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絆王子を作った理由きっかけby八柳


『絆王子と無限の一歩』を作ったきっかけ。

不登校を題材に取材を元に製作した『絆王子と無限の一歩』
舞台版の脚本、映画版の原作・企画の八柳です。

2023年から映画の試写会が始まり、ありがたいことに映画祭に読んでいただいたり受賞をさせていただいた今作。

もともとは演劇作品で、2013年に僕が通信制高校の教員だったときに初舞台。生徒たちの体験談や、保護者会やフリースクールで取材を重ねて脚本を書いた作品だ。
映画版の監督の竹田和哲監督は今となっては舞台・ドラマに出演したり映像クリエーターろして活動しているが、当時はまだ受付に手伝いに来てくれた高校生だった。(彼の演劇部時代のことは別のインタビュー記事で)

不登校についての作品を書いているが、僕自身は不登校経験はない。
それでも現在は放課後等デイサービスで発達障害や不登校の子どもと関り、作品を作り続けているきっかけがある。


学校に行かないと未来はないと思っていた中学・高校時代

僕は学歴に厳しい家に育った。
親戚も高学歴が多く、高校生の時も所謂なんちゃって進学校で偏差値の高い大学に生徒を多く出すことに重きを置いていたこともあり、
中堅の大学に行かないと働くところがないという話を真に受けていた。

36歳になった今でも中学時代のクラスメートに道端で話しかけられるとその場で体が硬直して数週間、動悸が激しくなるような中学時代を過ごしてきたが胃腸炎で入院したくらいで基本的には学校を休んだことはない。

高校一年生のときに
仲良かった中学の後輩が不登校になったという話を聴いた。
また高校の同級生が不登校になって学校を辞めた。
僕にとってはそれがとんでもなく恐ろしい行為で理解できなかった。
学校に行けるようしないとと余計なことを言って後輩を傷つけてしまった。

実際のイメージと違った不登校の子どもたち

「どう接することが正しかったのだろう」
その答えを求めて、大学生4回生のとき不登校の子どもたちが通う
地元の教育支援センター(当時は適応指導教室)でボランティアスタッフを始めた。
吹田市には当時2つの教育支援センターがあり集団生活を中心とした「光の森」、個別指導を中心とした「学びの森」があり、児童の特性に合わせた施設がそれぞれあることは当時だと最先端だと思える。(現在は両方閉館)
その中の「光の森」という方へ行っていた。北千里の自然豊かな公園の中にあり1階建ての小さな学び舎と体育館。子どもがのびのび学ぶにはとてもいい環境だ。
主に中学生が利用している。

ここに来る前は不登校の子どもたちは精神的に病んでいて、引きこもりでネガティブなイメージだった。
でも、実際はここに通う子どもたちは、影がありながらも優しくて、不器用ながらも相手に寄り添う気持ちをもっている子どもが多かったように感じる。運動の時間になると体育の成績が1だった僕よりアクティブだ・・・。

毎日誰かが殴られていて暴言が飛び交い、修学旅行はJRで1本で行ける滋賀と岐阜にしか連れて行ってもらえなかった問題学年の僕らの中学生生活とは大きく変わって、ここでの生活は穏やかだった。
職員かボランティアスタッフの仲間だったかは忘れたけれど、誰かが
「心を傷つけられた経験があるからこそ、ここに通う子たちは相手を思いやれるんだ」って言っていたことにすごく共感した。

通信制高校の天才たちとの出会い

この頃、中学時代に不登校になった後輩が高校に入ったり、退学した同級生が大学に入ったことで、不登校にも進路があることに気付き始めた。
また、演劇で飯を食うことを考えていた僕は「演劇教育」や「ドラマ科」というものがあると知り演劇教育で授業を展開していた先生に弟子入りし授業のアシスタントを始めた。

※ちなみにその頃の僕は大学が卒業できたものの教員免許を取るのを失敗して内定取り消しにあったニートである。

その中でとある通信制高校の技能連携校とであった。
(通信制高校の授業やスクーリングをしながら演劇や音楽を学べる高校のようなもの)
ここに通っていた生徒たちはみな個性的ですごい才能にあふれて、
学歴重視の家に生まれた僕では考えられない価値観の子たちばかりだった。
不登校になると人生が終わると思っていた価値観から、「不登校経験のある子たちは面白い」に変わっていった。
そしてこの高校に僕が就職する。

※ここまでで出会った不登校経験者の子どもたちは今ではアラサーになり、同窓会に呼ばれたりバッタリあうことがあるのだが家庭を持ったり、就職したりしていて、その中でも、今でも一緒に活動をしている、とまりぎのボーカルのcOsmOsは猛勉強の末に医療従事者である。

僕みたいに偏見のある人に不登校の子たちのことを知って欲しい
そう思って1つの挑戦をしかけてみた。

高校演劇の大会に出よう?

その時の生徒たちで高校演劇の大会に出ようと思った。
通信制高校の生徒でも普通に高校生で、ウチの生徒たちはすごく面白い。
それを発信したかったし、小さな学校の学内文化祭ではなく、外の会場で演劇をする機会を作りたかった。

しかし大阪府高校演劇連盟に入会しようとしたところ、断られた。
当時の僕の手順が悪かったところもあるし、もっと通信制高校の本部の方と連携していたら、うまくできたのかなと思っているので、連盟の方が悪いと思っていない。
でも高校時代から尊敬していた先生に、「通信制高校の参加を認めたら年配の人でも高校生として参加したりおかしなことになる」といわれたのがショックだった。

受け入れてくれた小劇場と「おうさか学生演劇祭」

そこで受け入れてくれたのがステージプラスやインディペンデントシアター、ウイングフィールドなどの劇場さん。
高校生の主軸で旗揚げした劇団を受け入れて上演させてくれた。
ただ、一応、当日責任者だった僕が未熟で大迷惑をかけて、そこで頑張って
いた生徒たちの方が何倍も大人だった気がする。

そして大学生の演劇祭「おうさか学生演劇祭」ここで「舞台絆王子と無限の一歩」が生まれる。

不登校について知ってもらうための舞台『絆王子と無限の一歩』

高校演劇のコンクールに出れないので大学生の演劇のコンクールである
「おうさか学生演劇祭」へ出場することに決めた。

この舞台では子どもたちが実際に体験したことをパッチワークのように繋ぎ合わせた作品。ただ、新しい偏見を生まないように、いろんな団体さんや当事者会に赴き、保護者の方や支援者の方への取材も沢山取り入れた。

まぁ、台本を書くのも演出するのも上手くいかず稽古場は揉めに揉めて、なんとか本番へ・・・。
でも当事者の思いをくみ取り心の籠った舞台は実際に不登校の経験のあるお客さんからも、良い評価を貰えた。

そしてコロナ化を経て映画化へ。

それから10年、何度も絆王子は舞台化した。
地方新聞に掲載していただくことにもなったり、
最初はぎこちなかったアフタートークも回を重ねるごとに不登校について語り合う場として成立するようになってきた。

その間、僕の仕事も変わった。
中学の常勤講師になったり、長野の通信制高校の教員になったり、
病んでニートになり子どもと関わる仕事から離れることを決めて
システムエンジニアになったり
病んでまたニートになって
でも不登校や発達障害の子どもたちと関わってきた思いを忘れられなくて、
今は「放課後等デイサービス」で児童発達管理責任者という役割をしている。
なんか、名前だけは立派だけれど、要はひたすら書類を作る仕事だ。
職場では周りが優秀すぎて恵まれてると思う。
※もちろん演劇方面でも周りに恵まれてると思う。

この仕事についてから、仕事だけでなく知り合いから不登校や発達に関して相談されることが増えた。でも、その相談の内容が不登校や発達そのものではなく、「誰に相談したらいいかわからない」や「親または先生に理解がなく追い詰められている」という話ばかり。

絆王子初演から時間がたち「学校に行かなくてもいい」という言葉が広がってフリースクールも沢山できた。ただ「理解のある層」は確かに膨らんだが「不登校に偏見のある層」との壁は以前としてある。
そしてコロナ化になり不登校の児童・生徒の数はかなり増加した。

文部科学省の調査結果をみると
2013年の調査では約12万人
2023年の調査では約30万人
その中でも学校内外で相談を受けていない児童生徒数が4割近くいるのが現状である。
児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1302902.htm

でも支援する側が手を伸ばしても支援が必要な人に届かない。
この溝をとうにかして、当事者の孤立を防ぐためにどうにか不登校の現状を伝えたい。
でもコロナ化で演劇が十分にできない・・・。
そこで映画である。

映画なら物語の力で届けられるかもしれない。

口先で「不登校でも大丈夫」「相談できる人や機関があるよ」と言われてもしっくりこないと思う。
「不登校について理解しろ」と長々説教されたら話を聴くのが嫌になると思う。

でも物語を通してなら登場人物と共感することで当事者のことが伝わるかもしれない。映画で登場人物の気持ちに寄り添った後、見た人同士で話し合いをして理解を深め合う。
でも説教臭かったり、押しつけがましいものを見せられるのは嫌だから、
エンターテイメントとして楽しめる映画を作りたい。
こうして映画の企画が立ち上がったのである。

この映画が届いて欲しい人

不登校に極端な偏見を持っている人に、この映画をみてその偏見をほどくことで当事者の人たちが孤立せずに相談しやすい世の中にしたい。
教育・福祉関係者の人の研修に使ってもらって、役立てたいと思う。
そのための当事者や支援者にしかわからないこだわりを盛り込んでいる。
当事者の人に届けて、同じような思いを抱えている人がいるよって伝えたい。
そのために映画が完成しても多くの人に届くように走り続けている。

僕個人がこの作品を一番見せたい人は後輩を傷つけてしまった高校生時代の自分だと思う。今の自分がすごい立派な人になれたわけではなくて身近な人を今でも傷つけてしまって落ち込む毎日だけれど。

絆で結ばれて行けば行くほど、身近な人への接し方がわからなくなる。
大切な人と一緒に生きていくためにどう歩み寄っていけばいいんだろうか。
・・・・は映画の内容というより僕の日頃の悩み事だけれど・・・。

僕のトラウマから始まった作品が100人以上の人がかかわって
沢山の人の思いが重ねられた作品になった。
もっともっと多くの人に届けたい。

来週は久々の大阪での上映会と談話会。
有意義な時間にしたい。

8月18日(日)映画上映・談話会・演技WS詳細

8月イベント詳細

2024年8/18(日)
・会場 扇町ミュージアムキューブ 大阪メトロ堺筋線「扇町」駅から徒歩3分
JR環状線「天満」駅から徒歩7分

〇10:30~12:05 本編上映会
アフタートーク登壇 竹田和哲監督 古谷依織 桜木ひまり
・ご予約フォーム(パスマーケット)

〇12:15~13:15 談話会
ゲスト 山本航平(明誠高等学校北大阪SHIP代表)
・ご予約フォーム
〇13:30から20:00 竹田監督WS『心をゆさぶる演技』
・ご予約フォーム

映画『絆王子と無限の一歩』上映依頼受付中


あらすじ

ハルコが不登校になった。理由は誰も知らない。
幼馴染・カイトは、ハルコの書く小説「絆王子と無限の一歩」を介して彼女の気持ちを知ろうとする。
不登校児・ヒバリはハルコを不登校仲間に引き入れようとする。
クラスの優等生・サクラはハルコを学校に連れ戻すために策を練る。

それぞれの求める”正しさ”が、苦い痛みと共に絡み合う。
実体験を基に描かれる、答えのない問題と向き合う少年少女たちの物語。

上映依頼・お問い合わせは、
とまりぎクリエーターズまで
mail:
tomarigicrs@gmail.com

とまりぎクリエーターズ公式サイト
https://tomarigi-c.jimdofree.com/

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