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甲子園決勝 〜固定観念との戦い〜

甲子園の決勝戦。慶應義塾高校vs仙台育英高校。

テレビをつけた時にはすでに1回表が始まっていた。すでに1点が入っていた。丸田選手の先頭打者ホームラン。応援の歓声がすごい。まるで令和じゃないみたい。

昔の活気があった日本ってこんな感じだったのかなというくらいの熱量と一体感。4年ぶりに声出し応援が復活した今大会だから尚更インパクトが強い。

僕は慶應の監督・森林さんの本を読み、その考え方に心から感銘を受け、自ずと慶應高校を応援してきた。

著書にはこんな一節がある。

高校野球はシンプルにいえば、高校生がただ野球をやっているだけですが、真夏の風物詩やお祭りのように捉えている人が多く、もはや非常に巨大なエンターテイメントになっています。
(中略)
高校野球には大人が作り出した強い固定観念があります。全力疾走、汗、涙……。それらを良識あるはずの関係者やメディア、ファンが求め、高校生が自由な意思で身動きをとれない状況はおかしいと言わざるを得ません。

『Thinking Baseball』慶應義塾高校野球部監督・森林貴彦著

慶應義塾高校野球部では、監督と部員が対等に話し合い、自分たちで考えたやり方を実行する。

  • 別に坊主頭じゃなくてもいいのではないか

  • 監督の呼び方は、〜監督じゃなくて、〜さんでいいのではないか

これには驚いた。驚いたし、長年、自分もそこに疑問を持たずにいたことが何となく恥ずかしい気持ちになった。過酷な練習の厳しさ、苦しさを乗り越えて、甲子園の切符をつかみ、汗を流し、涙する姿に、多くの大人は自らのイメージする「青春」を球児たちに投影する。

そして自分の求める高校野球への美学に反するものは容赦なく批判するか、強い違和感を覚える。それは「青春の押し付け問題」と森林さんはバッサリ切る。

皆が皆、甲子園というキーワードに取り込まれて中毒症状を起こしてしまったような状態。選手も自ら進んでその枠に入り、坊主頭を強制されることに何の疑問も抱かないような子が大多数ではないでしょうか

これまで皆さんが見てこられた〝ザ・高校野球〟とは異なりますが、新たな形を提示していき、旧来の価値観に揺さぶりをかけることが目標であり、また私の使命だとも思っています」

『Thinking Baseball』慶應義塾高校野球部監督・森林貴彦著

森林さんの考えに惹かれた入部した野球部員もかなり多いらしい。彼の価値観にすごく共感する。そしてその考えを監督と部員がフラットな信頼関係を築いて実行していることが本当にすごい。

しかし森林さんのそんな思いを知ってか知らずか、甲子園決勝戦はまさにエンタメ化していた。ネットでは「慶應の応援」がトレンド入りし、試合が終わったあとでもなおニュースがその賛否を伝える。

観客応援イメージ(これは慶應高校ではなく、AdobeStockのフリー画像です。何となくこのあたりで画像を差し込みたくなったので入れました。深い意味はありません)

たしかに僕自身、慶應を応援しているつもりが、あまりに応援の大きさに、慶應の攻撃の時は、テレビのリモコンで音量を小さくした。

個人的にはギリギリの接戦を期待していたので
(これもまた青春の押し付けかもしれないが)
あまりの得点差が生まれた時には、やはり仙台育英が気の毒になり、途中からどっちを応援したいのか自分でもよく分からなかった。判官贔屓(はんがんびいき)とはまさにこのことか。

それでもやはり慶應義塾高校が優勝したとき「すごいものを見た」と心から思ったし、仙台育英高校の選手たちもまたあのアウェー感で最後まで諦めなかった闘志に心から拍手したい。ぱちぱちぱち👏

ここまで僕はずっと森林さんのファンではあったが、仙台育英の監督・須江さん試合後談話もまたあまりに素晴らしすぎた。

今年の高校野球では「盛り上がりが足りない」という応援歌が一大ブームとなっていた。

「も!もり!もりあ!もりあがりが足りない!」

慶應義塾高校では監督の名前にちなんで応援歌「もりばやしが足りない」と歌っていた。

甲子園決勝では、その応援歌が必要ないくらいスタンドは盛り上がっていた。休憩後の6回表には1度歌われたが、慶應応援団にとっての唯一の悔いはあの歌を歌う必要がないくらい「もりばやしが足りていた」ことかもしれない。

固定観念や同調圧力が多いこの国だ。みんなが「こうあるべきだ」の美学を求め、その結果、高校球児の坊主頭のように「あたりまえ」が生まれる。それは職場でも、学校でも、家庭でもいろんなところで知らぬ間に起きているのかもしれない。

「あたりまえ」に一石を投じるのはとても勇気のいることだ。でも森林さんが訴えかけるように「もっと柔軟な見方をしていこうよ」と呼びかけたい時、僕はこの言葉を使ってあなたを応援したい。

「も!もり!もりば!もりばやしが足りない!」

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