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トマさん劇場#11「謎のドリンク」

目の前に、謎のドリンクがある。

「なんです、これ」
井美県井美市在住・備留打建築事務所(株)・社長、備留打末吉(びるだ すえきち)は問いかける。
「こちら、私共"ホテル彼急ザ・グランデ シーサイド・メトロギア"が自信をもっておすすめする6月の新作、"オレンジコーラ~周城市産オレンジのピューレ入り~"でございます」
「は、はぁ…」
訳のわからないドリンクだと、彼は思った。

会社の接待でやってきた彼礎市湾岸区の高級ホテル、「ホテル彼急ザ・グランデ シーサイド・メトロギア」。
部屋に入ってきたら、なぜかウェルカムドリンクと称して渡されたのが、問題の「オレンジコーラ~周城市産オレンジのピューレ入り~」だ。

見た目はどう見ても普通のコーラ。
中にはオレンジのピューレが入っているというが、彼にはうさんくさく感じられる。
「おいしいんっすかね~」
「どうぞ、お飲みください」
意を決して、備留打はコーラを胃に流し込む。
次の瞬間、彼に異変が起こった。

「ぐふあぁ…なんじゃこりゃぁぁぁぁ!!」
すごく塩辛い味だったではないか。
これがオレンジ入りコーラの味なのか、と彼が思っていると、ボーイがグラスを確認して、突然謝った。
「申し訳ありません、お客様!!」
「えっ…?」
「そちらは"醤油と海苔の佃煮を混ぜたソース"とのことで!」
「なんでそんなもんを入れてんのここ!?」
問題のドリンクは醤油ベースだった。
これでは塩辛く、まずいのは言うまでもない。
「申し訳ありませんお客様!すぐにお取り替え致します」
「そうしてよ~もうっ!」
だがここで、まさかの事実が。
「あっ…」
連絡用のスマートフォンを見ていたボーイが、申し訳なさそうにまた謝る。
「申し訳ありません!!本日、オレンジが入荷まであと8時間とのことでして、恐れ入ります、ロビーの自動販売機にてオレンジジュースをお買い求めいただくことに…」
「…」備留打は絶句した。
もっとも、クレーム程まではいかなかったが、その後、ボーイは上司に、厳しく叱られたそうな。


この作品はフィクションです。
実在の人物と地名には一切関係ありません。
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