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日本一慈しい鬼退治

遅ればせながら、『劇場版鬼滅の刃無限列車編』を家族5人で見てきました。

映画の感想の前に、私の家の鬼滅情報を少し共有させてください。

うちには小学生の娘が3人いるのですが、当然ながら少年漫画には全く興味がなく、7月あたりから世の中で鬼滅ブームが始まってからもしばらくは全く興味を示しませんでした。(流行りに乗りたくないのか、むしろ毛嫌いしていました)

ところが9月くらいになると、長女(小5)のクラスでは男女関係なく皆が「キメツキメツ」と鬼滅の話題で持ちきりになり、全くストーリーを知らない彼女にしてみれば肩身の狭い思いをしていたようです。

それでも自分からは絶対に見たいと言わず、意固地になっていたので、「パパが見たいから見るけど、一緒に見る?」と誘い、娘が「しょうがないなぁ。パパが見るなら、一緒に見てあげてもいいよ」という展開に持っていきました(笑)

その頃世間では「鬼滅の刃を子供に見せる見せない問題」が勃発しており、残酷なシーンを含むアニメを子供に見せるべきかどうか迷いましたが、一緒に見てみて、見るに堪えない場合は強制中断しようと思っていました。

結果、子供たちはもちろん、ドハマりしました。そして長女は、クラスメートたちと鬼滅の話ができるようになり、交友関係も広がりました。もともと超がつくシャイな子で、あまり友達が多い子ではなく、活発とは程遠い子でしたが、鬼滅のおかげで男子の友達も増え、帰宅後も表情が良くなりました。鬼滅効果恐るべしです。

そして私もハマりました。私は10代の頃はほとんどマンガしか読んでおらず、少年ジャンプは小学生の時毎週読んでいました。当時はジャンプ全盛期とも呼べるほど内容が充実しており、毎週月曜日が楽しみで仕方ありませんでした。(キン肉マン、ドラゴンボール、キャプテン翼、北斗の拳、こち亀、ジョジョ、など綺羅星のごとく面白いマンガばかりでした)

どっぷり鬼滅にはまった我々は全26話を3日間というハイペースで見ました。ちなみに漫画はまだ読んだことがありません。

では、ストーリーはどんなものかというと、少年漫画の王道ともいえるものです。

鬼に家族を惨殺された主人公の炭治郎は、家族の仇を取るため、そして鬼にされた妹の禰豆子(ねずこ)を人間に戻すために鬼退治に出かけます。旅の途中で善逸(ぜんいつ)と伊之助という仲間を見つけ、さらには鬼退治のエキスパートである「柱」と呼ばれる超強力鬼退治部隊とも合流し、鍛錬を積みながら、自分の家族を殺した鬼たちのボス鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)を倒す旅を続けていくのです。

これだけ見ると、よくある少年漫画だなぁと思います。では、何がこれまでの少年漫画と違うのか。それはこの物語には優しさが溢れている点だと思います。

家族が惨殺されたり、人間が鬼に食べられたり、子供たちに見せたくないシーンも多いにもかかわらず、炭治郎をはじめとした登場人物の面々にはそこはかとない優しさと魅力が溢れているのです。これは作者が女性であることも大いに関係している気がします。

タイトルの「日本一慈(やさ)しい鬼退治」は公式のキャッチコピーです。

死闘の果てでも、祈りを。
失意の底でも、感謝を。
絶望の淵でも、笑顔を。
憎悪の先にも、慈悲を。
残酷な世界でも、愛情を。
非情な結末にも、救済を。
重ねた罪にも、抱擁を。
これは、日本一慈しい鬼退治。

この物語に登場する鬼は元々は人間なので、最初から人間を食う邪悪な存在ではなかったのです。主人公の炭治郎はそんな人を食い殺した鬼を退治した後でも、慈悲の心を捧げます。さらに、物語の根幹を支える妹の禰豆子に対する愛情は見る者の心を打ちます。

では、ここからが映画のレビューになります。ネタバレを含みますので、これから見ようと思っている方は見終わってから読んでくださるとありがたいです。

以下あらすじです。(「Filmarks映画」より抜粋)

果てなく続く 無限の夢の中へ― 蝶屋敷での修業を終えた炭治郎たちは、次なる任務の地、《無限列車》に到着する。 そこでは、短期間のうちに四十人以上もの人が行方不明になっているという。 禰豆子を連れた炭治郎と善逸、伊之助の一行は、鬼殺隊最強の剣士である《柱》のひとり、炎柱の煉獄杏寿郎と合流し、闇を往く《無限列車》の中で、鬼と立ち向かうのだった。

結論から言うと、大人の私が没入するほど素晴らしく、感動的な映画でした。年内に「千と千尋」を抜いて、興行収入が歴代一位になることが予想されていますが、噂にたがわぬ秀逸な作品でした。

ちなみに私は昔レンタルビデオ屋でバイトをしていたこともあり、昔から映画はかなりの本数を見ています。ハリウッド映画だけではなく、ヨーロッパの映画も多く見ましたし、邦画もまだ全然人気のない頃からかなり見ていました。(岩井俊二作品が特に好きでした)なので、そこそこ目は肥えている気がするのですが、この劇場版の鬼滅の刃は子どもと一緒に楽しみ、そして号泣しました。

自分なりにこの映画のすばらしさを上げてみたいと思います。

1.作画がすさまじく美しい

オープニングのお墓のシーンに始まり、終始美しい映像美に息をのみました。中でもとりわけ美しかったのは炭治郎の無意識のシーンでした。空と雲が広がる透き通った世界は優しく温かい炭治郎の心をそのまま映しているかのようでした。

戦闘シーンでも作画のきれいさは際立っており、引き込まれる要因になりました。これはマンガではなかなか描き切れないものであり、アニメの利点だとも言えます。

2.煉獄 杏寿郎(れんごく きょうじゅろう)

この映画にはいくつか涙腺崩壊ポイントがありますが、やはり最大の見せ所は煉獄さんが猗窩座(あかざ)との対決の中で放つ数々の言葉と熱い想いだと思いました。

煉獄さんは「誰一人死なせない」と宣言し、200人を超える人々の命を守るために一人で圧倒的な強さを誇る猗窩座と戦います。

猗窩座からはその戦闘能力を高く評価された故に「鬼にならないか」と盛んに誘われ、人間の弱さについてさんざん聞かされますが、煉獄さんは

「老いることも、死ぬことも人間という儚い生き物の美しさだ。老いるからこそ、死ぬからこそ堪らなく愛おしく尊いのだ。何度でも言おう。君と俺とでは価値基準が違う。俺は如何なる理由があろうと鬼にはならない!」

と言い放ちます。さらに、煉獄さんは強さに関してこう述べます。

「強さというものは、肉体に対してのみ使う言葉ではない」

このあたりで完全に惚れましたね。

そして亡き母と幼少の頃に交わした会話。

「力を授かったものは弱き者を助ける為にその力を使うのです、悪き事に使わない事。」「強く優しい子の母親の慣れて幸せです」

という母の言葉を思い起こし、

「貴方のような母の子として生まれて光栄でした」

と返すのでした。なんという麗しき親子愛。

また、死ぬ間際に煉獄さんは母の幻影を見て、

「母上、俺はちゃんとやれただろうか。やるべきこと 果たすべきことを全うできましたか?」

と尋ね、母から

「立派にできましたよ」

という言葉を聞いて、満面の笑みでこの世を去ったのでした。

最後まで「柱」として誇り高く戦い、宣言通り無限列車の乗客を誰一人死なすことなく戦いを終えた煉獄さんの死に対する想いがはじけ、気が付けば涙が止まらなくなっていました。おそらくこの映画を見た人でこのシーンで泣かなかったい人はいないのではないでしょうか。

3.炭治郎の家族愛

上にも煉獄さんと彼の母との親子愛について書きましたが、炭治郎の家族に対する深い愛情もこの映画の肝になっています。

この映画は終盤まで魘夢(えんむ)という鬼との戦いになりますが、この魘夢は人を夢の中に落とし込み、殺していくという術を使います。煉獄さんや炭治郎も魘夢の策略にはまり、夢の中の世界に入り込むのですが、そこは自分が理想とする世界でした。炭治郎は惨殺された家族たちが普通に仲良く生活する、自分が何よりも欲していた世界を夢の中で実現させます。

しかし、夢の世界にいては、列車の乗客を守ることができずに、かつ自分も殺されてしまうことに気づいた炭治郎はその大好きな家族を置いて、夢から覚めようとします。家族たちは突然の別れに戸惑い、泣き叫びます。しかし、炭治郎は後ろを振り返らず、

「たくさんのありがとう。たくさんのごめんね。いつまでも心は傍にいる。一緒に居てあげれなくてごめん。」

と言って、夢の世界を後にするのでした。家族が惨殺され、すでにこの上なく悲しい別れを遂げているにもかかわらず、また違う形で別れなければいけないというこの悲しいシーンも涙がこぼれました。

これまでの26話の中にも脈々と流れていた炭治郎の家族愛が映画の中でもしっかりと描かれていることが、大ヒットの要因の一つだと感じました。

4.主題歌「炎(ほむら)」

上記の通り、だれもが愛し、敬う煉獄さんが力尽き、炭治郎、善逸、伊之助の3人は、情けなさと悲しさと怒りとが混ざり合った感情を爆発させ、涙を流しながらお互いの気持ちをぶつけ合います。それらの言葉はどれも重く、ジーンとくるものばかりでした。

そしてやがてエンディングテーマが流れます。

この切ない歌詞とメロディーに最後の最後にまたやられてしまうのです。いったん止まった涙がまたつーと頬を流れました。

以上が、『劇場版鬼滅の刃無限列車編』の感想になります。やはり社会現象になるのには理由があります。その理由を自分なりの解釈でつらつらと書いてみました。先日コミックの最終巻(23巻)が発売され、あっという間に売り切れたらしいですが、私も先が気になるので、アニメの続編が出る前にコミックを全巻揃えてしまいそうな勢いです。もしまだ見ていない方がいらっしゃいましたら、ぜひご覧いただければと思います。いろいろな気づきがあると思います。