見出し画像

沢渡あまねさんの「推される部署になろう」を読んでイケてない情シスを何とかしようとした話

はじめに

沢渡あまねさんの最新作「推される部署になろう」を読んだ。この本、全国の情シスをはじめとした管理部門、サポート部門、企画部門のマネージャー全員に読んで欲しい。そして実践して欲しい。インナーブランディング(組織の中のブランディング)の重要性に気付かず、閉鎖的で、情報発信しない組織になってしまっている部署は、経営層や事業部門からきっとこう思われているはず。
「情シスって何やっているの?何考えてるかわからんw」
「あの部署は言ってることに一貫性がない」
「あの部署の人とは一緒に仕事したくない。上手くいく気がしない」

本当にそれで良いの?

「推される部署」は単に人気がある部署になろうという意味ではない。部署の本来価値や存在意義を言語化し発信し行動する事が、組織を活性化し最終的には会社全体の生産性向上や組織変革につながると筆者が述べる通り、この本は、マネージャのための「組織変革の実践本」なのである。

2023年9月12日発売(インプレス社)

▶お前の本部はまるで伏魔殿だ

今の会社に転職した5年前、当時の上司が僕にそっと耳打ちした。

「俺たち情シス含めた本社部門は、事業部からこう呼ばれているんだ。
本社部門はまるで伏魔殿(ふくまでん)だ、とね」

伏魔殿(ふくまでん)
「一見平和そうだが、実は中で人間関係がドロドロして、いじめや足の引っ張り合いなどがある」
「何かをやるにも閉鎖的で、何を考えているのか全く分からない」

 出典:「伏魔殿」とは | 意味解説辞典 (meaning-dictionary.com)

正直ショックだった。当時僕はIT企業から事業会社の情シス部門に転職したばかり。情シスは全社のシステムの企画から運用を一手に引き受けている花形部署だと思っていたのだ。ところが実際は「何をしているのか分からない、イケてない部署」と見られていたのだった。


▶入社1週間後の決意表明

入社したばかりの僕は、当然ヒマなのでメンバーと一緒に事業部門のキーマンに挨拶回り。社内なのに名刺交換したりして「何か困り事があったら相談してくださいね」とアピール。「変な奴が来たなあ」と思われながら、とにかく顔を売った。そして1週間後、課長と部長と本部長に対して「自分がやりたいこと」を宣言した。そこには「この部署を何とかしないと何もできない」という危機感があった。

●来年、情報グループを課に格上げする
2年後、自分はその部署のマネージャになる
3年目までに守りを固めて「攻めのIT」に着手する
5年後、メンバーを10名以上に拡大して部に格上げする

もちろん実施内容にも言及し、守りのITでやるべき事と攻めのITでやるべき内容を時系列に図式化して説明した。そこには「組織の課題や雰囲気を変ええてみせる」という事までは書かなかったが、上司からは組織を変えてほしいという面でも期待を感じた(同時に「お手並み拝見」という厳しめの視線を浴びたことも事実であるが)


▶信頼残高マイナスからの出発

なぜ、1週間後にそんなことを宣言したのか。口には出さなかったものの以下のようなことに危機感を覚えていたからだ。「このままではダメだ。自部門の信頼残高を上げないと、部門に対して何も貢献できない」。では具体的に「マイナスの信頼残高」とはどういう状態だったのか。

 ▷マインド:SDTの蔓延

S(説教):とにかく説教が多い。メンバーの横に立ってマネージャが延々と持論を展開する場面をよく見かけた。
D(ダメ出し):とにかくまずダメ出しから始まる。褒めない。若手は離れるばかりだった。
T(他責):「部門の人間にやらされている」「上から降ってきたことだから仕方なくやっている」とにかく受け身で自分の意志や部門の方針はいつの間にかどこかに置き去りにされていた。

 ▷行動:3ナシ

  1. 発信ナシ
    本社部門はとにかく情報発信をしていなかった。掲示板と文書管理だけの昭和時代のようなイントラネットで通達だけが流されていた。社員に向かって「会社をこうしていこう!」とか「こんなことがあったよ!すごいね!」という社内への広報活動は月1回の「かわら版」という手作りの社内報だけであった。

  2. アイデアなし
    本社部門は、会社全体の企画機能であるにもかかわらず、アイデア出しやブレストがとにかく苦手な印象を受けた。その理由はすぐに分かった。「上記下達・上司絶対のヒエラルキー構造」がそこにはあった。会議の場で何か言おうものなら「お前に何がわかる」「俺のやり方に従え」言葉には発しないが、そんな同調圧力をメンバーは常に感じていたに違いない。

  3. 共有ナシ/共創ナシ
    「One Team」という言葉があるが、「No Team」はその逆。言い換えると「情報共有を全くしない一人親方状態」を指す。毎朝儀式のように行られる朝礼はあるが、実際のタスクは共有されておらず、誰が何をいつまでにやらないといけないかは把握されていなかった。なので何かあると、当時のマネージャが火が付いたように騒ぎ出す。「どうなってる?誰がやってる?なんでやってないの?」いつもどこかでこんな騒動が沸き起っていた。


▶「推される部署」になるために

 ▷SDTをぶっ壊す!

情シスメンバーのマインド面を変えるために色々やったが、昔から染みついた考え方や思考は半年や1年では変わらなかった。そこで考えたのが「新メンバーの受け入れ」と「外部との交流」だ。

中途採用で新たにメンバーを迎え入れた事をきっかけに、部署の雰囲気が良い方向に変わることがある。新メンバーの明るいキャラクターを利用して職場の雰囲気を良い方向に持っていくのだ。中途採用や人事とコラボした「社内FA制度」で若手人材を受け入れ、その新しいメンバーと一緒に職場の雰囲気を変えていく取り組みをやった。但しこの取り組み、最初から計画していたことではなく雑談から生まれたアイデアがたまたま人事側の思惑と合致したことがきっかけで実現した。やりたいことや想いを普段から発信することは本当に大事。

また「外部企業との交流」を積極的に行い「うちの会社の常識は、外の世界では非常識」を肌で感じてもらった。具体的には「システムの内製化からの脱却」を図り、「システム開発の外注化、サービス利用」へと方向転換をした。ITサービス企業と接点を持ち最先端のSaaSサービスの紹介を受けたり、システム開発会社と一緒に仕事を進めるやり方に変えたことで情シスらしく「越境思考」を身につけていくことができた。

+++++++++++

 ▷3ナシ行動を変えよう!

「発信ナシ」について、まず最初に着手したのは昭和時代のイントラネットのリニューアルだった。ShareaPointOnlineを使いとにかく「情報発信をしたくなる・社員が見たくなる社内ポータル」に仕立てた。最初は発信するニュースが少なかったが、広報機能を立ち上げ、情報発信量を増やすすことで確実に「顔が見えない部署」から脱却するきっかけになったと思う。あくまでSharePointは、ツールであり手段に過ぎない。やりたかったのは、情報を発信することで「情報発信するところに人は集まり」「顔が見える部署になる」ことだった。本書にも書かれている、推される部署になるための重要なキーワードだ。

+++++++++++


「アイデアなし」については、とにかく情シス内では役職や在籍年数関係なくフラットに意見を言える雰囲気作りを心掛けた。具体的には「SCRUM」というアジャイル開発手法を使って情シスで実験プロジェクトをやってみることで、メンバーが自ら考えて、アイデアを出し、それを議論するという行動を経験してもらった。あくまで「SCRUM」は手法であり、本当の狙いは「推される部署」に必要な「良い対話ができる人たちになる」ための経験を積んでもらう事だった。

+++++++++++


「共有ナシ」については、情シスメンバー全員に対して「我々のお客様は誰?」ということを意識させることからスタートした。「事業部の人たちはお客様なので、ITが詳しくないことは当然。自分たちが情報共有できていないために、問い合わせを放置したり、人によって対応が違うのは自分たちの存在価値を下げている。だから情報共有は大事なんだ」と言い続けた。具体的には、Backlogというツールを導入し情シスが受けた問い合わせや依頼事項、クレームを登録して毎日メンバーで対応状況を確認するよう習慣付けた。この情報共有と助け合い(ヘルプシーキング)は、僕が一番こだわってやり続けたことで、その後、Teamsを使った情報共有、さらにはヘルプデスクチームの立ち上げへと発展している。


おわりに

沢渡あまねさんの「推される部署」になろうには、「どうせ俺らは変われないよ」という組織に蔓延する自虐的でネガティブな思考を払拭するための具体的な手法と事例が詰め込まれている。一言で表すと「組織変革のためのブランドマネジメントの教科書」だ。この言葉でピンとこない人は、本書の第5章から読んで欲しい。インナーブランディングを成功させた企業や部門の事例が紹介されているので、是非参考にして欲しい。

クックマート株式会社 「ミッション・ビジョン・バリューの策定」
ヤマハ発動機株式会社 「ミッション・ビジョン・バリューの策定」
三重県    「あったかいDX」
三立木材株式会社  「ブランディングプロジェクト」
オルガノ株式会社  「2030年 情シス部門の未来予想」
TIS株式会社  「自部署のミッション策定」
SONPOシステムズ労働組合  「労働組合のリ・ブランディング」
富士通株式会社 「やわデザ コミュニティ」
ヤマハ株式会社 「ブランドワークショップ」

(おわり)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?