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人を好きになる瞬間

人を好きになる瞬間は、
本当に本当に些細なことだったりする。

きゅうりで切腹の人

学生時代、友人4人(男女2:2)でラウンドワンに行った。終電が無かったのでネカフェに行くことになった。

1人が地図アプリを見ながら、案内してくれたが、間違っているようで、何度も何度も同じ道をぐるぐるしてしまう。
私はふざけて、「次間違えたら、きゅうりで切腹しろよ〜」と言った。
そしたら、その男の子は「4時間はかかるよ〜」と言った。この瞬間、〈好き〉だと思った。
4時間も、あの柔らかくて先端が丸いきゅうりで死ぬことを頑張ってくれるのか…と、とても愛しい気持ちになった。

初めてちゃんと付き合った彼氏だった。
その人の家に家具はなくて、
テーブルもベットもなかった。
ピザの斜塔の絵が飾られていた。
ファミマで買った親子丼を一緒に床で食べた。

金木犀の時期には、〈金木犀が咲いているから今度公園に行こう〉と言ってくれた。

虹が出ていたら、〈虹見えたよ〜〉と写真を送ってくれた。

好きだったはずだったが、あまりに心が純粋で、綺麗で私がどんどん出来損ないでダメな人間のように感じてしまった。

3チャン見てた人

次にハマったダメな男の子は、新宿で行われた明大との合コンで出会った。
常にヘラヘラしていて、何も考えていないようで、誰よりも周りを見ている、そんな人だった。掴みどころがなくて、何を考えているのか分からなかった。
周りに言ったら絶対やめとけと言われたが、それでも大好きだった。

「俺なんかやめといた方がいいよ」とラッキーストライクを吸いながら言っていた。やめとけばよかった…

家で紅茶を飲んでいた時、
「おじゃる丸のさ、紅茶のパックいっぱい干して使う人知ってる?」と聞いたら、
「うすいさちよ、28歳、独身」と返ってきた。
やっぱり好きだと思った。そんなおじゃる丸に関して、情報を知ってると思わなかった。
おさるのジョージの歌に合いの手を入れてくれるところも好きだった。

「〇〇といると、自分がダメな人間に思えて辛い…どんどん自分のことが嫌になる…」と言われて別れた。
「別れたくない!」と言いたかったが、私はもう何も言えなかった。

その次にハマった男の子は、年下の塩顔イケメンだった。

馬を心配できる人

ラインで、「馬の血液って3兆あるらしいよ…!」と言ったら、「え、輸血とかどうするのかな?」と返ってきた。その瞬間、好きだと思った。馬の輸血のことまで考えられる人なんだ…優しいな…と思った。

いつも緑色のハイライトを吸っていた。
粘土遊びや散歩をよくした。
恐竜や星に詳しかった。
一緒に餃子を作ったり、
月島にもんじゃ焼きを食べに行った。
その人と過ごす時間が大好きだった。

事実は小説よりも奇なりというが…
現実でそれが起きてしまった…

文章を書いてるインスタのアカウントがバレた。その人のことを書いていたが、ブロックしていたのでバレるわけがないと思っていた。
まさかの友達からバレたらしい…
SNSは怖いと心の底から思った。

その人の前で、私は仕事も私生活もちゃんとしてるいい女を演じていた。
文章のせいで、部屋が汚いのも、自炊していないのも、メンヘラなことも、その人への気持ちも全てバレてしまった。

電話でそのことを知った時、顔から火が出そうなくらい恥ずかしくて消えたくなった。塵となって東京の夜空に消えてしまおうかと思った。

でも最後にちゃんとお別れを告げられたのでよかった。

ラッキーストライクとハイライトの人は、一目惚れだった。会った瞬間、周りの風景がボヤけた。その人以外の全ての人間が空気に思えた。ぶわっと風が吹いた。

ハイライトの人とバイバイしてから約半年が過ぎた。
あれから他の人とデートしてみたり、好きだと言ってもらえることもあるが、心が1ミリも動かない。
これからまた誰かを好きになれる気が1ミリもしない…

私は多分、友達から恋愛に発展することがない。
友達は友達、彼氏は彼氏、完全に別物なのだ。

また誰かを好きになってみたい…と思いながら、
常磐線に乗って東京に戻る。

昨日から実家で美味しいものを食べすぎたので、
胃がもたれて仕方がない。
ただアイスは別腹だ。
彼氏と友達の概念くらい別物だ。
アイスを買って帰ろうと思う。

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