「DAOに魅了された理由 - 新たな社会構造への夢」

2021年夏くらいに、本格的にDAOやブロックチェーンの可能性、思想、概念に没頭し始め、その革新的な可能性に年甲斐もなく興奮していたのを覚えています。
当時なぜDAOに魅了されたのか、そしてその魅力をどのように感じたのか。そのころを思い出しながら改めて、DAO設計について考えたいと思います。



伝統的な組織構造への疑問


私たちが働く伝統的な組織では、階層制度や中央集権的な意思決定が一般的です。しかし、このようなシステムは非効率や不公平を生み出していると感じており、クリエイティビティや自由度を制限していると感じていました。
その環境は、もはや社会人になる前から疑問を持っていたことで、学生企業を選択した大きな理由でもありました。

結果としては、起業しようが独立しようが、現代社会では上記のような構造による不合理で非効率と感じる場面ばかりを経験し、既存の社会システムでは理想的な人間関係や社会環境の実現は不可能だと諦め、早々に社会システムから離脱する方法だけを考えて生活するようになっていきました。



DAOとの出会い - 新しい可能性


そんな中、特になんの期待もせず余生を過ごしていたら、DAOの概念に出会うこととなりました。
DAOはブロックチェーン技術を基盤とし、中央集権的な管理者や幹部が存在しない組織形態。すべての決定は組織のメンバーによる投票で行われ、透明性と公平性が保たれる仕組み。この革新的なアイデアは、私が理想と考えていた取引や価値交換の仕組みに、限りなく近いもののように感じました。
約束事による強制力を行使することがビジネスであり、その環境下で多くの労働者や競合から多くの利益を獲得することに大半の労力を費やすより、自由に活動できる環境を提供して、生まれた価値をフェアに配分する取り組みは、これまでは小さい範囲でしか実現することができていなかった。
しかし、ブロックチェーンの技術を活用することによって、大規模かつスピーディに、理想の環境を広げられるかもしれない・・・と感じた時、年甲斐もなく興奮したのを今でも覚えています。



分散型の力


当時言われていたDAOの最大の特徴であり魅力は、その分散型の構造にあります。従来の組織では一部の権限者によってトップダウンで意思決定が行われるが、DAOでは全メンバーが等しく声を持つ可能性を有し、組織の方向性を決定していく。
これは、個々の意見や能力が最大限に尊重される環境を作り出し、真の意味での協働を可能にする。

役職は役割であり、どの立場の人間も対等である”
という理念を叩き込まれて経営者の道を歩んだ20代を思い出しました。

現実は、あまりにもその理念から掛け離れているように感じる企業や組織ほど、数字面での実績や評価をされている社会だと感じ、早々に見切りをつけて経済活動へのモチベーションを失った。
なのに、静かに過ごすことを選択して20年弱の時を経て、皮肉にも興奮を感じさせる思想や概念と、出会わされてしまった。
おそらく同世代の多くが、同じような感情を抱きながら、ブロックチェーンやDAOに対して、興奮を覚えたことと思います。



テクノロジーの進化


2021年当時、ブロックチェーン技術は急速に発展しており、暗号通貨だけでなく、スマートコントラクトやNFT、DiFiなど、様々な分野でその応用が進んでいました。
DAOはこの技術進化の中で圧倒的なインパクトを感じさせており、技術の発展スピードやビジネス展開の拡張力はもちろんのこと、働き方や組織の運営方法を根本から変える可能性を秘めていました。
DAOと呼ばれる組織から生み出される圧倒的な成長を見せつけたDiFiや、NFTを使ったチームビルディングに資金や人材が集まる過程は、当時、無限の可能性を感じさせてくれるものでした。



社会へのインパクト


DAOは、単なる技術的な進化以上のもの。
新しい社会的、経済的システムへの扉を開くものであり、資本主義や労働の概念を再定義するきっかけにもなる。
中央集権によるリソースの配分や意思決定の限界を超え、より民主的で公平な社会を実現する一歩となる。
そして、その環境によって生まれてくる自発的な活動や貢献が、中央集権的に強制されて行う労働効率をはるかに超え、スピードも質も凌駕したサービスやシステムが生まれて来る。

当時感じていた、労働や経済活動に対する非効率の代表
『本質的価値を生み出す活動ではない、意味不明な役務』

自発的かつ自律的に行動する集合体が、それらを否定してくれているようで爽快だった・・・と同時に、早々に諦めて挑戦をしなかった自分自身に、ちょっと寂しさを覚えたのも事実でした。



変化のない価値観と先行優位性


DAOという概念を学ぶ過程で、既存の価値観に変化をもたらし、よりフラットでフェアな環境に変化していくための魅力的な技術であると感じつつ、多くの場面では、既存の価値観に基づいた既得権益を獲得するための活動に終始していたNFT関連プロジェクト。

多くのプロジェクトは、投資価値があることをプロジェクトの中心価値として声高に掲げ、先行優位性を語ることで多くのユーザーを獲得する競争が世界中で行われていました。

新しい時代への移行期に、一番大きなきっかけと推進力を持つのは『メリット』。
そして現代社会におけるメリットは、ほぼ利益。

十分に理解しながら、その加熱ぶりは本来のDAO構築に不安をもたらす要因になりうると思いながら、まだに想像通りの環境となっていきました。

自分が感じた仮想通貨やトークン、ブロックチェーンがもたらす大きな変革は、『価値移動の革命と、それに伴う価値観の変化』にあった。

誰もが自由に、自分たちの価値基準となるものを生み出すことができ、その価値基準の中でコミュニティメンバーとともに快適な社会環境を醸成していくことができる。
それを可能にしたのが、ブロックチェーン技術を活用したトークン発行だったはず。

多くがビジネスや自己利益のために利用することは予想していたものの、その中でDAOというものの限界を感じさせられました。



組織の利益と個人の利益は、必ず相反する


有名なDAOプロジェクトでり、先駆者でもあった
Axie Infinity:アクシーインフィニティ

運営側が下した決断は、タイトル通りの理由だったと思います。

短期的に見た場合、全体にとっての計画的な最適解は、個人にとっての利得を先延ばしにし、多くの個人は手前の利得を得ようとする。
まさにゲーム理論の通り。

全体にとって、皆で最適だと決めた行動があったとしても、誰かが別の行動を起こした際には
『別の行動を起こした人間が得をする』

という環境になった時点で、個々人は絶対に『個の利益を優先する』となる。

これは自由を前提にした自律分散的活動を組織として設計した場合、必ず起こる現象であり、それを仕組み(スマートコントラクト)で制御することは難しい。
少なくとも現時点での複雑な社会環境に当てはめることは困難であり、実現は難しい。

組織の最適解を選択し、参加者全体のメリットの最大化を実現するためには
『中央集権的に、参加者全体のメリットを判断する存在が必要』

ここに至ったとき、組織の運営方法は既存組織と何も変わらないものだと考えられる。
しかしDAOには決定的に違うものが存在していました。



透明性が発揮する『抑止力』


現代社会で行われている様々な『ビジネス』と呼ばれている活動。
その多くは、情報の非対称性を利用して『安く仕入れて高く売る』という活動に、その大半のリソースを使われています。

商品やサービスの本質的な価値が生み出される過程は、途中経過で行われてる
『よくわかってない活動』
によって大きく数字的に膨らみ、経済指標上の売り上げや利益となっている。

これは決して、多くの『よくわかってない活動』に価値がない
ということでは断じてなく、『よくわかってない活動』に対して大多数の人が無関心である
ことに、その問題が潜んでいる。
また、その無関心を利用して、その環境を悪用する存在がゲーム理論よろしく多数派を占めている環境に問題がある。

しかし、ブロックチェーンという技術を活用した価値交換の仕組みは、その価値移動や取引履歴を、不特定多数の人が閲覧可能な状態とし、仮に無関心であって誰も見ないと思っても、
見ようと思えばだれでも見れる
という環境が、悪用する人たちの小さな抑止力となっていく。

隠し事ができず、何か問題が発生した場合に責任を転嫁するのが極めて難しい。これが透明性を担保したブロックチェーンの革新的に部分。

いかに責任やリスクから逃れ、権利や権限を得るか、という活動が現代社会の主要活動になっている中、パブリックブロックチェーンは

『本質的な価値を生み出す源泉』
をブロックに刻み
『その価値が、どのように価値交換されていったのか』
までを永続的にトレースできる公共財のようなデータベースとなっていく。

そして、その公共財のようなデータベースを維持するために、その機能を利用するすべての人が、その環境を支えあっていく組織こそDAOの目指すべき未来なのだと考えました。



投票によるDAO運営の限界を感じる


基本的な考え方は変わらないものの、2021年当時に感じていたDAOに対する無限の可能性は、その運営方法によって成長の限界や実現の限界を感じている2024年。

たくさんのプロジェクトが試行錯誤し、新たな仕組みや技術革新が進む中で感じているのは、意思決定におけるプロセスにあります。
中央集権的に意思決定する存在を、その組織に貢献している存在に委ねていき、自律的に成長させていく。

この仕組みには、リスクや貢献に対し、権限や報酬が分配されるフェアな仕組みである、と思います。しかし
・上記の『リスク』や『貢献』が何を指しているのか・・・
・上記の『権限』や『報酬』とのバランスはどのように算出するのか

現代社会におけるリスクとは、大きな数字の金銭を出したもの
貢献とは、組織に対してメリットを与えるために何らかの活動をしたもの

大雑把な定義ですが、遠からずだと思います。

そして、そのリスクに対する報酬や権限の取得率と、貢献に対する取得率のバランス調整を的確に行わない限り、結局は何も変わらないのではないか。

組織形態がDAOになろうが、扱う価値基準がドルや円など政府発行通貨からトークンに変化しようが、リスクを負い、現代社会で必要な活動費用を提供した存在が多くの権限を有し、その権限を発動して報酬の分配率を決定する仕組みであるうちは、

『資金提供者と活動者の、貢献度のバランス調整』

なくして、新たな構造は生まれてこないのではないか・・・
と考えています。


続く


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