突然ショートショート「幸せな成り上がり」
朝起きると、私の中に何か強力な力が宿っているような感じがした。
体が軽くなったり、目覚めがよくなったりした訳ではない。それでも、この感じは何やら普段と違うということだけはわかった。
どこか違和感を持ちながら会社へ向かい、いつも通りに仕事をしている時のことだった。
部下が申し訳なさそうな顔をしてやってきた。
聞くと、どうやら私への連絡事項を伝え忘れていたらしい。
私はそれが許せなかった。基本がなっていないと感じたからだった。
その部下へ怒りを浮かべた時だった。
部下が急に悶えだしたのだ。とても苦しそうに。
どうした、と声をかけてみても、一向に苦しそうな様子を変えない。
私はその時気づいた。「気にくわない者を自由に粛清できる能力」を手に入れたことに。
それから私は変わった。能力を自由に使えたこともあり、上司でもどんな奴でも遠慮なく粛清し続け、気づけば会社のトップに登り詰めたのだ。
私を悪く言う同期も、人事評価に影響すると脅した人事部も、社長も、会長も、内部通報を受けて調査に及んだ担当者に、タレコミを受けて取材してきたメディアも。
名実共に会社の全てを我が物にしてから、10年が経った。不思議なことに、天罰やお仕置きのようなものは受けておらず、夢ではないかと何度も確かめたが、そんなことはなかった。
私はあの後も、自分の会社で楽しく働き、嫁と共に楽しく過ごし、そして死んだ。
今、転生した異世界でこの文を書いている。
死んだ辺りで悪魔がやってきて、使いすぎると死期を早めるということを後で知った。
しかし私は、楽しいままで眠るように安らかに死に、異世界でも勇者としてやりがいに恵まれた日々を過ごしている。なので後悔はない。
その旨を悪魔に伝えたら「こんな奴は初めてだ、話が違う」と笑われた。
さて、今日も魔物を倒しにいくとしよう。仲間と共に。
もうあの能力はないが、勇者としての実力を信頼してついてきてくれている仲間だ。
はっきり言って今の人生は、前世よりも良いものだったかも知れない。
ただの会社員から勇者へ。我ながら、幸せな成り上がりだった。
(完)(856文字)
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