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赤ちゃんを床に叩き落とす衝動を抱えるほど絶望していた私がそこから抜け出した方法

赤ちゃんはかわいい。
ペンギンの赤ちゃんもかわいいし、人間の赤ちゃんもかわいい。それは、赤ちゃんが生命の炎そのものだからだ。赤ちゃんは、自分の周囲にある事物一つひとつに純粋な好奇の目を輝かせ、まだ短い腕をぎこちなくも懸命に伸ばしつかもうとする。大人はそんな無垢に全幅の信頼を置く。

しかし、そんな赤ちゃんを見てイライラしていた時期が私にはある。
目をキラキラさせ生き生きとハイハイしている赤ちゃんを見て「何がそんなに楽しいんだ?」とイライラしたものだ。赤ちゃんを抱かせてもらったこともあったが、胸に抱えながらも床に叩き落としてやろうかという衝動がみぞおち深くに渦巻いていることに気づき、怖くなって早々にその異物を母親に返してしまった。当時は、そのイライラに困惑しつつもその理由を深掘りする余裕はなかった。

いまならその困惑がわかる。
精神の病気になって、発病前に勝ち組になれると思っていたようには生きられなくなった。生きていることがつまらなく、行き場のない不満があった。だから、自分と違い生命の炎を思うがままに燃やしている赤ちゃんにイライラしたのだ。

大人はふつうそういう困惑を〈絶望〉というらしい。
発病から30年。私はその絶望という名の黒い穴を手なずけ、前向きな感情で埋め立てることができたと思う。まだ十全ではないけれど。

それを可能にしたのは意識的・自覚的に自己否定をやめたことだ。
できない自分・ダメな自分を「だからダメなんだしっかりしろ」と叱咤激励してもあまりうまくいかなかった。自分を責めているうちは、自己肯定感を自分で削る一方だった。自分でせっせと穴を拡大し続けていたのだ。

自己否定をやめるとは、できなくてもうまくいかなくてもそんな自分をゆるし続けるということ。それにより穴の拡大がストップする。すると、あとは日常で自然に発生する前向きな感情で穴は次第に埋まっていく。
まず穴の拡大を止める。それが方法だ。

(800字)


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