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明かり差すニュータウンの傍らで#18「ネコ石鹸」/爪毛の挑戦状

 ある日の仕事終わり、私は七募なのぼ駅のバスターミナルから、彼急かのきゅう電車の改札に続く自由通路を、疲れた顔で歩いていた。
 夕方のこの時間は、毎日出店でみせが出るらしく、家路につこうとする人々のうち、何名かはその出店に引き寄せられるのを目の当たりにしている。
 もっとも、私はそんなものには目もくれず、改札を目指すのみ…の筈であった。
 この日は違った。威勢のいい売り子のかけ声にひかれ、私は出店に引き寄せられてしまった。

 「さあさあ、お兄さん、知ってます?『ネコ石鹸』」
 売り子の男は、聞き慣れない名の品物を紹介してきた。どうやら石鹸らしい。高級そうな箱に入っている。そしてテーブルにはその箱が大量に置かれていた。
 「知りませんけど」率直に返事すると、男は驚いたようなアクションを示した。
 「おおーっ、勿体無い!『ネコ石鹸』はね、七募の高校生達が生み出した石鹸の進化形。なんとね、ネコの形をしていて、耳から石鹸を詰め替えられる。それでね、使うときはこう!この鈴の所から石鹸が出てきてかわいいの!」

 「すいません、ちょっと電車の時間があるので……」なにやら熱弁をふるっているのはわかったが、もう一捻りが欲しい、と思った私はその場を去る事とした。
 電車の時間なんて、オブラートである。つまりは嘘だ。
 本当はもう予定がないからいくらでも遅らせられるのに。

 去り際にチラ見した売り子の男は、寂しそうでもの言いたげな雰囲気を漂わせていた。
 のりばへ急ぐ客の流れから取り残されたブースにいたのも、そのムードを高めていた。

 改札をくぐった私はのりばで、『ネコ石鹸』を検索した。七募駅での販売は今日までらしい。
 売り子の熱弁も、わかる気がする。何せ今日までなのだから。もしかしたらこれがラストチャンスなのかもしれない。

 ふと、このまま帰ろうとする私の姿が嫌に思えてきた。
 目の前に滑り込んだ急行電車のドアを私はくぐらず、再び自由通路の方に歩みを進めたのだった。

(了)(814文字)


あとがき

 今回の話に出てきた売り子さんには、ジブンの持っている小説を売り込みたい、という気持ちを重ね合わせているんです。

 なんだか似た者同士に見えてくるんですよね。
一人でも多くの人に知ってもらって、それが伝わって、を求めているというような。
そういう気持ちが伝わればいいな、と思っています。
ジブンのも売り子さんのも。

 ちなみにタイトルカット左下の「爪毛の挑戦状」と入れている部分、気づきました?
あれ、実は「毎週ショートショートnote」の時にそう入れていた部分です。
 参加企画ごとに表示が変わるし、企画未参加なら何も変わりません。


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