走り抜ける
走り抜ける
コクゾウムシが
米粒をくいあらしている
米びつをひ引っくり返し
太陽のもとで追い散らしたはずなのに
また繁殖している
米を磨ぐたびに
浮かび上がる米の虫
或る日
買物から帰ると
リュウが米びつを引っ張り出して
ユックンやフミクンにコクゾウムシを見せびらかしている
ぼくとここんなにようけ米ムシこうてんねんで
ダイもクミもユックンもフミクンも
キラキラした好奇心をコクゾウムシに走らせている
米ムシを飼ってるって
真っ赤に猛った心はとつぜん
リュウの首すじを掴まえ
背中といわず尻といわずうちすえている
虫のつかない米なんてもっとおそろしい
お義母さんの手づくりのありがたいお米
虫さえもありがたい
引きつったリュウの泣き声
ごめんなさい ごめんなさい
トンボやかぶと虫みたいによくも自慢できるね
こんな害虫を
こんな害虫を
打ちすえることに夢中になっている
ふうっとリュウが気を失った
脳で虫が消えた
リュウにしがみつく
ごめんなさい ごめんなさい
乳房に押しつけたちいさな鼻がかすかにピクついている
ああ 弱い子
戦いが起こったら一番に殺られるよ
殺られちまうよ リュウ 弱すぎるよ
リュウの頬っぺたに固まった涙のすじ
骨のように沈黙した子供たちの眼
わたしは絶対に行かせないよ
おまえたちを
戦いになんか
強い こんなに
母は強いんだから
コクゾウムシが床の上を
一直線に走り抜けて行く
詩誌「大阪」より (39)
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