見出し画像

「ビッグストーリー」と「キャラエイジング」とは?

「ビッグストーリー」と「キャラエイジング」の定義

 はじめてそのことに気づいたのは、2008年6月30日に『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』『ランボー/最後の戦場』を映画館でハシゴして観たときだった。インディは19年ぶり、ランボーは20年ぶりとなる新作を立てつづけに観て、「この2人、健在だったんだ」と不思議な感覚に陥った。架空のキャラクターを相手に、昔の友人と再会した気分を味わったのだ。

 さらに数年経って、ハリソン・フォード演じるハン・ソロ(『スター・ウォーズ』)もリック・デッカード(『ブレードランナー』)も復活し、シルベスター・スタローン演じるロッキーも『クリード』シリーズで再登場した。さらには『ランボー5』も『インディ5』も公開が決定、もしくは予定されている。

 こうした感覚はおそらく私の親の世代では持ちえなかったものだろう。そもそも20年、30年のスパンで継続・復活するコンテンツやキャラクターは存在しなかったし、視聴する側も年齢を重ねるにつれて「卒業」していったから、新しい世代に向けた「リメイク」はありえても、同一のものが継続・復活することはほぼなかったはずだ。

 あらためて整理してみると、ハリウッド映画では主に1970年代後半から、ドラマの場合はもっと早く1960年代の後半から、現在までつづく「長寿」シリーズとキャラクターが生れている。

 ここではそれらを「ビッグストーリー」「キャラエイジング」という2つのカテゴリーで整理し、論じてみたいと思う。

 まずはその定義だが、下記のようにまとめてみた。どこで線引きすべきかは議論が分かれるところだが、作品数が適度に絞り込めるラインを探ってみた結果でもある。

1.ビッグストーリー

〔定義〕
・映画/テレビ、国内/外を問わず、20年以上連続的・断続的に継続している(していた)映像作品であること
・長編作品(90分以上の劇場映画など)の場合は10作品以上、短編作品(30分以上のテレビドラマなど)の場合は100話以上あること
「作品内時間」が動いていること
20年以上出演している俳優、または30年以上出演している声優がいること(主演でなくても、断続的でもいいが、同一キャラクターを演じていること。声優の条件はあえて厳しくしている)

※「10年以上」継続という条件にすると作品数が一挙に増えてしまうので、あえて「20年以上」とした。また完全なリメイク/リブート作品を外すために、1人でいいから同じ出演者が同じキャラクターを演じていることも条件にした。

 また「作品内時間」が動いている(つまり、作品内で時間が経過している)という点も重要なポイントで、これにより、下記のような作品群はここでは対象外になっている。

①長寿アニメ作品(『サザエさん』を筆頭に『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』『それゆけアンパンマン』『ちびまる子ちゃん』『ポケットモンスター』『名探偵コナン』など)
②長寿時代劇作品(『水戸黄門』を筆頭に『大岡越前』『江戸を斬る』『遠山の金さん』『暴れん坊将軍』など)
③2時間ドラマ作品(西村京太郎、山村美紗、和久俊三、内田康夫、森村誠一などの作品を原作とするシリーズなど)

2.キャラエイジング

〔定義〕
・映画/テレビ、俳優/声優、国内/外を問わず、30年以上、同一の演者が演じている(演じていた)キャラクターが登場すること
・作品数は最低2作品あればよい

※キャラクターに関しては期間的な制約を10年延ばして30年とした。一般的に「30年=1世代」と考えられているからである。「作品内時間」が動いていることはあえて条件にしていないが、「ビッグストーリー」の定義から外れる3つの作品群に関しては、原則として対象にしていない。

なぜこうした作品群が登場したのか?

 こうした作品群が増えたことにはいくつか理由があると思われる。

 まずはコンテンツ自体の「寿命」が延びたことだ。ビデオやディスクメディアが普及する以前は、映画やテレビ番組を視聴できる期間は限られており、視聴者側の自由にはならなかった。それが、いつでも好きなときに繰り返し見られる時代になり、結果としてコンテンツに対する「需要」も拡大した。

 製作/クリエイター側の意識もその影響を大きく受けた。新しい作品を生み出すばかりではなく、かつてヒットした作品のみならず、時代を先取りしすぎてヒットしなかった作品までが視聴者に受け入れられることがわかると、製作側としてはそれを「担保」として利用することを考え、クリエイター側は憧れの作品をアップデートすることに魅力を感じるようになる。

 一方で急激なコンテンツ数のインフレによって、新しい作品を生み出すことへのリスクも高まった。作る側も観る側も、馴染みのある作品、愛着のある作品を長く楽しむようになったのである。これは特に日本国内に限った話ではない。CG技術の発展によって、以前よりずっと高いレベルの映像表現ができるようになると、既存のコンテンツのハイグレード版の製作(リメイクだけでなく、リマスターも含む)が求められるようになった。

 40年以上も前にはじまった『スター・ウォーズ』『機動戦士ガンダム』の「新作」が未だに観られる状況を個人的には歓迎している。それらは次の40年も生き残って、人間の平均寿命さえ越えるのかもしれない。そう考えると、現時点で見えている風景を「ビッグストーリー」や「キャラエイジング」という視点で切り取って記録しておくことにはそれなりの意味があると考える。

 心配なのは、今この瞬間以降に生まれた新しいコンテンツのなかに、果たして「ビッグストーリー」や「キャラエイジング」として残っていくものがあるのか、ということである。それらは同時代の作品以外にも、圧倒的な優位性を持っている「長寿」作品群とも戦っていかなければならないからだ。

 もしかすると「ビッグストーリー」や「キャラエイジング」というコンセプト自体が一過性のものである可能性もある。そうではないという期待を込めて、次回以降、現状の主要な作品を見ていくことにしよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?