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翼の翼

小説を読んで涙を流したのは久しぶりでした。

私立中学の受験に臨むごくごく普通の家族が、大きな力によって自分たちを見失い、壊れかけ、そして成長していくお話です。

親って現金なもので、子供が成長するにつれてより多くのものを求めるようになっていきますよね。自分もそうでした。生まれたときは自分の子が優しい子になってくれさえすればよいと思っていましたが、実際に大きくなって「優しいだけじゃなく強く生きている子になってほしい」といつからか思うようになりました。そして強くなるためにいろいろと求めるようになってしまいました。

受験とは本来子どものものであるはずですが、とかく中学受験は「親の受験」になりがちです。親は受験を通して、自らの人格、思想、器量などを問われ、場合によっては自分自身が耐え兼ねて教育虐待の道へと進む場合もあります。

「2月の勝者」にも描かれていましたが、そんな狂気の沙汰のようなできごとは中学受験において決して非現実的なものではなく、どこの家庭にも起こりうることなのだとこの小説を読んで感じました。

読み進めていく中で、「親子分離」はこの本の大きなテーマだと感じましたが、最終盤に出てくる母円加の以下の言葉に私自身救われた思いがしました。

誰の受験でもなく、息子本人の受験なのだ。そのことに、もっと早く、気づければ良かった。遅すぎたけれど、終わった後でなかっただけ、まだよかった。どのような結果を迎えても、翼は翼だ。何も変わらない。

中学受験に携わるすべての人にとって一読に値する良書だと思いました。


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