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突然ショートショート「ドジなクマの復讐」

 私は大企業の歯車として働くサラリーマン。転勤の都合で、1年前にある田舎町に移り住んだ。

 田舎町とはいえ、住んでみると中々悪くない。
 自然に恵まれているのが何よりの自慢。
 不満は想像よりも少なく、コンクリートジャングルでは得られない感動の方が大きかった。

 そんなある日のことだった。
 住んでいるアパートの隣から、大きな銃声が鳴り響いたのだ。

 アパートの中にいた他の住人と共に、なんだなんだの大騒ぎ。
 どうやら隣の一軒家にクマが入り込んだらしく、猟友会の人が撃ち殺したというのだ。
 この町ではそれまでめったになかったことらしく、そのことはニュースにもなった。

 それから数日。
 仕事から帰ってきた私がアパートの門をくぐろうとすると、出会い頭に誰かとぶつかってしまった。
 思わず「痛ぁい!」とリアクション芸人なみの反応を見せると、その子はとても慌てた様子を見せていた。

「あ、わ、わ…ごめんなさい!本当に本当に、すいませ…痛った!」
 謝罪のお辞儀をしようとして今度はこけてしまった。

「あぁ…いえ。大丈夫ですよ。ですから落ち着いて…」
「すいません…そうだ、お詫びにご馳走を!」
「…え!?」

 最初は戸惑ったものの、どうしても、というから私はちょっとドジなその彼女を家に入れ、お詫びのご馳走を作ってもらうことにした。

「すいません…少し眠っていいですか?今日は疲れたもので」
「はい。ごゆっくり」

 しばらくして、例のご馳走ができたというので私は起こされた。
 それは美味しそうな鍋だった。
「ゆっくりお食べ下さい!」
「いやぁ、ありがとうございます!」

 鍋には、美味しそうな肉や野菜がたくさん入っていた。
 空腹も手伝って最初のうちは満足に食べることができたのだが、食べ進めていくと同時に、味に違和感が感じられるようになった。
 とはいえ、せっかく作ってくれた料理なので文句を言う訳にもいかない。

 頑張って食べていると、彼女は私に対してこう言った。
「美味しいでしょう。銃で殺してくれたお返しです」
「え?」

 よく見ると、私が今まで食べていたのは全て腐った肉や野菜だった。色が明らかにおかしい。騙されたのだ。

「さよなら。天国でまた会いましょう」
 彼女は大きなクマに姿を変え、天にのぼっていくようにして消えた。

 クマの復讐のようなものだったらしい。
 ドジなクマだ。銃で殺したのは私でなく猟友会の人なのに。

(完)(961文字)


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