学校警備員をしていた頃 その20
以前、学校警備の仕事をしてた頃のことについて振り返って思い出せることを書いています。
※ 最初から読みたい方は、学校警備員をしていた頃から読むことをおすすめします。
※ ひとつ前の話→学校警備員をしていた頃 その19
無邪気な60代
S区では、生徒の下校時に通学路で旗を持って立つ、昔よくいた「緑のおばさん」のような仕事も主事さん(正式には用務主事、昔ふうに言えば用務員さん)がやっていて、生徒が下校する時間の少し前に交通安全の旗を持って主事さんが出てくる。
ある時、T小学校で、生徒の下校する前、生徒がまだ出てこないので、主事の森川(仮名)さんと雑談をしていた。その時、森川さんがやや唐突に「警備さんは結婚しているの」と聞いてきた。
「いやあ、結婚はしていません」と答えると、「てっきり、結婚しているのかと思ったけど違うのか。それだからやっていけるのか」と言われた。以前、給料のことを聞かれて正直に答えたことがあり、それを覚えていたのだろう。
そして、「それで、1回も結婚したことなくてずっと独身なの」とさらに聞かれた。
なんとなく、無邪気にからかっているような雰囲気が感じられ、若干不愉快でうっとうしかった。森川さんは、再任用(60で停年退職になった後、現役時代よりは少ない給料で、65歳になって年金が出るまでのあいだ嘱託として働いている立場)なので60代前半である。60歳すぎた人が無邪気だというのも変かもしれないが、私は、この表現が妥当だと思う。偏見に満ち満ちた物の見方と言われるかもしれないが、正直な感想としては、小学校で長年ゴミや植物が相手の仕事をやり続け、それ以外の仕事をしたことがないから、こんなふうに無邪気なのではないだろうか。
「そんなこと聞く人は森川さんくらいですよ」と答えると、森川さんは無邪気にニコニコと笑い、その話はそれで終わりになった。
以前19歳の女の子に同じように聞かれたことがあった。自分で書店を経営していた頃、流通業の勉強をするために近所のセブンイレブンで働かせてもらっていた時に、一緒に働いていた女の子だった。まあ、19歳ならば、なんでも知りたがる年頃だし、別にからかっているような雰囲気はなく、ただ単に関心があって聞いているという感じだった。
なので、その時は特に不愉快とかうっとうしいとは思わなかった。むしろ、関心を持ってもらえてうれしいという気もしていた。
この時は、その時とは全然違う気持ちがした。
森川さんからは、以前、同じく生徒が下校する前に雑談をしていて、「給料は、いくらくらいなのかな」と聞かれたこともあった。その時の聞き方も、例によって無邪気でごく自然な感じだった。
その時は、「日給7500円です」と正直に答えた。
「それじゃあ、大変でしょう」と言われ「まあ、この仕事は、失業した人が、次の仕事が見つかるまでとりあえずやる。という場合が多いですね。ずっと続けていくのは収入が少ないから大変ですよ」なんて思わず余計なこともいってしまった。そして、「まずかったかな」と思い「会社からはアルバイトだということは言わないように言われているので、今の話は内緒にしておいて下さい」と言った。
森川さんは「わかったわかった。誰にも言わないから大丈夫」と答え、ニコニコしていた。
森川さんの場合、わりあい、同じ場所で働いている人を、同じ村に住んでいる仲間みたいに思っているのかもしれない。「外部から派遣されてきている人だから少し距離をとろう」という感じがないので、親しみやすくていいとも言える。でも、それが行き過ぎているような気もする。唐突にいろいろと聞いてくるので、「年齢のわりにはずいぶんと無邪気な人」という印象だ。長年公務員をしていることと関係があるのだろうか。民間の人とは感覚が違うような気もする。
学校の主事さんが、警備員さんに好かれようが嫌われようが、給料が変わったり出世に影響があったりするわけではないので、わりあいなんとなく気になることを何気なく話していたのかもしれない。もちろん悪気があるわけではない。なかなか愛想のいい好人物で、生徒たちは、「コーちゃん、コーちゃん」と言って慕っている。
※ 次の話→学校警備員をしていた頃 その21
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