見出し画像

大学の最新事情

高校の教員をしているので、大学や高等教育の変化には敏感でありたいと思っています。

つい最近Wedgeと週刊エコノミストという2冊の雑誌を読み、現在の大学を取り巻く状況をアップデートしたので、noteにまとめておきたいと思います。

まずWedgeの方から。

「大学はこんなにいらない」という刺激的なキャッチフレーズが紙面を踊りますが、これは日本の教育関係者の多くが認識している事実だと思います。

1990年には約200万人いた18歳人口は、2020年には約116万人になりました。約4割減です。にもかかわらず、大学数は507から786(19年度)に増加しているという事実は、おそらく多くの人は知らないのではないかと思います。

マーケットが縮小しているにもかかわらず、業界自体は膨らんでいるという通常なら理解できない状態が続いているわけですが、これにはからくりがあります。

まず一つは私立大学は学校法人の1部門であることが多く、大学を保有する学校法人は小学校や中高、専門学校を保有している場合も多くあります。その場合大学が赤字でも、他の売り上げが良ければ、なんとか廃校は免れるということになります(いつまでその状態が続くのかは不明ですが)。

さらに国立大や公立大は交付金を、私立大は助成金(年間3000億円も使われている!)を受けているので、簡単につぶれないのです。

実際私立大学は約3割が定員割れし、約4割の学校法人が赤字に陥っているにも関わらず、大学が増え続けている理由はここにあります。

また、大学設置の認可のハードルが信じられないくらいに低いことも大問題です。

以下は2019年に新しく大学に認可された大学です。

国際工科専門職大学(東京都新宿区など)
国際ファッション専門職大学(東京都新宿区など)
東京医療福祉専門職大学(東京都新宿区)
名古屋医療福祉専門職大学(愛知県名古屋市)
大阪医療福祉専門職大学(大阪府大阪市)
専門職大学 東都学院大学(東京都目黒区など)
東京専門職大学(東京都江東区)
長岡崇徳大(新潟県長岡市)
金沢専門職大学(石川県白山市)
京都専門職大学(京都府京都市)
岐阜保健大(岐阜県岐阜市)
和歌山信愛大(和歌山県和歌山市)
島根保健福祉専門職大学(島根県仁多郡奥出雲町)
岡山医療専門職大学(岡山県岡山市)
高知リハビリテーション専門職大学(高知県土佐市)
福岡医療学院 福岡専門職大学(福岡県福岡市)
福岡国際医療福祉大(福岡県福岡市)

おわかりでしょうか。ほとんどが専門学校の4年制大学化です。2年生の専門学校よりも4年制大学にした方が経営が楽になるというのは自明の理ですが、専門学校と大学はそもそも教育の目的が異なります。専門学校は職業訓練校のとしての役割を果たすのに対して、大学は本来研究機関です。それがこのような形でごちゃごちゃになっているのは、高等教育の質を下げることに他ならないと感じています。(「専門職大学」とは専門学校の機能を4年制大学化したものです)

私は教育にも最低限の競争原理を導入し、お互いが切磋琢磨するべきだと考えています。受益者が満足できないサービス(教育)しか与えられないのであれば、市場から淘汰されるのが自然の摂理だと思っています。ですが、日本の教育現場では上記のように手厚く学校・教員が守られているため、それゆえになかなか変化が生まれないという悪循環に陥っているのです。

そして、次に週刊エコノミストです。

こちらも「コロナで消える大学 勝ち残る大学」という刺激的なキャッチコピーとなっております。

このコロナ禍において、ほとんどの大学は今もオンライン授業を展開しています。中高と異なり、学生の生活様式が多義にわたるため、クラスター発生の可能性を考えるとやむを得ないことだと思います(新1年生はまだキャンパスライフを味わっていないという点で大変不憫ですが)。

現在文科省は大学においてオンライン授業で取得できる単位は60単位(通常4年間で124単位取得する)としていますが、私立大学連盟はこの上限は引き上げるように要求しています(現在は一時的に規制緩和をしています)。

ただこの規制緩和が認められれば、大学間の格差はさらに拡大する可能性が高いと言われています。例えば、早稲田や慶応のようなブランド大学がオンラインを使って無制限に国中の生徒を集めたら、地方大学は学生を根こそぎ奪われかねないのです。

一方で、地方大学もこれを逆手に取って、オンラインを活用して教育の質を上げるチャンスにすることもできます。地方にいても、世界トップクラスの大学とオンライン授業を相互に受講しあうことも可能になるのです。東大の吉見教授はこのオンライン化の活用し、「これから目指すべきなのは、地域を超え、国境を越え、地球を基盤とする大学だ。ローカルな視点で、グローバルな問題の解決を目指すことが重要だ」と言っています。これはまさに私が生徒にいつも伝えている『グローカル(Glocal)』のマインドセットであり、大学もそう変わらなくてはいけないということです。

こちらの雑誌には他にも大学や大学入試を取り巻く最新のトレンドが書かれており、興味深かったです。このコロナ禍の中で、これまで人気のあった国際系の学部の志望者が減少していたり(留学ができなくなっているのも一つの要因)、地方回帰の流れが顕著だったり(地方国立が人気)、コロナの第二波、第三波を恐れて「とにかく早く進学先を決めたい」という超安全志向に陥る受験生、などやはり今年は新型コロナウィルスのパンデミックが受験にも大きく影響をしています。

まとめ

というわけで、2つの雑誌を読んで、改めて日本の大学・受験を取り巻く状況を確認しました。

グローバル化、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進、18歳人口の減少と都市部への人口集中。大学を取り巻く環境は大きく変化している中で、このコロナ禍の襲来。高等教育の教育改革は待ったなしのところへ来ています。

今後は既述のオンライン授業の単位の上限の緩和や大学の定員管理の見直しなどの課題を解決していかなくてはいけません。また、これからは留学生の獲得競争も激化することから、大学もよりグローバル化しなくてはいけません。これらができなければ今後も多くの優秀な学生が海外に流出を続けていくでしょう。そうならないように、国が本気になって制度を改正し、そして各大学が自分たちが進む道を真剣に模索してほしいと思います。

おまけ

もういい加減大学の価値を偏差値だけで測るのはやめたいですよね。いろんな指標で大学の良し悪しを語る時代が早く来てほしいです。

こちらはその一つの指標「面倒見が良い大学」ランキングです。

画像1

次に「改革力が高い大学」ランキング。

画像2

生徒にはいろいろな角度から物事を検証できる人間になってほしいと思います。