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『Stardew Valley』は ダメ人間へのラブソングだ

 2016年にSteamで登場して以来、各携帯機、コンシューマー、スマートフォンなどにも配信されるようになった名作『Stardew Valley』は、インディーゲーム内で最も成功したゲームのひとつだと言っても過言ではないだろう。
 Steamのレビューは発売当初から圧倒的好評を貫いており、カジュアルゲーマーからハードコアゲーマーまで満足させるこのゲームの魅力は簡単に語れるようなものではない。

  本作は元祖牧場経営シミュレーション『牧場物語』シリーズにインスパイアを受けた作品になっており、遊んでいくと『牧場物語 ハーベストムーン』からなる、ミネラルタウンリーズに特に影響を受けていることがわかる。

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本家も最近リメイクされましたね

 だが、このゲームはただの「牧場物語ライク」のゲームで収まる範疇のレベルではない作りこみで世に出てしまった。
 本家のシステムをうまく踏襲しつつも、「スプリンクラー」や「自動収穫機」などの本家にはないアイテムの追加によってさらに遊びやすく、本家での語り文句「のんびりスローライフ」を機械の力によってさらに余裕のあるものにしているように感じる。

 牧場のシステム以外にも様々な魅力的なシステムがたくさんあるのだが、今回自分が最も魅力的に感じるのは、「ペリカンタウンの住民たち」にあるだろう。
 

この町に「ダメ人間」は一人もいない

 この話をする前に、このゲームのあらすじを語らしてもらう。

 このゲームの主人公(プレイヤー)は、一流企業joja社で働くサラリーマン、毎日仕事に追われ、監視カメラ付きのオフィスで永遠に働かされる。
 そんな生活にウンザリした主人公は、昔祖父に貰った手紙を開く、そこには亡くなった祖父が暮らしていた農場の事が書かれており、主人公はその農場がある「ペリカンタウン」に引っ越し、新生活を始めるのだった。
 

主人公が引っ越してきたペリカンタウンは、「jojaマート」という中型商業施設が出店しており、かつての活気がなくなっていた。そんな中主人公が引っ越し、農場だけでなく、町ごと元気にしていくという流れのストーリーなのだ。

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これがjojaマート、ロゴや看板商品の「jojaコーラ」など
様々な企業をもじっている

 ここで注目したいのは、ペリカンタウンに住む住人達だ。
 本家『牧場物語』では、様々な住人達とおしゃべりやプレゼントをすることによって友好度を上げ、キャラクターによっては結婚もできるというのだが、この『Stardew Valley』でもそれができる。

 だが、主人公の住んでいるペリカンタウンに住む住人たちは、本家『牧場物語』にはないクセの強い住人ばかりなのである。
 異父兄妹や、秘密の恋愛、仕事を失い昼から酒をあおる母と、その娘などと少しワケありの家庭が多く、ほとんどの住人はどこかしら重い問題を抱えている。

 その中で自分が特に印象的に感じるキャラクターが「シェーン」だ。
 親戚の家に住む彼は、昼間はjojaマートで働き、夜中はずっと酒場で酒を飲んでおり、引っ越してきたばかりの主人公に対しとてもよそよそしい態度をするキャラクターなのだが、仲良くなるうちに、うつ病とアルコール依存症を患っている事が判明する。

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自分が一番最初に好感度MAXにしたキャラクターというのもあって
とっても好きなキャラです

 思わずうつむきたくなるような、重い設定のキャラクターだが、イベントを進めると彼はある「選択」をして、少しずつ変化をしていく。

 そう、『Stardew Valley』の舞台になっているペリカンタウンは、世間で言う所の「ダメ人間」が生活をする町なのだ。

 主人公もそうだ、「joja社」という世間一般で言う「一流企業」をやめ、田舎でなけなしの金を持ち、幸先の見えない生活をする。だがその「選択」が主人公にとって思わぬ転機になる。

 何故ならこの町は「どんな人でも受け入れる町」であるからだ。このゲームにおけるペリカンタウンは村と言っていい程少ない人数で生活しているが、俗に言う「ムラ社会」というモノは一切なく、みんなが平等であり、自然な環境でいられるのだ。

 先ほど言ったキャラクター以外にも、ホームレスや、独り身の詩人など世間一般では奇怪な目で見られる人たちも、「ペリカンタウンの住人たち」としてこのゲームに存在している。

 このペリカンタウンには「ダメ人間」なんて存在せず、一人の人間として平等に見ているからこそ、キャラクターひとりひとりの「選択」が非常に美しく見えるのだ。

 そんな町だからこそ、プレイヤーは居心地がよく、ずっといてしまうのだろう。

プレイヤーの「見え方」を変える

  「ペリカンタウンの住民たち」の魅力は、行動パターンにもある。

  当たり前のことだが、このゲームの住人は朝に起きて夜まで行動する。
 その行動の中にも様々な工夫がされている。
 病院でグチをいいつつも診察を受けるキャラクターや、浜辺でトレーニングに勤しむキャラクター、一定の日時に礼拝堂へ向かうキャラクターなどがいる。

 それは本家『牧場物語』でもそうなのだが、このゲームは行動がとても枝分かれしており、とても素晴らしく感じる。
「サム」の家族は軍に従軍する父親を待つ家庭で、母親と、弟の「ヴィンセント」と共に暮らしているキャラクターなのだが、たまにヴィンセントと共にビーチまで散歩していることから、彼が父親代わりであるという事がわかる。

 その後、彼の父親である「ケント」が帰ってくるのだが、父親が今までいなかった生活だったので、父親は居場所を探すように、家の外の木の前でずっと立っているのだ。
 父親がいなかった家庭に父が帰り、解決するところを、このゲームはそれで終わらせない繊細な描写を行う所にとても感銘を受けた。

  本家『牧場物語』のキャラクターパターンは基本的にシンプルで、どこか味気ないように感じてしまう。家兼仕事場にずっとおり、たまに数時間だけあるスポットに行く程度だ。
 キャラクターと仲良くなるとイベントで背景がわかるのだが、仲良くならない限りはただの「うごくおきもの」に近い存在なのである。

『Stardew Valley』の行動システムは、そこから更に複雑化しており、プレイヤーの見え方を考えさせるものまで用意されている。
 これはどちらかと言うと『どうぶつの森』に近いシステムなのではないかと自分は考える。

 『どうぶつの森』の住民たちの行動パターンに基本的な決まりはない、村中を歩き回って探す、住民はほかの住民と会話していたり、部屋のもようがえに悩んでいたりする。
 それはまさにプログラムのないプログラムなのだ。


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 ちなみに自分はアポロが好き。

一見すると『牧場物語』のようなイベントがないし、仲良くなっても引っ越しを止められるくらいの事しかできないのだが、仲良くなるということは住民に会いに行くという事で、そのたびに様々な行動をしている為、「なんでこれをしているんだろう」という疑問符がプレイヤーに生まれ、背景を作り出す。
 「うごくおきもの」から「ひとりのキャラクター」を行動によって自然に作り出しているのだ。

 その点で『Stardew Valley』は、『牧場物語』と『どうぶつの森』の中間点にあると考える。
 行動によってキャラクターの思いを考えさせ、イベントによってキャラクターの背景を掘り、そこから起こる行動の意図を変えさせることに成功しているのだ。

 プレイヤーに「見せる」だけでなく、プレイヤーの「見え方」を変えることによってキャラクターへの考えはまた違うものになっていく。
 そうすることによってゲームを遊べば遊ぶほど、「ペリカンタウンの住人たち」が全く違うものに見えてくるのだ。

非常に繊細な人の描き方

 ここまで読んでいけば、「ペリカンタウンの住人たち」の魅力はわかるだろう。だが、何故ここまで「人」の描き方がうまいのだろうか。

 それはこのゲームの開発者「ConcernedApe」こと「Eric Barone」氏自体が「住人たち」らしいからだろう。

 氏は大学を出て就職活動をしたものの、うまくいかず映画館でアルバイトする生活をしていた。そんな中就職活動に役立てるためにプログラミングの勉強代わりに手を付けたゲーム開発が、氏の人生を変えたのだ。



ConcernedApeのYoutubeチャンネルには
アルバイト中であろう過去のEric Barone氏が映っている

 世間的に言われる「ダメ人間」だった氏の人生は、今まで全く手を付けていなかったゲーム制作をするという「選択」をしたことによって、どんどん変化していったのだ。

  まさに「ペリカンタウンの住人たち」と一緒なのである。
 そんな氏が作るキャラクターたちはどこか影があってどこか温もりを持っていてとても人間らしいのだ。
 この作品は「Eric Barone」氏が送る「ダメ人間」へのラブソングなのだ。

  Eric Barone氏はたったひとりで4年間開発を続けこのゲームをリリースした。それだけ聞くとすごいことだが、これは氏でなければここまで成功しなかったであろうし、今もコンスタントにアップデートを続けるあたり、氏の作品への深い愛情なしではなし得ない話なのだ。

『Stardew Valley』と同じ世界観の 次回作も考えていると語る氏であるが、その作品も何かへのラブソングになるのだろうか。

 

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