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AIを学ぶ人向けの著作権法入門(初級)

 知財と産業政策(AI、EV、半導体 etc…)を勉強している東大医学部生です。誰が読んでもわかりやすいような知財の情報を発信していきます。
 知的財産権は、AI、経済安保、研究、投資など何を学ぶ上でも基礎となる政治・経済活動の源泉の一つです。知財に通ずるものは産業に通ず。楽しく知識をつけていきましょう。

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こんな人におすすめ!
「AIをビジネスとして活用したいが、権利関係が今ひとつわからない。」
「日本のマンガやアニメはちゃんと守られるの?」

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著作権法の概観

著作権法の目的と保護範囲

 著作権法は、適切な創作表現の保護と利用環境の整備を通した「文化の発達」を目的としています。
 自分が頑張って作ったものが全く保護されずに利用されてしまっては、本来その作品から得られるはずの利益(お金に限らず名誉なども)が不当に搾取され、創作意欲が損なわれてしまいます。一方、過剰に保護されては、新しい作品を作るたびに「著作権侵害!」という話になり、これはこれで創作活動を行えません。

 文化が正しく発展する状況を作り出すには、作品の保護の手厚さのバランスを取っていくことが重要なのです!著作権法の1番の目的は「文化の発展」であるという点は、AIとの関係性を考える上でも根幹となるのでしっかりと覚えましょう。

この法律は、著作物 [中略] に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする

著作権法第1条

著作物とは?

 著作権法で保護されるのは、著作権法上の「著作物」に該当する場合のみです。どのような作品であっても著作物に該当するわけではなく、すべての作品に著作権が及んで保護されるわけではありません。

 著作権法上の「著作物」とは、以下の要素を満たすものを指します。
思想又は感情(=人間の精神活動)をベースとすること。
② ①に基づいた創作的表現であること。
③ 文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものであること。

著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

著作権法第2条1項

 これだけ書いてあってもわからないと思うので、簡単に咀嚼します。

①「思想又は感情」に該当するか
 思想といっても、カントの『純粋理性批判』のようなものを指しているのではありません。あくまで「人間の精神活動に基づくもの」程度の意味です。例えば、「スカイツリーは634m」といった単なる事実やデータは該当しません。
 尤も、「思想又は感情」には比較的広い範囲のものが該当するので、ニュース記事は事実の報道であっても、それを記者が精神活動を通して記事に仕上げたものであるため、「思想又は感情」に該当するとされています。

「創作的表現」に該当するか
 
「創作性」はわかりやすいと思います。一切の創意工夫を加えていないただの模倣品や、誰が表現しても同じものになるようなありふれたものは相違生が否定されます。後者については、例えば短い標語のようなものは、分野や語呂の観点から創作の幅が小さく、創作性が否定される場合もあります。
 一方の「表現」については、著作権法を理解する上で極めて奥が深いないようなので、詳細は中級に投げますが、ここでは、「著作権法では『表現』のみが保護され、それに至る前の『アイデア』は保護されない」(アイデア・表現二分論)とだけ覚えておいてください。

③「文芸、学術、美術又は音楽の範囲」に該当するか
 
これは単純です。著作権法は、対企業で産業上の利益を保護する特許権などの産業財産権(工業所有権)とは目的を異にするため、工業製品のようなものは保護されません。こういったものは、産業財産権で保護されるという構図になっています。

 大体のケースで3点目は明らかであるため、ほとんどの場合では①「思想又は感情」と②「創作的表現」に該当するかが問題となります。

著作権の発生

 特許権などの産業財産権は、国指定の機関に登録することで効果を持ちます。一方、著作権は、日本においては(この点については中級で解説します)、著作物を作成した時点で自動的に発生します。特段の申請を必要としないこの方式を、「無方式主義」と呼びます。
 もし著作権法上の「著作物」に該当しているのであれば、誰でも著作権法上の「著作者」になれるのです。

著作者 著作物を創作する者をいう。

著作権法第2条1項2号

著作権の侵害

 著作権が侵害されたとみなされたのはどのような場合でしょうか。原則として、①類似性と②依拠性が認められたときに、著作権が侵害されたと認定されます。

①類似性
 著作権の侵害となるには、ある著作物が元の著作物に完全に同一である必要はなく、類似性があればよい。では、どの程度似ていたら「類似性」があると判断されるのか。この点については、表現上の本質的な特徴を直接感得できるか否かという基準が判示されている。

 例えば、毛筆の書道作品として「知的財産権」と書かれたものがあったとして、手元の紙に硬筆でラフな書写しを行い、それを添付して発表したとして、書道作品は運筆の抑揚や墨の濃淡等による表現が本質なのであって、このようなラフ画では元の書の本質は感得できないと判断される可能性が高いです。
 その他の事例は、後述の判例記事を参照してみてください(中級レベル)。

(別記事挿入予定)

②依拠性
 
全くの偶然の結果、似ている作品を作ってしまった場合は、著作権侵害とはなりません。これは、著作権が無方式主義を採用するため、すべての著作物の存在を知った上で創作を行うことが期待しづらく、類似している作品が偶然にも生まれることは容易に予想されるからです。類似性のみで著作権侵害を認めてしまうと、表現の幅が不当に狭くなり、文化の発展に逆行してしまうことが考えられます。
 そこで、著作権侵害の要件として、類似性以外に依拠性を必要としています。平たくいえば、「その類似性は模倣の結果によるものなのか?」によって判断が分かれるということです。元の著作物を利用した、つまり元の著作物を認知しており、それを基にして類似した著作物を創作したときに初めて、著作権の侵害が認められるということです。

著作権の制限(30条の4を中心に)

 著作権法では、著作権が及ばない場合を列挙し、その場合に該当するときは、一見著作権侵害に見えても、その項目に該当する利用行為には著作権による保護が及ばず、著作権法上許容されることになっています。この場合に該当するのは、私的に引用する場合(自分用の学習ノートに詩を書き写すなど)等です。
 そして、AIに関連する法条に、著作権法30条の4があります。これは、AIと著作権の関係を考える上でトップクラスに重要なものです。もちろん条文を覚える必要はありませんが、①技術開発中の試験的な実装の上で必要な利用、②情報解析のための利用、③コンピュータでの内部処理のための利用といった事例に代表される、著作物の思想又は感情を享受する目的でない利用は著作権の制限を受けます。つまり、鑑賞目的でない著作物の利用については必要な範囲で許容されるということです。この条文は、IT化が意識された平成30年の著作権法改正で追加されました。
 これは、著作権者が著作物を通して得る利益とは、主に鑑賞のための展示や著作物の販売によって得るものであるため、鑑賞のために用いるのでなければ、著作権者の利益を害するものではないとの考えによるものです。もちろん、行きすぎた利用を防ぐために但し書きがありますが、とはいえ非享受目的の利用であれば概ね許容されます。

著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
二 情報解析[中略]の用に供する場合
三 [前略] 著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用[中略]に供する場合

著作権法30条の4

生成AIと著作権の関係

生成AIにデータを学習させるのはOK?

 OpenAI社のGPTや、Anthropic社のClaudeをはじめとしたAIモデルは、大規模なデータを学習しています。学習に用いたパラメータ数が大きければ大きいほど性能が良くなる"Scaling Law"はほぼ確立されているので(尤も予て小規模な高性能モデルの模索も始まってはいますが)、さまざまな分野のデータを大規模に用いる方式は今後も続いていくことでしょう。
 そうした中、アニメ・マンガ等のサブカルで立国を目指している日本の国民としては、学習にあたっての著作権の扱いは気になってやみません。AIの学習については、平成30年の著作権法改正や、令和6年の文科省の取りまとめにより、ある程度の方向性が決まっているため、本項ではその内容を要旨のみ簡潔にまとめます(なお、詳細は中級を参照してください。)。

 結論から述べると、著作物をAIの学習に使うことは、大部分で許容されます。これは、前述の30条の4によるところが大きいです(もちろん、47条の1のような規定も影響してきますが、ここでは割愛します。詳細は中級まで。)。わざわざ30条の4の2号で、情報解析のための利用を明示して許容しているため、AIの学習においても、この学習行為が認められるというのは自然な発想でしょう。
 ただし、特定のクリエイターの作品を集中的に学習させ、その作風を模倣した作品を生成させるためにデータを作成する行為は、享受目的が併存し、30条の4の適用対象外である(=元著作物が著作権による保護を受ける)と考えられます。

 なお、この点については、AIと著作権の関係のコアとなる部分なので、さまざまなケーススタディや争いを呼ぶ論点があります。こちらについては中級で触れる予定なので、そちらを参照してください。

生成AIで作った文章には著作権が生じる?

 前述の通り、原則、著作権法上の著作物は人間(法律用語で"自然人"といいます)によって作成されることを前提としているため、生成AIが生成した創作物には、著作権が発生しません。ただし、プロンプトエンジニアリングや、生成AIの補助的な利用などがあった創作物(ベタ塗りだけAIが自動で行ったマンガなど)等、判断が難しいものもあります。
 結論としては、ケースバイケースなのですが、どの程度で判断されるのでしょう。

Promptingに対しての考え方
 生成AIに対して何らかの指示を出すことで、生成AIが特定の画像や文章を作成しますが、このPromptingによる指示出しは、著作権法上の「創作」行為に当たるのでしょうか。
 原則として、Prompt入力は、イラストや文章のアイデアを提供するにとどまり、そのアイデアに基づいて生成AIが表現するという形式を取ります。そのため、Promptの入力があっても、人間による創作表現を認めないのが基本です。ただし、Promptの内容が表現に至ると認められるまで具体的で、記述したPromptに近づけるために何度も生成しているといった場合には、人間による創作活動が認められ、著作権法上の著作物性を認める判断となることもあり得るとされています。

部分的な人の関与についての考え方
 人間がAI生成物に創作的表現と言える加筆修正を加えた部分、並びに生成AIによって加筆修正を加えてもらった人間の創作的表現は、通常、人間が創作した部分に限って著作物性が認められると考えられます。

 以上が生成AIと著作権の関係性の大原則です。ただし、これらにも、これらの他にも、数多くの難しい論点があります。それらについては、中級で解説しているため、そちらを参照してください。

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