慶應幼稚舎出身の3人の社長(遠藤龍之介氏・迫本淳一氏・玉塚元一氏)について考える ー現代日本のトップリーダーについての考察ー

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 今回は、慶應幼稚舎出身で有名企業の社長または元社長の上記3氏について考えてみる。非常に有名な人でもう一人、トライグループ社長の二谷友里恵氏もいるのだが、元芸能人・元郷ひろみの奥さんでサラリーマン経験がなくほとんど芸能人と経営者しかやったことがないというかなり特殊な経歴の人物であり、また、トライグループ創始者であるご主人の税金逃れのために名前を貸しているだけという噂もあってどの程度経営に携わっているのかわからない。そのため他の3氏と比較するのが難しいので割愛する。
 当然のことながら、幼稚舎出身の有名実業家について考えることで何がわかるのか?何のための考察なのか?日本社会について何かわかることがあるのか?小学校教育と将来の職業的な成果の関係について何か知見が得られるのか?それとももっと別のことについて考えるのに役に立つのか?といったところが重要である。
 いわゆる論点設定とか論点仮説といったものだが、慶應幼稚舎及び上記3氏についてのだいたいの経歴のアウトラインがわからないと筋のよい論点がなんなのか考えることは難しいので、まずそこから始めてみる。

 慶應幼稚舎という小学校は、お受験の頂点に位置する存在である。卒業生に女子アナや歌手・俳優などの芸能人・音楽家等有名人を多く輩出している、ということなどもあって何かと話題になりやすい。
 エスカレーターと呼ばれることが多いのだが、小学校から大学まで内部進学が可能であるところが最もよく知られている事実だろう。だが、幼稚舎自身の教育や児童をとりまく環境にも特徴がある。例えば、1年から6年までクラス替えがなく友達ができやすいこと、学校側の教育方針としては自分でものを考える能力をいかに身につけさせるかに主眼がおかれていること、裕福な家庭の子弟が多く児童の各家で友だちを招く誕生日会が行われることが多いこと、等々である。
 遠藤氏が1956年生まれ、迫本氏が1953年生まれ、玉塚氏が1962年生まれなので、3人が幼稚舎を受けたのは1950年代後半から1960年代にかけてである。現在の幼稚舎受験は、筆記試験がなく保護者の面接もないが、その時代には、筆記試験と保護者の面接の両方があり、従って入学者には非常に頭がよい名門の子弟が多かった
 現在の幼稚舎受験は大衆化が進み、筆記試験がなく行動観察中心で、親の面接もない。まだ現在のような受験体制になってからそれほど年月が経っていないし、時代も変化しているので、どちらがよいのか答を出すことは難しい。と言うより、比較するのはあまり適当ではなく、「どちらよいか?」という問いはあまり意味がないのかもしれない。

 三氏について簡単に経歴等を見ていく。
 遠藤氏は、フジテレビ以外の会社に勤めたことがない典型的な戦後日本の終身雇用制度の中で過ごしてきた人で、創業者とかオーナーの一族でもないいわゆるサラリーマン社長である。遠藤氏のように、新卒で入った会社でだんだんと出世していってサラリーマン社長になる人は、幼稚舎出身者では少数派だと思われる
 迫本氏は、大学を出て松竹映画劇場という不動産管理会社の社員になり、会社に勤めながら司法試験に受かって弁護士になった後に、松竹の相談役から副社長・社長になった。祖父が、松竹創業者大谷竹次郎の娘婿で社長・会長を務めた城戸四郎氏で、三人の中では唯一創業者一族に連なる人物である。松竹(本体)には40代の半ばに最初からいわゆるお偉いさんで入社した。
 松竹映画劇場というのは不動産管理会社で歌舞伎や映画とは直接関係がない会社であり、弁護士時代は国際弁護士で国内の興行に関する仕事をしていたわけではなく、松竹に相談役で入るまでは映画や歌舞伎関係の仕事をしたことがない。
 松竹ほどの有名企業ではないが、迫本氏のように創業者の一族で、親などの後を継いで経営者になる人が幼稚舎出身者には多く、その意味では一番幼稚舎出身者らしいキャリアを歩んでいると言えるだろう
 玉塚氏は、一般的に言えば3人の中では一番有名な人だと思う。ファーストリテイリング(ユニクロ)の社長になった時とクビになった時にマスコミ等で話題になり、その後、ローソンの社長・会長になったがこちらも退任している。
 他の会社・業界の経験を生かす、というのがコンセプトなのだろうか、3人の中では一番いろいろな業界のいろいろな会社を渡り歩いていて、玉本氏のように直接関連のない複数の会社を経営者として渡り歩くという人は、幼稚舎出身者に限らず日本では珍しい
 
 このように3者3様の経歴で興味深いのだが、そのためもあって何を論点にするべきなのかが難しい。自分が思いつくこととしては、「3人とも筆記試験と保護者の面接の両方があった時代に幼稚舎に入ったので頭がよく親が裕福とか名門の出身なのだが、大学受験を経験していない」ということである。ここは、遺伝と環境の相互作用という観点から見て重要だと思う。
 比較対象としては、幼稚舎出身者とは対照的に受験勉強をがっつり体験した東大出身の有名な経営者・元経営者の堀江貴文氏とか三木谷浩史氏等が考えられ、比べてみると確かに雰囲気の違いを感じる。だが、そこからどういう知見が得られるかというとなかなか曰く言い難いものがある。
 あれやこれや事実を拾って見ていくと、「教育とか子どものころの体験と大人になってからのキャリアとの関係というのは、なかなかうまく記述するのが難しいものだ」「こういったことで筋のいい論点や仮説を見つけたり立てたりするのは大変に難しい」と思えてくる。

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