学校警備員をしていた頃 その21

 以前、学校警備の仕事をしてた頃のことについて振り返って思い出せることを書いています。
※ 最初から読みたい方は、学校警備員をしていた頃から読むことをおすすめします。
※ ひとつ前の話→学校警備員をしていた頃 その20

 「すごい遠回しに言ってるんだもん」
 森川さんと話していて印象に残ったことがもう一つある。
 やはり、生徒が出てくる前に道で話していた時のことで、どういうわけか、主事さんの勤務の話になった。
「うちのAは非常勤で、一か月に14日(たぶん14くらいだと思うが正確には覚えていない)の勤務だ」
「他の3人は専任ですか」
「俺は再任用で週4日勤務だけど、他の2人は、会社で言えば正社員だ。でも、区役所は人件費を減らしたがっているから、これからはアルバイトが増えると思うよ」
「そうですか」
「まずは、われわれ。最終的には教員を全部アルバイトにする。教員がみんなアルバイトになれば、授業やってすぐ帰るだけだから教員同士でケンカすることもなくなる」
 確かに教員がみんな授業が終わってすぐに帰ってしまえば、教員同士顔を合わせる時間が減るからケンカする機会が減るということも考えられるが、「いきなりその話になるのかな」という気がした。
「教員が今までやっていた授業以外の仕事は誰がやるんだろう」
「管理職がやるのかな」
「そうすると、管理職の出張を減らすなど、現在の管理職の仕事を減らさないとだめだな」
「それでうまくいくのかな」
 等々の話をしてから、「でも、教員が早く帰ってしまえば、教員同士の対立が減っていいかもよ」なんて少し冗談交じりで言う。というふうな流れというか順番が普通のような気もする。
 が、森川さんはいきなり「教員同士ケンカしなくなる」なんていう話を始めた。

 森川さんとの話は続きがある。
「教員がみんなアルバイトになるっていうのは、あるとしてもずいぶん先な話のような気がしますが、本当にそうなりますか」
「まあ、役所はそれを狙ってるんだ」
「アルバイトを増やして予算を減らしたら、担当者の点数稼ぎになりますね」
「関係ないよ」
「関係ないんですか」
「経費節減ができるってことなんだよ」
「今、私はそのことを言ったつもりなんですが。経費節減ができると担当者が評価されるんじゃないですか。それを点数稼ぎといったんですけど」
「すごい遠回しに言ってんだもん。全然わかんない」
「わかりにくい言い方してすみません」
「そうだよ。ちゃんと反省しないとだめだ」
 森川さんが「関係ない」「遠回し」などと言い出したのはやや意外だったし、「反省しないと駄目だ」なんて、お説教になってしまったのも、「変だなあ。ここでこういうふうに言うものなのかなあ」と思った。
 森川さんのことだから、「区役所の本庁舎の連中は、なんでもかんでも経費を削減して、自分の点数稼ぎをやろうとする。まったく困ったもんだ」とかなんとか賛同する意見を言うのかな。と思っていたのだけど、予想がはずれた。こちらが話の流れの中でごく自然にお役人の事情がわかっているようなことを言うので、びっくりしてしまったのだろうか。「意外な人(警備員)から意外なことを言われて驚いた」というところか。「言ってる意味がわかりません」の項目でも書いたような「内部でお互いに批判するぶんには何とも思わないが、外の人から言われると頭にくる」ということなのかもしれない。
 自分たちのことについて、外部の人間からわかってるふうに言われるのが、単純に嫌なのかもしれない。別の項目で書いた、O中学の事務の伊藤さんが、「言ってる意味がわかりません」と言っていた時の感じと少し似ていると思った。

※ 次の話→学校警備員をしていた頃 その22

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