学校警備員をしていた頃 その14

 以前、学校警備の仕事をしてた頃のことについて振り返って思い出せることを書いています。
※ 最初から読みたい方は、学校警備員をしていた頃から読むことをおすすめします。
※ ひとつ前の話→学校警備員をしていた頃 その13

 「若い人はいいかもしれないけど、こっちは年寄なんですよ」
 選挙なんてそんなに毎月のようにあるわけではないのでないので、当然のことながら選挙の時の警備は警備会社の仕事としてはかなり珍しい部類である。警備と言うか、正確に言えば入場整理ということになるだろうか。
 私は、1回だけ行ったことがある。 
 まず、当日の朝、指示された選挙会場になっている小学校に早めに行く。初めての場所だったけど、ネットで地図を出して、それを携帯で撮影しておけば、それを見ながら簡単に行かれる。便利な世の中になったものだ。
 選挙会場の小学校に着き、責任者らしき人に挨拶すると、「体育館の倉庫で着替えるように」という指示を受けた。体育館の倉庫は、跳び箱とかマット等々懐かしい品々があり、天井が高く思いの他広々としていて、なかなか快適である。
 警備士の制服に着替えて出て行くと、体育館の入り口で入場整理を行うように言われた。
 最初のうちは、入場者も少なくやることがなかったが、だんだん混んでくると出番になる。
 中から「20人入れてください」等の指示があり、その人数だけ入ってもらい、そして、それ以上入らないようにする。正確な文言は覚えていないが、確か「お待ちください」みたいなことが書いてあるプラカードを持って、入らないように見張っていた。
 というのが主な仕事内容だった。
 別に難しい仕事ではないが、時々質問する人や文句らしきことを言ってくる人がいて、それが少々うっとうしかった。

「なんでこんなに混んでいるの。いつもこんなじゃなかったよ」
 と聞く人がいた。聞いてきたのはわりあい若い男性だったと思う。
「今日は、衆議院の小選挙区・比例代表だけでなく、都知事選と最高裁の国民審査もあって、投票することがいつもの倍くらいあるのでそのぶん時間がかかっています」
 と大真面目に答えると納得していた。
 手元に複数入場券を持ってきているはずなので、それを見れば投票箱の数がいつもより多いことはわかるはずなのだが、そのことと現在待たされていることとが、うまく頭の中で結びついていなかったのだろう。
 でも、家に帰ってからmixiを見たら、「今日は投票率が低いのにいつもより混んでいた。不思議だ」という書き込みがあった。知っていること同士がうまく結びつかないというのは、ちゃんとした大人でも結構よくあることなのかもしれない。自分だって、たまに変なタイミングで妙な質問をして相手から怪訝な顔をされるなどいろいろと他人から変に思われることが多く、人のことは言えない。

 昼前の混んでいる時間帯に、おじいさんが近づいてきて言った。
「いやあ、混んでるねえ。夕方くらいになったらすくだろうから、その頃また来るよ」
「すみません」
 おじいさんは、去って行った。
 わざわざ警備士に言ってから帰る必要もなさそうだが、おしゃべりするのが好きなのかもしれない。あるいは、「私は判断力にすぐれた人物ですよ」とちょっとだけ認めてもらいたかったのかもしれない。でも、とてもあっさりしたやり取りで、全然嫌味な感じはなかった。
 その後、少し太り気味の元気がいいおばあさんが出入り口のところに座り込んだ。
「若い人は、いいかもしれないけど、年寄は待たされるとつらいんですよ」
「若い人はいいかもしれないけど、こっちは年寄なんですよ」
 独り言のようにぶつぶつぶつぶつこちらの顔も見ずに何度も何度も言い続けている。どうもド演歌みたいなノリで、こういうのは苦手だ。
 聞かないで済むように優先的に先に通ってもらうこともできるけど、あんなに元気そうな様子でぶつぶつ文句を言われると、それもどうも気が進まない。
 相手にしないでいつまで言い続けるのか様子を見ていたら、20分くらいであきらめて一番後ろに並び、別につらそうでもなくごくごく普通の様子で、普通に順番を待って、投票所に入っていった。
 いったい、あの文句は何だったのだろうか。あのおばあさんは、本当につらくて優先的に入れてもらいたかったのではなくて、座り込んでぶつぶつ文句を言うという行動自体が好きだったのだろうか。もしかしたら、ぶつぶつ文句を言うことで他人からかまってもらいたかったのかもしれない。
 寂しい人なのかなあ。
 もちろん、どんな人なのか全然知らないので断定はできないけど、その時の様子とか行動から判断して、そんな雰囲気も感じた。

※ 次の話→学校警備員をしていた頃 その15

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