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やっぱり小学生のマスト!『ドラえもん のび太の新恐竜』

 2020年の映画『ドラえもん のび太の新恐竜』の感想です。ネタバレします。

理科の勉強として最高!

 アニメで恐竜の時代を体験できるのは素晴らしく、教科書や図鑑を見るより臨場感があって楽しいと思います。考古学の先生も出てきたりして、理科の勉強にもしっかり接続されています。

しずかちゃんが可愛い

 小学生向けのアニメですが、しずかちゃんをちゃんと可愛く描いているのが印象的でした。小学生なりのエロティシズムをしっかり入れています。物陰で着替えるシーンや入浴シーンがあります。さすがに「キャーのび太さんエッチ―」はありませんでしたが、さりげなく、しかし忘れずに男の子たちを惹きつける演出が施されています。とくに注目したのは、川べりで黄昏ているのび太をしずかちゃんが励ますシーン。まず靴を脱いで、次に靴下を脱いで素足で川に入っていきます。水と戯れながらのび太に語りかける印象的な場面です。映画らしい演出といいましょうか。これは全国の小学男子がしずかちゃんに恋せずにはいられないでしょう。さらには窮地から逃げ切ったのび太に抱きつくシーンさえあります。「心配したんだから!」とすごい真剣な声が響きます。もう完璧ですね。

劇場版ドラえもんは現代のラピュタ


 この完璧さは『天空の城 ラピュタ』を思い出させます。私は小学2年生のときラピュタにハマっていました。夏休みに金曜ロードショーの録画を飽きもせず何度も何度も繰り返し観ていたものです。あの感覚に近いものを感じました。「ドラえもんは現代のラピュタである」と言うこともできるでしょう。また、宮崎駿作品の中でもラピュタはやっぱりエンタメ作品だったんだなと再認識しました。子どもに刺さる演出を意図的にふんだんに盛り込んでいたんだなと。
 2時間以内の上映時間をしっかり守りながら、非常にテンポよくどんどん話が進んでいきます。濃密な時間です。ラピュタもあれだけ壮大な物語がたった2時間弱に収まっていることが不思議でなりませんでした。短い時間でも印象に残るワンカットがたくさんあれば、視聴者の主観では非常にボリュームのある豊かな体験に感じられます。そういう密度の濃さという意味でも、ラピュタのようなクオリティの高さを感じました。

中年趣味はいかがなものか

 声優にキムタクを使ったり、音楽にミスチルを使ったりするのは保護者向けのサービスなのでしょうが、微妙だと思いました。保護者世代のスターを起用するより、子ども世代に向けたニュースターを起用してほしい気がしました。ただ、旧『のび太の恐竜』に登場したピー助がさりげなく出てくるシーンは面白くて良かったです。

最後は能力主義 あれで良かったのか

 孵化した恐竜ミューは翼を持っていましたが、飛ぶことができません。他の同種の個体と比べて明らかに尻尾が短く、それが原因のようです。このハンデを負ったミューをのび太はとくに可愛がります。劇中ではミューが飛ぶ練習をして失敗して落っこちるシーンが繰り返し描かれます。それと並行して、逆上がりができないのび太も描かれます。二人は一緒に練習したりもします。ミューは最後にやっと飛べるようになり、のび太も逆上がりに成功して幕を閉じます。観客の子どもたちもヤッター!といったところでしょう。

 それはそれなりに感動的な物語ではありました。出来ないからといって諦めずに頑張ることの大切さを伝えているともいえます。とくに小学生年代の子どもたちにとってはそういう精神は大切なことだとも思います。ただ、最後は結局能力主義に回収されてしまったという印象も拭えません。のび太の本当に稀有なところは、根本的に能力が足りないにもかかわらず健康や良心を見失わないところです。そこがのび太の凄いところであり、感動ポイントであり、ある種の視聴者たちにとって救いにもなっているポイントだと思います。その価値観からすれば、のび太は逆上がりができなくても良いはずです。本作の「出来るようになった!」というラストは、のび太的な価値とは異質なものです。なので、本当にそのラストで良かったのかという懸念も抱きました。同様に、ミューのほうも、結局は飛べないままでは生きていけないという結論になってしまっていました。それは「出来ない」ことに悩んでいる子どもたちを追いつめてしまうかもしれません。

 とはいえ、話が行ったり来たりして恐縮ですが、やはり現実に「出来たほうが良いこと」というものは存在します。能力がすべてではありませんが、ある程度の能力を身につけることによって幸せに生きていける可能性が高まるのは事実です。なので、昨今のリベラルの風潮のように「出来なくてもいいんだよ」と甘く囁くことが正義だとも言えないでしょう。やはり、まずは出来るように最善の努力をすべきでしょう。そう考えれば、この映画はこれで良かったのだという気もしてきます。「あののび太でさえ逆上がりができた!」ということが子どもたちを励ましてくれるかもしれません。小学生の子どもたちに伝えるべきメッセージとしては、どちらかというとこちらのほうが好ましいような気がします。



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