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2020年6月30日にまたここで会おう

以前から気になっていた本がたまたま近所の図書館にあったので借りて読んでみました。

教育関係者であれば著者の瀧本哲史さんをご存知の方もいるからもしれません。

瀧本さんの略歴は以下の通りです。(AMAZONより引用)

瀧本 哲史
京都大学客員准教授、エンジェル投資家、教育者
麻布高等学校、東京大学法学部を卒業後、大学院をスキップして直ちに助手に採用されるも、自分の人生を自分で決断できる生き方を追求するという観点からマッキンゼーに転職。3年で独立し、日本交通の経営再建などを手がけながら、エンジェル投資家としてアイデアとメンバーしかいないような極めて初期の段階の企業を支援し続ける。京都大学では「意思決定論」「起業論」「交渉論」の授業を担当し、人気NO.1若手教官として「4共30」講義室を立ち見に。各界において意思決定を先導するリーダーを育てることを目標に、選抜制の少人数自主ゼミ「瀧本ゼミ」を主宰。著作物やディベートの普及活動を通して、次世代への教育に力を入れていた。2019年8月10日永眠。

一番最後にあるように2019年に47歳の若さで永眠されました。

本書は2012年に東京大学伊藤謝恩ホールで行った講義を文書化したものになります。この時の講義に参加したのは29歳以下の若者たち限定で、全国から約300人の10代・20代が集結しました。「若者」対象というのは一つ大きなポイントです。なぜなら瀧本さんはこれからの未来を変えるのは若い力だと信じていたからです。

私も若者たちの可能性を信じて日々教育活動にあたっているので、本書で述べられている瀧本さんの言葉の一つ一つが自分に突き刺さりました。そんな瀧本さんの印象に残るお話を簡単にまとめていきたいと思います。

瀧本さんは日本の未来に強い危機感を持っていました。だからこそ未来を担う若者たちに「武器としての教養」を授けることで、日本を良くしていってほしいと願っていました。

自分で考え、自分で決める

その武器の一つが「自分で考え、自分で決める」力だと言います。あまり新鮮味がない言葉かもしれませんが、究極的にこれに尽きるのではないかと個人的にも思います。日本の教育環境においては教師の言うことに従順に従うことが求められ、自分で考え、自分で決める機会が著しく欠乏しているので、我々教育者は非常に重く受け止める必要があると思います。

正解なんてない。だからこそ自分の人生は自分で決める。

今回のこの東大での講義も、教養という武器を若者たちに与えて、世の中を変えられそうな人を一人でも多く作ることで社会を良くしていきたいという瀧本さんの強い思いから生まれたイベントになります。書面ではありますが、当時の熱がビシビシと伝わってくる内容になっています。

言葉

そして瀧本さんは若者たちが必要な「武器」として『言葉』を挙げます。

右手にロジックを、左手にレトリックを

言葉が世界を動かす例として、政治家として亜流で知名度もなく、民族的にもマイノリティーだったオバマさんがアメリカ中に熱狂を巻き起こして大統領まで上り詰めた話や、言葉の力を最大限に使って国を動かした明治維新などが挙げられています。

私たちはもしかしたら『言葉』の持つ力を過小評価しているのかもしれません。言葉は常に私たちから切り離すことのできない空気のような存在です。だから言葉が持つ根源的な力を我々は忘れがちです。しかし、オバマさんの例を取り上げるまでもなく、言葉を的確に相手に伝えられる人は魅力があり、物事を変えていく力を持っています。これは目から鱗であり、私自身改めて「言葉」の持つ力について再認識をしました。

交渉術

また、瀧本さんは弱者こそ「武器」としての『交渉術』を持とうと言います。

これからの時代は組織がフラット化し、様々な人が共存しながら生きていく相互依存社会となっていきます。相互依存の社会だからこそ、物事を自分の思い通りに進めていくために交渉する力がより重要になってくるのです。

その上で重要なのが以下の2点です。

① 相手の利害を考える
② 「話す」よりも「聞く」

①は交渉の超基本だと思うのですが、企業の営業さんでも出来ていない人は本当に多いと感じます。「この商品は素晴らしいから買ってください」ではなく、「あなたが得をするからこうすべきだ」というスタンスでなくてはモノは売れないと思いますし、同様に人の心も動かせないということだと思います。

②も①同様に、自分ではなく相手を主役にすることが肝要であり、それが交渉を有利に進める大原則です。

要は「想像力」なのではないでしょうか。コミュニケーションの基本だと思いますが、相手が何を考え、何を欲しているか。そのようなことを理解しないまま独りよがりな話をしたとしても交渉はまとまるはずもなく、自分の思い通りに物事は進みません。確かに若者たちに身につけてほしい「武器」の一つだと思います。

リーダー

そして、もう一つ興味深いと思ったのは瀧本さんの『リーダー』の考え方です。彼は、社会変革というのは、ひとりの大きなカリスマによってなされるものではなく、小さいリーダーをあちこちに作って、その中で勝ち残った人が社会でも重要な役割を果たしていくものだと考えています。

前述のオバマ元大統領も最初は超泡沫候補だったのが、「言葉」の力で大統領まで上り詰めました。また、クリントン元大統領もアーカンソー州という全米でもダントツでド田舎の州知事になって、そこでふるった辣腕が評価されのし上がっていきました。

このような「しょぼい」場所から生まれたリーダーたちがやがて社会を変えていくようになるという考え方は私はとても好きです。なぜなら私も今同じような考えを持って日々教育活動に従事しているからです。

自分は今とある私立の中高一貫校で働いています。その学校は当時全く生徒が集まらないつぶれそうな学校でしたが、そこで教育改革に従事し、教育マーケットに一石を投じることができました。今では首都圏だけでなく、全国の多くの教育関係者に注目してもらえるような存在になりましたが、まだまだ道半ばの状態にあります。私はまず自分の学校を自分が思い描く「日本一」の学校にし、日本の教育を変えていきたいと思っています。そのためには目の前の子どもたちのためにできることを全力でやろうと決めています。その結果、将来もっと影響力を持つ人間になれたら最高です。すべては日本の教育を変えるためであり、若者の可能性を最大限に引き出すためです。

やるかやらないか。行動に移すかどうかが大事!

瀧本さんが言うように、要はやるかやらないかの話だと思うのです。これは若者に限った話ではなく、私のような中年のおっさんにも全く同じことが言えると思います。

瀧本さんは、2012年6月30日に自分の講義のために集まった約300人の若者が12年後の2020年6月30日に再び同じ場所に集まり、8年後彼らの中でどのような変化が生まれ、そして社会がどう変わっているかの「答え合わせ」をするつもりでした。しかしながら、2019年に急逝されてしまったので、その「答え合わせ」は叶いませんでしたが、彼に「武器」を授けられた若者たちがこれから彼の遺志を引き継ぎ、日本の社会を変えてくれることを切に願うのでした。

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