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大人の社会科見学:in下水道 /in 多摩川

12月8日、朝9:00。我々、東京地下ラボメンバーは都庁に集まった。
この日の持ち物は、お弁当とマイ箸。
移動手段は「innovation」と描かれた今回の取り組みに相応しい大型バスである。
バスの席はZINE製作グループごとに指定され、車内では午後の多摩川でのフィールドワークを担当される佐々木さんからのご挨拶や、下水処理についてのオリジナルアニメーションの放映があった。

この感じ…、何年振りだろうか。
所々で眠る人がいる光景も含め、小学生の頃の社会科見学を思い出しながら、南多摩水再生センターへ到着した。

職員の方々からレクチャーを受けた後、早速処理施設内の見学へと向かう。

歩いていくとまず右手に、塔があった。
「東京アメッシュ」という降雨情報サイトをご存知だろうか。
5分に1回、降雨状況が更新され、過去2時間分のデータまで遡ることができると人気のサービスである東京アメッシュ。その塔は、東京アメッシュのデータを集めている雨量レーダーだった。
なぜ下水道施設が降雨に気を使うのかと疑問に思う方もいるかもしれないが、その理由は下水道の果たす役割の1つにある。

近年の道路はコンクリートやアスファルトになっていて、地に降り注いだ雨水の行き場所が少なくなっているが、雨水が適切に排水されないと、街は浸水してしまう。そこで「排水」の役割を担う下水道が一役買っているのだ。そうなると排水処理を円滑に進めるために、下水道局は随時、降雨状況を把握していなければいけない。せっかく正確なデータがあるのならば生活者にも有効活用してもらおうということで生まれたのが、東京アメッシュである。

小学生の頃、「アメダス」を知り、大学生になって、「アメッシュ」を知った。
今日も、家を出る前に天気予報を見てから出たのに、電車を降りた途端に雨が降っていて買ったばかりのコートが濡れた。明日からは、東京アメッシュを活用してこんな惨めな思いはしないようにしたい。

暫く見学を続けていると、フェンスを挟んだ隣の敷地で少年たちがサッカーをしていた。
南多摩スポーツ広場と言うらしい。

下水処理施設はその事業の特性から、地下にあることが多いため、空いている上部の空間は、各自治体管轄の元、都民に還元されている。この南多摩スポーツ広場もまた、下水処理施設の空間を有効に使っている、稲城市管轄の施設の1つだった。

また見学では、多摩川を挟む2つの水再生センターを地下でつないでいる連絡管も観させていただいたのだが、降り立った途端に、ロマンと生温い風を感じた。風は川の向こうの、府中の風であるのだが、ロマンは完全に主観である。過去の話、このプロジェクトの話を聞いて「下水道」がテーマだと知った時、私は真っ先に「ロマンじゃん…」と思ったのだが、それは映画の世界で度々魅力的な舞台として描かれて来たからだ。ハリソン・フォードが下水道の中を走った「逃亡者」、ミニクーパーが下水道を駆け抜ける「ミニミニ大作戦」、フランス革命の混乱の中で娘の恋人を担いで運んだ「レ・ミゼラブル」、恐怖のペニーワイズが下水道に住まう「IT」、スケールの大きい下水道が描かれていた。日本の地下施設は、そこまで大々的なものではなく、刑事ドラマで犯人が追い込まれた時に逃げ惑う先という雰囲気だったが、此処はここで、またかっこよかった。

下水処理施設は、予算面・環境面にも多く配慮をしている。「工場」をイメージすると、煙突から白い煙が上がった絵が浮かぶ人が多いのではないだろうか。東京都下水道局では環境に配慮し、下水処理の過程で発生する汚泥を燃やす施設で、あの白い煙を排出していない。他にも土地の傾きを利用して太陽光パネルを設置し、発電した電力を水再生センターで利用したり、汚泥をセメント化して新しい下水道管にリサイクルしたり、ガス化炉の温度や熱効率一つ一つに関しても、さまざまな工夫をして、環境・生活者に一番配慮した形にしているのだ。

美大生のシャッターを切る指を止めることがなかった下水処理施設は、工場萌えの人々にもオススメだ。内容を知りたい人も、映えたい人も、ぜひ一度行ってみてほしい。

ここからは、この下水処理施設の先、綺麗に処理された水が放流される多摩川についてだ。
多摩川はその昔、とても汚かったが、今では綺麗な水を好む鮎が生息するほど回復したらしい。その事実を確認すべく、我々は多摩川の河川敷へ向かった──────、

多摩川に到着して早々、お弁当タイムになったのだが、その際に多摩川で獲れた鮎の天ぷらが振舞われた。その場で自然に囲まれながら食べる鮎は格別で、東京地下ラボメンバーは一様に美味しいと頬張っていた。身をもって体験できたことは、多摩川が美しく蘇っていることの何よりの証明だった。

いよいよ、午後の活動だ。その雰囲気、見た目からしてナチュラリストである、プロ・ナチュラリストの佐々木さんから出されたテーマは、「多摩川が綺麗になっているシンボルの生き物を探そう!」というもの。

4枚のシートに、多摩川の河川敷を歩いて見つけた「多摩川が綺麗になったから生息している生物」の絵をそれぞれ描き、描いた生物が繋がって、最終的に循環するように繋げていく内容だ(リサイクルの輪のような)。

参加者は、「綺麗になった多摩川に生息する生き物」からチョイスしたチーム名、ハクセキレイ・大根・うなぎ・狸・白鷺のもと、5チームでフィールドワークに取り掛かった。

冬という季節もあり、まず中々動植物がない上に、何より難しいのは「繋がり」がなければいけないということ。食物連鎖を4枚に納めなければいけないのだ。最初の1枚を埋めるのも一苦労である。

川にある岩の表面についていた気泡をカエルの卵だと勘違いしながらも、なんとかフィールドワークを終えた。私たちのチームは、「蝿」→「蜘蛛」→「ハクセキレイ」→「ハクセキレイのフン」という流れだ。蜘蛛の巣に引っ掛かった蝿が蜘蛛に食べられ、その蜘蛛をハクセキレイが食べ、ハクセキレイのフンを蝿が食べる。実際のところ合っているのかは微妙なところだが、今回の目的である「繋がり」を意識しながら綺麗になった多摩川を感じるということは達成できた。

ハクセキレイも、ミズグモも、水が綺麗な場所にしかいない。当たり前のように河原に生えている木も、綺麗な川でなければ生きていけない。私たちの日常は、綺麗な川があってこそのものだった。

川辺にはまた、おじいさんたちもいた。彼らは椅子と机と食べ物を持参して、みんなで囲み、楽しそうにしていた。多摩川で釣りを楽しむ仲間のようだ。私たちもまた、綺麗な川を好む生き物といえるのではないだろうか。

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