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【ホラー小説】フカヅメ様①

是非こちらのBGMを流しながらお読みください。




「ほら、もうすぐ10時だから家に入りなさい。」

「本当だ、急げ急げ。」

「畑にいるおじいちゃんとおばあちゃんも呼んできて」

この村には江戸時代から受け継がれている変な風習がある。

"毎年5月1日は、朝の10時から夜の10時まで外に出てはいけない"

その決まりを破った者は『フカヅメ様』に爪を切られて全部の指を深爪にされるという。
村の皆はその恐怖から、言い伝えを守り続けている。

「本当にフカヅメ様なんているの?」

5月1日 朝9時
今年で中学1年生になるたかしは おじいちゃんに尋ねた。

「そんなもん、見てみんとわからんが、見たときが最後じゃ。全部の指を深爪にされるど。」

たかしは怪訝そうな顔でゆっくり自分の爪を眺めたあと、顔を上げてこう言った。
「最悪別によくない?」

「馬鹿者!!」パンッ
おじいちゃんが声を張り上げ、たかしを殴った。
家族全員が静まり返った。
普段は温厚なおじいちゃんが孫に手を上げるなんて。

すると横にいたおばあちゃんがおじいちゃんを制止し、一息ついてから真剣な顔でこう言った。

「たかし、深爪を舐めてはいかん。深爪はシャンプーする時とか 大きめの石とか持つ時とかにけっこう痛い」

(大きめの石とか持つ時とか…?)

たかしは先程より怪訝そうな顔で、おばあちゃんとおじいちゃんを睨むように見た。

おばあちゃんは続けた。
「それに、言い伝えによるとフカヅメ様が使う爪切りはちゃんとしたやつじゃのうて、なんかローカルなビジネスホテルのロゴみたいなんが入ったちゃちぃやつなんじゃ。そんな爪切りで全部の指を深爪にされてみぃ。最悪死ぬど。」

たかしは、内容どうこうより おばあちゃんが「ちゃちぃ」とか言うことにけっこう引いた。
そして一応「深爪 死ぬ」で検索した。

その後たかしは思った。

(馬鹿馬鹿しい言い伝えだ。今年は外に出てフカヅメ様なんていないことを証明して、この変な風習を終わりにしてやる。だいたい江戸時代からの言い伝えなのにビジネスホテルのロゴ入りの爪切りってどういうことだろう?あと「大きめの石とか持つ時とか」がすっごいひっかかるなぁ)

たかしの複雑な表情を見た母は嫌な予感がして、思わず声をかけた。

「たかし、今日は必ず夜の10時まで家の中でおとなしくしておくのよ。『大きめの石とか持つ時とか』は私もずっとひっかかるわ。でも、もう忘れなさい」

「…はーい」
(さすが母さん、全てお見通しだ…)



朝10時
村全体に生ぬるい風が吹き抜け、さっきまで晴れていた空が真っ黒な雲で覆われた。
外は一瞬にして薄暗くなり、まるでフカヅメ様を招き入れるかのような不気味な空気に包まれた。



続く

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