもとに考えたい。

● Enable virality, internally and externally
(内にも外にもバイラルを起こせるような仕掛けを作る)
● Target users, not just buyers
(買い手だけでなく、使い手もターゲットにする)
● Your product is a marketing channel
(プロダクトがマーケティングチャネルである)

マーケティングもプロダクトの内部で行い、顧客である会社の内外に広がっていく"バイラルネス"を仕組んで、決裁者である部長などの代わりに使い手であるエンドユーザーに焦点を当てるのがポイント。

以下のCalendlyが好例。取引先からミーティング設定のために空いているスロットをCalendlyで共有され、都合の良い日時を選択すると設定完了のページまで来る。ここで"Sign up for free Calendly page"というボタンが一番下部に設置されている。プロダクトのコアな機能であるミーティング設定をしているだけでマーケ費用をかけずに顧客ベースが広がっていくというわけだ。これが取引先ではなく他部署の同僚であれば社内での拡散に繋がる。

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③ Pricing

トライアルやフリーミアムなどを設定することの多いPLG企業にとってどのように収益化することに関係するプライシングは当然重要になる。

● Remove any barriers from initial usage
(初期利用のバリアを排除する)
● Enforce paywalls only after value
(価値を感じられた場合のみペイウォールが発動する仕組みに)
● Expand customers with scalable expansion paths
(スケーラブルな料金体系で顧客ベースを広げる)
● Use product data to upsell users
(プロダクトの利用データを活用してアップセルする)

トライアル・フリーミアムは必ずしもPLGの必要条件ではない。ただ、価値を感じられるタイミングで有料課金、アップセルに繋がる仕掛けを作れるかどうかはどのSaaS企業にとっても至上命題。

読者で利用されていてご存知の方も多いと思うが、Slackは以下のように利用量をもとに有料プランに導き、複数のワークスペースを利用するヘビーユーザーが欲しがるシングルサインオン(SSO)機能でアップセルを実現する。

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また、従来のB2B SaaSにおける営業が提案していくのと対照的に、PLGはプロダクトの利用データをもとにターゲット、タイミングを狙ってアップセルを促していくのが大きな特徴。この辺のメトリクスはとても興味深いので今後深掘りたい。

④ Sales/Customer Success

OpenViewがPLGを提唱し始めた時は、この4つ目の柱は"Sales"となっていたが、途中で"Customer Success"に変えている。先述の通り、PLGではサインアップ→リード化という順序をたどるため、顧客がプロダクトを利用し始めた後にセールスによる営業活動が始まる。一方で、顧客が有料プランに切り替えるのは初期利用で価値を感じるかどうかがカギになり、適切なサポートを行えるかというCSの活動が大事になるので、Sales/CS両方ともに関係する。

● Customer success is your north star
(カスタマーサクセスこそが顧客にとっての北極星である)
● Be a product evangelist
(誰もがプロダクトのエバンジェリストであれ)
● You empower self-service
(セルフサービスを可能にする設計を作る)
● Create opportunities for up-sell
(アップセルの機会を創出する)

カスタマーサクセスというと単価が高いエンタープライズ顧客にするようなハイタッチのイメージが強く、セルフサーブと一見相反するような概念に思える。しかし顧客は適切なタイミングで必要となるセルフサーブのリソースがあれば満足度は高いという調査結果が複数ある。

エンタープライズ向けSaaSには関係ない?

読者の中でSaaS事業に携わる方がいれば、ここまで読んでこう考えている方も多いのではないだろうか:

「うちはSlackやDropboxみたいな会社じゃない」
「自分のプロダクト/市場/ビジネスモデルには向かない」
「あくまでSMB向けのSaaSにしか関係ないのでは?」

OpenViewの投資先であるLegalTechのスタートアップ、Logikcullはエンタープライズ向けでありながら、PLGを実践して飛躍的に業績を伸ばした企業だ。彼らはeDiscovery(メールやSlack、その他のオフィスにある文書の大量のデータをアップロードして簡単に検索できる)ソフトウェアを提供している。

元々は顧客のハードドライブからデータを自社で抽出、処理するマネージドサービスの事業だったが、クラウド上で行えるプロセスであることに気づき、より収益性を高めるためにSaaSモデルに転換。最初はよりキャッシュフローが読みやすい、1年分の利用料を前払いする定額課金モデルを試した。しかしこの初期費用によって「データへのアクセス・検索が簡単にできる」という機能を顧客が価値と感じるまでの障壁ができてしまった。やむなく試行錯誤の末、プロジェクト数とデータの処理量の"Pay As You Go"(従量課金)モデルに着地した、というなかなか面白い変遷を経ている。

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料金プラン改定後、顧客ベースが年間で500%伸長し(前年の成長率は100%)、CSチームを3倍に拡大、顧客満足度スコアは97%を維持したという。

こうした事例をふまえると、エンタープライズ・SMB向けに限らずSaaS事業者であれば、PLGが適用できる部分があるかどうか考える価値はあるのではないだろうか。

最後に:Product-Led Growthの注意点

ここまでPLGの基礎となるコンセプトや事例を紹介してきた。しかしPLGにはもちろん向き不向きもあり、以下の条件を全てでなくともいくつか満たすことが必要となる。

● 機能・価値が分かりやすく、日々の業務を効率化できるプロダクト
● B2Cサービスのように、エンドユーザーが顧客ベースの主体
● 各ユーザーの対応コストが低く、価値を示す無料/安価なプランを提供できる
● ユーザー自身が購入者であるか、決裁者の意思決定に影響を及ぼせる

多くの企業はエンドユーザーを重視していると言うが、UIデザインやフリーミアム料金といった問題のごく一部しか考えていない場合も多い。こうした点は重要ではあるものの、氷山の一角である。今日、ソフトウェア企業として勝つためには、とにかくエンドユーザーのことを考えたプロダクトを開発し、そのエンドユーザーに経営者やマネージャーの承認なしで直接販売できるような方法を考える必要がある。

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