本当に自殺するまで大人は理解しないのかもしれない

 ある生徒が授業中に「死にたい」と言いました。その理由は明らかです。親から特定の進路を強制されたからです。自分が受験したい大学を受けさせてもらえないことが分かり、深い絶望に沈んでいたのです。
 私は「生徒が死にたいと言っている」と教務担当社員に報告しました。しかし、この社員はそれを家庭に伝えませんでした。私は家庭宛てに手紙を書きました。この社員はそれを家庭に送付しませんでした。私は会社の上層部に掛け合いました。その返答は、手紙を送付することはできないというものでした。

 これが個別指導塾の実態です。家庭からのクレームを恐れ、都合の悪い事実は報告しません。保護者の要求がどんなに非合理的であっても、どんなに虐待的であっても、それに唯々諾々と従うだけであり、軌道修正させようという努力のひとつもしません。その結果生徒がどんどん追い詰められていき、「死にたい」とまで言っても、塾は何もしません。問題に蓋をして済ませようとします。
 塾側の認識は、「家庭の要望に沿っただけだ」というものです。悪びれる様子もありません。塾にはそれしか出来ないのだと居直っています。しかし、どう考えてもこれは悪質です。この社員は、家庭の要望に沿って、生徒に過度のプレッシャーをかけ、自習室に居るよう強く指導し、課題を出して提出をしつこく催促していました。生徒の話はろくに聞かず、保護者と同じ発想でもって、生徒は何も理解しておらず甘えているという前提に立って「指導」していました。つまり、家庭の虐待的な教育に加担していたのです。にもかかわらず、その責任はないと開き直っています。唖然とさせられるほどの無責任体質です。

 「生徒が死にたいとまで言ってるんですよ!」と私は言いました。それでも教務は問題を認識しません。「生徒が先生に甘えてたんでしょうね~」と言うのです。あくまで悪いのは生徒であり、家庭にも塾にも問題はないという態度なのです。なるほど、本当に自殺する生徒の気持ちが分かってきました。たしかに実際に自殺して見せないと問題を認識すらしない大人たちがここにいます。

 


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