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生き物たちの生存戦略

軽井沢につくと、秋を告げるようにうろこ雲が広がっていた。

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広角レンズがふさわしい被写体を、
マクロレンズで撮るという失態をおかした。
10年もこの業界にいて、こんな撮影をするなんて、
永遠のアマチュアである。

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運転の疲れを星野温泉、トンボの湯で癒す。
ルーティーンにしたくなるほどの良い選択だ。
翌日、ピッキオという自然ツアーに参加した。

「野鳥ツアー」といいながら、
雨上がりの空にその姿を見出すことは難しく、
ひたすらに花と虫を見つめていた。
バードウォッチングのための双眼鏡を
300円で借りた人たちを気の毒に思う一方で、
場違いなはずのマクロレンズがここで活きた。

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シラネセンキュウには驚くほどいろんな虫がやってくる。
あらゆる形態の虫たちにその蜜を吸ってもらうことで、
代わりに受粉を手伝ってもらう。
Give & Take は自然の法則である。

「蟻が多い植物は蜜が多い証拠」と
何かの生態系図鑑で読んだことがある。

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いいじゃないか、これでこそマクロレンズの真骨頂だ。
がんばれ蟻くん、もう一踏ん張りだ!
マクロなレンズでミクロな世界を覗くのはもはや快楽の域である。

そういえばなぜミクロレンズではなく、マクロレンズと呼ぶのだろう。
10年もこの業界にいて、そんな基本も知らない。
永遠のアマチュアである。

「獣道は必ず、斜めにつくられる。なぜならその方が足に負担がないから」
「ザトウムシは座頭虫と書く。「座頭」とは昔の言葉でいうところの盲目。 盲目に近い状態だが、クモみたいな長い足で、周囲を探りながら歩く。死んだ虫の死骸を食べるので、森のお掃除屋さんと呼ばれる」

など、歩きながらも、道行く先に現れる虫や自然の形跡に
一つ一つ解説とうんちくを語れる優秀なガイドさん。

すると、そこへ1匹の毛虫がゆっくりと、糸をつたって降りてきた。
皆さんもみたことないだろうか。
いきなり毛虫が降りてきてビックリするアレだ。

「これはおそらく、今、シジュウカラが鳴いているので、
 木の上にいた毛虫は、身の危険を感じて木の枝から
 降りてきたのだと思います。
 こうやって糸をつたって降りてくるのは、
 彼ら(毛虫)にとっては決死の覚悟の時なのです」

そうなのか、毛虫一匹降りてくるのにも、そんなドラマがあるのか。

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さて、皆さんはこの上の写真から1匹のカエルを見つけられるだろうか。
ツアーに参加した10人くらいのうち、子供だけがすぐに見つけ、
大人たちは僕も含めてしばらく見つけられなかった。

「たいていカエルは1000個近くの卵を産みます。
 そしておたまじゃくしになったそのほとんどは天敵に食べられて、
 親ガエルにまで成長できるのは全体の1%程度です」

なんという過酷な物語なのか。いや、むしろそれだけの確率だからこそ、
1000匹も卵を産めるように進化したのかもしれない。
そして、その膨大なおたまじゃくしたちのおかげで、
どれほどの生き物たちの飢餓が救われてきただろうか。
ある生き物にとっての生存の危機は、
別の生き物にとっての生存の希望である。

A面だけでは測れない、B面もあるところにこの世界の多様をみる。

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やがて歩いていくと、桜の木に出会う。
そこにはハッキリとツキノワグマの爪痕があった。
これはただ引っ掻いたのではない。
木の上に登ったのだ。何のために?

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木の上のさくらんぼを食べるためらしい。
しかも上のほうをよくみると、
おもむろに枝が茫々に生えているようにみえる。
こういう光景は今までも何度かみてきた。
はじめは鳥の巣かと思ったが、それにしては乱雑なのである。

「これはツキノワグマがさくらんぼを食べるために枝を折って、
 その折った枝を自分の下に敷いて積み重ねることで
 座布団にしているのです。より座り心地良く、ご馳走を食べたいのです」

なんてことだ、なんて知能の高い動物なのだ。
そしてその行為、あまりに可愛すぎるではないか。
しかしA面があれば、やはりB面がある。
安易に感心しておわってはいけない。
食べるものがいれば、食べられるものの立場というものがある。

「実はこの木にとってもクマがさくらんぼを食べてくれることは
 嬉しいことなのです。
 クマがフンをしたときに、そのフンの中に種があるので、
 また次の木が生まれる可能性があるのです」

おぉ、これぞ「共生」ってやつじゃないか。
そして、この日、僕が一番感心したのは、ツリフネソウである。

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茎の上に凛と咲くのではなく、
その名の通り、吊り下がったかたちで咲いている。
千鳥的にいえば「クセがスゴそうな花」だ。
そのクセはこの形態だけではなかった。

この写真をよくみると花びらの上に
1匹の羽蟻みたいなのが停まっているが、
実はこいつでは、ツリフネソウの奥にある密は吸えないらしい。

「トラマルハナバチの長い舌でしか奥にある蜜は吸えないんです。
 トラマルハナバチにぴったり合うように花の形ができているのです。
 それによってトラマルハナバチに花粉をつけ、
 受粉の打率を上げるのがツリフネソウの戦略なのです」

他の花にいかず、同じ種類の花にいく可能性が高いから打率が高い。
トラマルハナバチとツリフネソウは共存関係にあるのだ。

ツリフネソウはトラマルハナバチにしか吸えない蜜を用意することで、
シラネセンキュウのように、
いろんな虫が運んでくれる可能性を自ら閉ざしてしまった。

トラマルハナバチがいなくなれば、ツリフネソウもいなくなってしまう。
しかしトラマルハナバチがツリフネソウばかりを往来してくれることによって、打率をあげ、生存できる可能性に賭けたのである。

なんてこった、良質な短編映画のように面白い話じゃないか。

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すると、そこへ噂のトラマルハナバチがやってきた!
あわててシャッターを切ったおかげで、
肝心のハチにピントがきていない。
永遠のアマチュアである。

仕事の疲れを癒そうとネイチャーツアーに参加してみたが、
驚くほどこの日、耳にしたのが「戦略」という言葉だった。
自然の中にこそ、ビジネスの本質があるという、
natural Paradox的な感覚を味わった。

そう虫も植物も、みな、それぞれの強み弱みを生かしながら、
独特の生存戦略で生きぬいているのである。

こんな呑気にブログを書いていていいのか。
これは僕の生存戦略なのか。
「自分へのラブレター」とか言ってる場合じゃない。
前回のブログを参照)
誰かのためのラブレターを書かなくちゃ。

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