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灼熱のうんこ
「あつっ。いたっ」頭と目がやけにいたい。
狙い撃ちされているみたいに、太陽の陽が容赦なくカンカンと私に照りつけてくる。
帽子をかぶり、UVカットのメガネをかけて日除け対策は万全のつもりではいたが、頭のてっぺんがドクドクと脈打って熱をもち、目にはキリキリと地面からの照り返しの光が容赦なくはいってきた。極めて不快な拷問だった。
「君、散々痛めつけて、最後は私を溶かすつもりだね。私の体調のことなんぞちっとも考えてくれていないし。ちょっとは遠慮して曇にかくれてくれないかな」
どうにもならない愚痴をぶつぶつと言いながら、自転車をこいでいた。
「カタン」
何かに乗り上げたような感触。そんなに大きなものではないようだけれど、嫌な予感がした。
今までの経験から、十中八九、自分が踏んだものが何かを、瞬時に脳が理解した。私の頭は、奴で間違いないといっているが、「いや、違うそんなわけがない。そうであってたまるものか」私の心は無性に脳に逆らった。なぜだがわからないけれど、とにかく違って欲しかった。太陽の暑さが私の頭を正常からほど遠くしていたせいかもしれない。
「踏んでしまったのは仕方がない。こうなったならばはっきりと確かめようではないか」サドルに腰掛けながら、両足のつま先で地面を蹴り数メートルバックした。
以前、さぞ上品な人が落としてしまったと思われる、お花畑のようなカラフルで美しいハンカチを自転車で踏んでしまったことがある。なので、落とし主には悪いが、うんこ以外の何かであって欲しいと祈った。
後ろ向きに進んでいる間、何台かの自転車が私の横を通り過ぎた。眉間にシワを寄せがちに私を見たり、私の視線の先を目で追いながら自転車で追い抜いたり、1人は私をとおに追い越したのに、わざわざ2回も振り返ったりした者もいた。
「短い足をばたつかせて、地面をけっている姿がそんなに滑稽かい。そうかいそうかい。それでも人になんと思われようとも私は白黒をはっきりとつけたいんだよ」「危ないから、前向いて走りなさいよ」
私に奇異な視線を投げつける何人かを、悪態をつきながら見送った。
「さあいよいよだ」
ものに近づくにつれ、期待からなのか、暑さのせいかわからないが、心臓が大げさにドキドキと動悸をもよおした。
それからすぐに本能と期待との争いに決着がついた。
「貴様か」
「やっぱりね。知ってたよ」悔し紛れにつぶやいた。
しかもそいつは情けなく干からびていて、犬やその他の動物のものではないような、誰かがわざと道ばたにしたのかもわからないフォルムで、結構な大物であった。
体全体で感じた通りだったのだ。私の心は一体全体、誰の何を踏んづけてしまっていたのなら満足だったのだろう。うんこを踏んだことよりも、なぜ負け戦を挑んだのか、未だに解せないでいる。全くの無駄足だった。
勝負はついたのに、心はまだ釈然としていなかった。しかし、先を急がなければならない。人を待たせていたのだ。待ち合わせに遅れてしまった言い訳に、うんこを踏んだからなんて言えようものか。
「時間がないのだ、さあ急げ」と自分を鼓舞した。素早く鞄の外ポケットから常備している消毒液を、シュシュっとタイヤのそれらしい箇所に吹きかけ、灼熱の中、また自転車を走らせた。
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