学校警備員をしていた頃 その24

 以前、学校警備の仕事をしてた頃のことについて振り返って思い出せることを書いています。
※ 最初から読みたい方は、学校警備員をしていた頃から読むことをおすすめします。
※ ひとつ前の話→学校警備員をしていた頃 その23

 「まだ火曜日かあ」
 私がやっていた学校警備の仕事は、生徒の下校時以外は、「不審者が入って来ないように校門に立っていて、時々学校の周りを巡回する」というものだった。
 生徒の下校時には、校門の外側で、生徒が校門から出てきて学校の前の道を通って帰っていくのを見守る。時々生徒がこちらを見ながら「じゃんけんポン」なんて言ってきたとき、じゃんけんの相手をしたりすることもあるが、基本的には「さよなら」というあいさつだけを繰り返す。それに対する生徒たちの行動は、「挨拶を返してくれる」「自分から挨拶をしてくれる」「こちらが挨拶しても無視して行ってしまう」などである。帰る時の生徒の行動にも、いろいろと個性があって面白い。
 それと、道の真ん中を歩く生徒がいると「道のはじを歩きましょう」等、声をかける。

 勤め始めた頃、O小学校の外木場(仮名)副校長先生は、時々生徒の下校時に私と並んで立ってくれていた。外木場先生は、体格のいい男性の管理職で、極心空手をやるという話を誰かから聞いたが、いかにもそういう感じのがっしりした体つきだった。いつも記録帳のようなノートを持っていて、「うーんと、ちょっと待てよ」なんていう言葉を頻繁に発し、いかにも不器用そうだが、真面目に頑張っている印象だった。
 できるだけすべての生徒に「さようなら」と声をかけるように心がけ、道の真ん中を歩いている生徒がいると「路側帯の内側を通れ」なんて叫んで仕事を手伝ってくれていた。
 その時、少し立ち話をする機会があった。
 「あーあ、まだ火曜日か」
 「でも、今週は土曜日もあるんだ。授業時間確保のためだけど。やったってたいして変わんないと思うよ」
 「今日、研究授業があったけど、授業なんて誰がやって同じだ」
 「自分が教員になった頃は、教員ってこんなに忙しくなかったなあ」
 等々、まあ、四角四面の真面目な人だったら「けしからん」と言うかもしれないが、柔軟で健全な見方からすると、本当に健康的、常識的なことを言う人だった。こういう人が管理職ならば、教員がうつ病になったり必要以上に物事に対し神経質になったりすることも少なくなるだろう。その結果、生徒同士のいじめなども減少するのではないか。
 ところで、上記の発言の中では「~授業なんて誰がやっても同じだ」というのは、どういう意味で言っているのか少し聞いてみたい気がした。「教員それぞれ個性があり、授業にもそれぞれ個性があって、どういうのがいいか、いちがいには言えない」ということなのか、それとも「カリキュラムがきっちり決まっていて、教員が個性を発揮して特徴を出す余地が少ない」という意味なのか。それとも、もっと違うことを考えていたのだろうか。どうも真意はわからなかったが、「誰がやっても同じだ」という言い方は、なんとなく感じが出ていていいと思った。
 一方、私の方から外木場副校長先生に話すことは、土日や祝日(学校警備は土日祝日と長期休業中はない)に行った現場のことなどであった。
「連休中は上野動物園に行ったんだけど、天気もよくて満員でした」
「上野動物園ってどんな仕事があるの」
「私がやったのは、パンダの列の一番後ろで、『ここが列最後尾』なんて書いてある看板を持って立っているんです」
「俺も連休中子どもと一緒に上野動物園に行ったけど、そんな人いたっけなあ。ああ、でも、いたかもしれないなあ」
 外木場先生には小さい子どもがいるようだった。
 私自身のことについても聞かれたが、その内容は「好きな音楽は?」というあたりさわりのないものだった。
 「1980年代の洋楽がわりと好きです」
 「例えば…」
 「ホットニー・ヒューストンとかマライア・キャリーなんかをよく聞きます」
 「ああ、あのへんも結構いい」
 「副校長先生はどんな音楽が好きですか」
 「ツェッペリンかな」
 同年代なので、話も合う。音楽の話などはいい話題だと思った。収入とか結婚について聞くよりは無難である。
 ところで、外木場先生が校門で生徒に挨拶をすることについては、事務の美川さんはよく思っていなかったようで「さよならおじさん」と名付けて批判していた(それについては、次の項目で書く)。美川さんは、O小学校で事務を担当している男性で、見た目や話し方からして、50歳くらいだったのではないか。
 その後も外木場先生は、美川さん言うところの「さよならおじさん」自体は時々やっていたが、私のいる校門の外ではなく、校門の内側でやるようになった。
 「警備員とおしゃべりしているところを教職員のみんなに見られると、どうもさぼっているところを見られているみたいでよろしくない」と思ったのかもしれない。

※ 次の話→学校警備員をしていた頃 その25

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