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読了所感「宇宙の音楽を聴く」

 ちょっと興味深い本を少し前に読みましたので、紹介します。

 タイトルは「「宇宙の音楽」を聴く 指揮者の思考法」(伊藤 玲阿奈 著)です。宇宙の音楽を聴くために先人たちはどのようなアプローチを行ったのか、という話が書かれています。

 この本の筆者はオーケストラのプロの指揮者です。23歳の時に指揮者になると決心し、29歳で、たった6年でアメリカでプロデビューされています。(成人後から目指すという気迫が凄いです)
 そして数々の成功を収めたそうですが、その後、スランプや詐欺にあい、本人いわく「挫折」します。

 この本は、どうやって著者が挫折を乗り越えたのかという縦軸と、歴史を紐解き我々がどういうバッググラウンドを持って今に対峙しているのかを横軸に織りなして語られます。

 著者は音の全てを指揮下に置いて、曲に関する解釈を奏者に伝え表現方法を自分のイメージするものにする、というやり方で数々の成功を収めてきたそうです。しかし空回りする自分に気が付きます。
 それはもしかすると、自分の根底にある思想に問題があるのでは、と考え歴史を紐解いていきます。

 その自分の問題となる思想とは、明治維新から入ってきた近代西洋思想だではないかと疑います。近代西洋思想の問題点と、その原点となる西洋思想とは何か、そして東洋&インドの思想についての違いを詳しく調べ、著者は自分の道を探り始めます。

「音楽は神の世界から来た」

「神が神秘的な力で動かしているこの宇宙は、音楽で満ちあふれている」

 どの古代文明も人間には聞こえない宇宙の音楽を聞くために様々な模索を行うことで文化を築き上げてきました。
 しかしその「聴き方」は、西洋、古代中国、インドごとに大きく違ったそうです。
 詳しくは説明しませんが、本書では事細かに各文明の宇宙の音楽の聴き方の違いを述べられています。この違いがとても面白いです。興味がある方はぜひこの本を手に取っていただければと思います。

 そして、著者は同時代を生きた二人の音楽家を対比させます。西洋文明の作曲家ベートーベンと、インドの作曲家ティヤーガラージャです。

 神と一体化することだけを願ったティヤーガラージャと、自意識・個性を高め自分の作品を世に送り出したベートーベン、どちらが幸せだっただろうかと問います。

 我々は明治維新後、西洋文明を取り入れてきました。それは全てを公平に観察し、それぞれに名前を付け、誰でも同じように結果を再現できるように作られた世界です。とてつもなく強い文明なのです。しかし著者はその強い文明の恩恵を受けつつも、挫折します。
 そこからどのように著者が乗り越えていったのか、古代中国、インドの文明からどのような思想を得て、どのように進んでいこうとしているのか、最後に語られます。

 もしあなたが、チームワークやアンサンブルに悩んだり、孤独に苛まれたりしたとき、本書はそっと道を示してくれるように思います。


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