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「腐敗」と「発酵」の分かれ道はどこに?

とまりのつけもの、店長の岸田です。

我が家には9歳の小学生男子と2歳になる女の子がいます。
彼らは、納豆とヨーグルト、チーズが大好き! 特に小学生のお兄ちゃんは「体の80%は納豆でできている」と自分で言うくらいに納豆大好きで、食卓に納豆が添えられてないと「え?ないの?」とクレームが届きます。

2人とも乳製品多めではありますが、とても健康的に発酵食品を取り入れてくれて母としては喜んでいたのですが……先日、お兄ちゃんが「カビチーズ」の存在を知りました。

そこから、「納豆もチーズも腐っているの???」「細菌なの??」と混乱が、、、。

小さな子供からなじみがあるけど、発酵食品チーズ。ここから息子の疑問は始まりました

たしかに「菌」なのかと言われると、チーズは乳酸菌の固まりを原料の乳などに加えて乳酸発酵させるし、納豆菌とは細菌の一種で、納豆をつくるのに欠かせないもの。しかも、納豆菌は身近な田んぼや畑、枯れ草に存在し、とりわけ稲わらに多く生息しています。

さてさて、どう説明ししたら納得しつつ、好きでいてくれるのか……。

正しく伝えようと思うと、煮大豆に納豆菌を加え、発酵の過程でたんぱく質を分解しておいしさの成分アミノ酸を生成し、納豆ができます。この時に加える納豆菌の種類によってネバネバ具合や味、においなど仕上がる納豆の特性が変わっていく。

つまりこの工程が、納豆菌の発酵の流れとなるのですが、、、小学生に「発酵」とか「微生物」「酵母」といっても通用しません。しかもコロナ禍で子ども達にとって細菌とか微生物=コロナなどのイメージが強いのも現代の子ならでは。細菌=悪いものと植え付けられしまっては納豆が嫌になってしまうかも。。。

と悩んだ末に、

「納豆菌という菌が、大豆のタンパク質について増えていくと、アミノ酸という旨味のもとが増えていって納豆になるんだよ」

と伝えました。

どこまで理解してくれたのかは分かりませんが、多少は納得してくれた様子。とはいえ、この辺りは大人でも分かりにくい部分ですよね。

でも、発酵とつけものは切っても切れない大事な関係です。つけもの屋としては、なるべく分かりやすく説明しなくては! 

というわけで、今回は「腐敗」と「発酵」とテーマに話をしてみたいと思います。


「腐敗=くさる」と「発酵」の違いから。

そもそも「発酵」は、たんぱく質や炭水化物など(有機化合物)が、カビや酵母、細菌などの微生物の働きによって分解される過程の中で人間にとって有益な変化をもたらす状態のことです。

息子も混乱した、発酵という状態、工程は「腐っている」のかどうか。まずは、ここから紐解いていきましょう。

日本だけでなく、もちろん世界中に発酵食品はあります

先程のとおり、微生物が有機化合物を分解してくれるのですが、その時に色んな副産物も作り出してくれます。

これを小学生でもわかるように説明するには、彼らの大好きな牛乳が一番分かりやすいようです。

ヨーグルトについて見てみると。

牛乳に含まれている乳糖に乳酸菌が作用して、乳酸が作られることでヨーグルトに。

小学生に理解してもらうには身近な牛乳やヨーグルトが一番なようです

これを難しい表現をすると、、、

乳酸菌の出す乳酸によって牛乳が酸性化することによって、牛乳にコロイド状に溶けていたカゼインというタンパク質が凝固した状態になる。そうです。詳しいことはヨーグルト屋さんから。

実際にヨーグルトのパッケージの表示を見ると「発酵乳」と表記されています。

発酵乳というのは、牛乳を乳酸菌や酵母の働きで発酵させたもの。発酵乳はとても古くからある食べ物で、ルーツは数千年前にさかのぼるそうですよ。

たしかに牛以外にもヤギ、羊、水牛の乳を原料にしたものも聞いたことありますよね。つけもの同様に、世界各地の風土に根ざしたいろいろな発酵乳が作られてきたんですね。

ちなみに「ヨーグルト」はこうした発酵乳の一種で、古代トルコ語が語源といわれています。1908年にロシア(当時)の生物学者メチニコフ(後にノーベル賞を受賞)が発表した「ヨーグルトによる長寿説」によりその名は世界的に広く知られるようになり、日本でも発酵乳=ヨーグルトとして親しまれてきたそうです。

話を戻すと、テレビCMでもよく聞くように「乳酸菌が腸内環境を整えてくれる」という人間の体にとって良い働きをしてくれるから、ヨーグルトになる現象は「発酵」

逆に牛乳に「腐敗菌」がつくと嫌なにおいがして飲めなくなる、間違って飲んだら体を壊してしまう有害な状態になるから、これは「腐敗=腐っている」

「え?判断基準ってそれ?」


これが小学生の素直な感想です。

そうです。

発酵と腐敗の違いは、人間の一方的な価値観でしかないのです!!!


気になる「納豆」問題。

「納豆は初めから腐っているから、賞味期限は気にしなくても大丈夫」と耳にしたことないですか? 特に嫌いな人からしたら、匂いは完全アウトな香りですよね。

子供たちが大好きな納豆。納豆菌の活躍がないとこの旨味は出ないのです

先述のとおり、まさに、微生物の力によって物質が変化して納豆はできます。

それが人間にとって有益なものであれば発酵、有害なものであれば腐敗ということになりますが、実は納豆はちょっと曖昧な存在だったりするんですよね。

納豆の香りを「風味や旨みが増す」と取れば有益な、これ以上ない旨味です。息子たちは日々この旨味を堪能しています。

ただこの香りを「臭い」と感じる人はどうでしょうか?

日本人の中でも嗜好によって違いがあるのですから、海外の方から見たら日本の発酵食品が苦手な方も少なくありません。体にとっていいのか悪いのかという以前に、食べられない。つまり、有害と捉える人には「腐敗」とも言えるわけで。

「発酵」と「腐敗」は、文化の違い、価値観の違いで相容れない部分もあり、絶対的な線引きが難しい曖昧なものなのです。


この一連の説明でなんとなーく納得して小学生の息子は今日も妹と美味しく納豆を食べています。

「味の違いは菌の違いかな?」
「乳酸菌はえらいな」

なんて言いながら。

いや、納豆は納豆菌ですよ、、、なんて突っ込みしたいけど話がややこしくなりそうなので、また次の機会に教えようと思います。

ちなみに「乳酸菌」とは、養分として摂った糖の50%以上を乳酸として出す菌の総称です。その種類は多く、乳酸菌は属(通常菌には属と種の学名で分類)だけで34種くらいあります。私たち日本人は古くから味噌や醤油などの発酵食品を作っていますが、そのほとんどに乳酸菌が使われていて、逆に乳酸菌を使っていない発酵食品は、酢と納豆くらいなんですよ。

そう考えると、発酵食品って立派な日本文化ですよね。

農林水産省のHPで、鳥取の発酵食品が紹介されていたので、こちらでも。

スルメの麹漬け(鳥取県/中国地方)
今では鳥取県の土産物として知られ、全国で食べられるようになりました。麹独特の甘さとうま味が好まれています。ごはんやお茶漬け、酒のお供の他、調味料としても重宝します。

生イカではなく、干して臭みが抜け適度な塩気を含んだスルメイカを使うのが特徴。刻んで麹に漬けておくと味が染み込んで柔らかくなり、うま味が増します。食材が手に入りにくくなる冬に向けて各家庭で作られてきた保存食です。

出典:農林水産省HP

発酵食品は日本の各地で皆さんの身の回りにあふれていますね。
スルメの麹漬けもそのひとつ。こちらも鳥取以外の地域では珍しい発酵食品です。

いか麹漬けは、スルメイカの旨さに驚いていただきたい。山陰の味です。


お米に実に合うんですよ、これが。お酒好きにもたまらない味です。とまりのつけものでもお買い求めいただけますので、ぜひお試しくださいね!


発酵の話はいくらでもできてしまいますが、今日はこの辺りで。またどこかでじっくり考えてみたいと思います。

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