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突然ショートショート「体験記」
『ヒューマンパワードスーツ』という先端技術がある。
メーカーの工場へ、後輩の伊藤とタクシーで向かった。
「お待ちしておりました。田岡です」
「どうも。私が先日電話でお話しました藤井です。こちらは伊藤です」
「どうも」
「これはこれは。よろしくお願いします」
「事前にパンフレットをお送りしておきましたが…」
「拝見しました。様々な種類があるそうですね」
「ええ、様々な現場で活躍の機会があります。費用はかかりますが、労働負担の軽減に大きな効果があります」
私たちは田岡の案内で、スーツの保管庫へ向かった。
「こちらが保管庫です。手前のこちらが量産型で、奥に並んでいるのが試作品やモックアップ」
「ひぇ~…」
「すごいですね」
まるでロボットアニメやSF映画の格納庫のシーンを見ているようだった。
確かにこれなら様々な現場のニーズに応じた活躍をしてくれそうだ。
「こちらが『配達対応型スーツ・FQ-01X』となります。伊藤さん、体験されてみたいそうですけど」
「ええ。実際の使用感を確かめてみたくて」
スーツ装着用の黒い全身タイツに着替えた伊藤は、その肉体美がひときわ印象的になっていた。
「では装着しますね」
「はい!」
大きなスーツが伊藤に装着されていく。いや、『合体』と言ってもいいかもしれない。
『合体』した伊藤の姿は、一段と強い戦闘能力を持っているかのようなオーラを醸し出していた。
「その辺を走って…おおおおっ、ストップストップ!」
伊藤はスルスルと進みだした。急だったために驚いた様子だった。
「どうした、伊藤」
「音声認識ですか、これ?反応が良すぎて」
「『ありがとうございます』」
「わっ!スーツがしゃべった」
「AIアシスタントを搭載しています」
「なるほど…技術がこんなに前進していたとは」
伊藤はまたスルスルと進みだした。
「あああ、ストップ!」
「『電源を停止します』」
「違う、その…ブレーキ!」
「ブレーキはグリップの所です!」
「グリップ!……ふう」
余りに危なすぎる。
「こんなに反応がいいとは、私も驚きましたね…」
「検討の余地があるのでは」
「ピコピコと機械的に反応しすぎてますね、これ」
技術の急速な前進に、何か置き去りにされたものがあるのではないか─そんな事を私は考えていた。
『ヒューマンパワードスーツ』、採用は少し様子を見よう。
(完)(963文字)
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