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突然ショートショート「昔話をなぞって」
「吉野ちゃんにはここで死んでもらおうか」深夜3時の公園で、豹変した阿部はチェーンソーを突きつけた。
吉野は、驚いた表情をして体を後ろに反らした。
「警察呼びますよ?」
「ふふ、呼んでも来るまで時間がかかることぐらいわかるだろ?それに…」
「くっ…」
「そんな風に縛られてちゃ、スマホも取り出せないんじゃないの~、ふんふんふ~ん…」
阿部は鼻歌を奏でて余裕そうにしている。
吉野は、阿部からの「公園で久々に会おう」という誘いに乗ってしまった。それが運命の分かれ道だった。
おごってくれたアイスティーを飲んだ途端に眠りについてしまい、家に連れ込まれて阿部のおもちゃとして体を使って遊ばれてしまう。
気づいた時には汚いジャージを着せられて、公園の街灯の柱に縛り付けられていた。
音を立てて迫ってくるチェーンソー。もうここまでか、と思った時のことだった。
足元に生き物の気配を感じた。それは犬であった。
犬は興奮しているのか、吉野を縛り付けたテープを噛みちぎって彼女を解放した。
「何をする!やめろ!!」阿部は必死に犬を引き剥がした。
それでも、吉野の体は首元を除いて自由になっていた。
そして、吉野はその自由になった手でジャージのズボンを脱ぎ、健康的な色の太ももに入ったドラゴンのタトゥーを見せつけた。
色気に驚いて阿部の動きが停止した瞬間だった。
「出でよドラゴン!そして我と一つになり、空を駆ける力を与えよ!」
吉野の叫びに呼応するように、タトゥーがまばゆく光り出した。すると、光の向こうから、巨大なドラゴンが現れた。
ドラゴンは阿部をかすめるようにして天に昇った後、勢いよく吉野に突っ込んだ。
光が2つを包み込んだ後に現れたのは、見違えるように美しい姿になった吉野だった。
ドラゴンの面影のある服を身に纏い、化粧をして風貌は一変していた。
「えっ、えーっ!?」
「さようなら、もう会うことはないはず」
吉野はそう告げると、勢いよく夜空の中に消えていった。
夜空を呆然と見つめていた阿部は思い出した。子供の頃に聞いた昔話に、今の状況と似たような話があったことを。
悪い商人がふと出会った少女を捕まえて弄ぶが、最後は龍になって飛んでいく話。
阿部の中で、子供の頃の「悪い商人」と自分が重なる。
深夜3時。阿部は童心にかえったように泣き崩れ、夜明けまで泣き続けた。
(完)(962文字)
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