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③「TBS」と「テレビ朝日」の長寿ドラマ

日本のキー局の「長寿」ドラマ

 今回は視点を変えて、日本のキー局であるTBSテレビ(かつては「ドラマのTBS」呼ばれていた)とテレビ朝日が生み出してきた「ビッグストーリー」を概観していきたい。

 両社とも良質な「長寿」シリーズを抱えてきたが、決定的な違いはアメリカのドラマに近い「シーズン制」をとっているかどうかだろう。どちらが良い悪いではなく、その違いがドラマの質にどんな影響を与え、何によってそれが支えられているかを考えてみる。

 まずは2つの局(参考に日本テレビとフジテレビも加える)の代表的な「ビッグストーリー」を挙げてみよう。

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〔TBSテレビ〕

・1979年~『3年B組金八先生』(2011年完結・32年間・全8シリーズ)
 主演:武田鉄矢(「複製不可」キャラである)、脚本:小山内美江子(のちに清水有生が引き継いだ)。断続的に全8シリーズとスペシャルドラマ12本が製作され、2011年の「ファイナル」で「定年」を迎えた。金八には子供が二人いて「作品内時間」は動いており、初期にはほかにも「○八先生」が登場する作品があったが、明らかにこの作品が「単数原点」である。

・1990年~『渡る世間は鬼ばかり』(継続中?・28年間・全10シリーズ)
 主演:泉ピン子(演者の死去などによる交代はあったが、基本的には全キャラクターが「複製不可」である)ほか、脚本:橋田壽賀子。断続的に全10シリーズとスペシャルドラマ10作品(14本)が製作され、今後も継続していく可能性を残している。「作品内時間」が動いていることは明らかで、スピンオフや派生シリーズのない「単数原点」作品。

※参考1:TBSテレビの長寿時代劇

・1969年~『水戸黄門』(2011年完結・42年間・全43部)
・1970年~『大岡越前』(1999年完結・29年間・全15部・全403回)
・1973年~『江戸を斬る』(1994年完結・21年間・全8部)
 いずれも「ナショナル劇場」枠(BSでのリメイク版はカウントしない)。『水戸黄門』は5代、『江戸を斬る』は3代に渡って主役が交代したが、『大岡越前』のみ加藤剛が全作に主演(ただし、BSプレミアムのリメイク版では東山紀之が演じている)。基本的には「複製可能」キャラクターである。またこの枠に限って、「シーズン制」に近い製作方法をしているのも特徴的。

※参考2:TBSテレビの長寿刑事ドラマ

・1961年~『七人の刑事』(1979年完結・28年間・全454話)

〔テレビ朝日〕

・1988年~『はぐれ刑事純情派』(2009年完結・21年間・全18シーズン・444話)
 主演:藤田まこと。全18シーズン以外に12本のスペシャル、1本の劇場版が製作された。「登場人物が3シリーズごとにひとつ歳をとる」設定になっていたらしく「作品内時間」はかろうじて動いている。藤田まことは『必殺』シリーズ以外にも「土曜ワイド劇場」枠の『京都殺人案内』シリーズに31年・32作品出演している。

・1999年~『科捜研の女』(継続中・19シーズン・20年間)
 主演:沢口靖子。現在継続している連続ドラマシリーズのなかでは最長寿番組。2019年には放送20周年を記念して1年間の放送が行われている。これまでに19シーズンと12本のスペシャルが製作されている。

・2000年~『相棒』(継続中・19年間・全17シーズン)
 主演:水谷豊。「土曜ワイド劇場」枠での3本の「プレシーズン」後、これまでに17シーズンと劇場版4本(スピンオフ映画2本)が製作されている。水谷豊演じる杉下右京こそ変わらないものの、その「相棒」役はすでに4代目に代わっている。

※参考1:テレビ朝日の長寿時代劇

・1970年~『遠山の金さん』シリーズ(2007年完結・37年間・全7シリーズ)
 タイトルも主演もバラバラだが、断続的につづいていた。「遠山の金さん」は『江戸を斬る』の第2シリーズ以降の主人公でもある。

・1972年~『必殺』シリーズ(継続中・47年間・全31シリーズ)
 スペシャル29作(『必殺現代版』を含む)、劇場版11作。藤田まこと演じる「中村主水」の登場は1973年の第2作『必殺仕置人』、シリーズが安定するのは1979年の第15作『必殺仕事人』から。
 1987年~1991年、1992年~2009年まで2度中断があり、2009年『必殺仕事人2009』にも「中村主水」は登場するものの、主役は東山紀之演じる「渡辺小五郎」に交代している。ただし、「作品内時間」の動きはあまりはっきりしない。
 池波正太郎の小説『仕掛け人・藤枝梅安』が「原点」だが、そこに「中村主水」(現時点では「複製不可」キャラ)を加えた「複数原点性」を持っている。ちなみにシリーズ第5作『必殺必中仕事屋稼業』の放映中に、ネット局の系列がTBSからテレビ朝日に代わった影響で視聴率が大幅に下がり、そのためのテコ入れとして「中村主水」を「主役」にする対策がとられた。

・1978年~『暴れん坊将軍』(2008年完結・30年間・全12シリーズ・832回)
 主演:松平健。「シーズン制」はとっておらず、スペシャル3本を含めた合計832話は、大川橋蔵主演『銭形平次』の888回に次ぐ連続ドラマ放送回数。主人公は歴史上の人物・徳川吉宗であるが、身分を隠した「徳田新之助」として考えると、現在までのところ「複製不可」キャラクターと考えられる。その点でも非常にユニークな作品だ。

※参考2:テレビ朝日の長寿刑事ドラマ

・1961年~『特別機動捜査隊』(1977年完結・16年間・全801話)
・1977年~『特捜最前線』(1987年完結・10年間・全509話)

〔日本テレビ〕

・1986年~『あぶない刑事』(2016年完結・30年間)
 主演:舘ひろし・柴田恭兵。テレビで2シリーズが放映されたあと、スペシャル1回、劇場版7作品が製作された。新人刑事だった仲村トオルが捜査課長まで昇進するなど「作品内時間」は微妙に動いており、『さらばあぶない刑事』では無事に「定年」を迎えた。

※参考:日本テレビのその他の長寿刑事ドラマ

・1972年~『太陽にほえろ』(1986年完結・14年間・全718回)
 主演:石原裕次郎。若手刑事の「殉職」(やがて「名物」になった)によって定期的にリフレッシュを計る仕組みを作ったが、のちにこの作品のフォーマットをことごとく否定するコンセプトでフジテレビの『踊る大捜査線』シリーズが製作された。

〔フジテレビ〕

・1981年~『北の国から』(2002年完結・21年間)
 主演:田中邦衛。テレビシリーズ後、スペシャルが8作(10本)製作された。「純」を演じた吉岡秀隆は、同じ1981年から『男はつらいよ』シリーズの「満男」(2代目)役もやっている。

※参考:フジテレビの長寿時代劇

・1966年~『銭形平次』(1984年完結・18年間・全888回)

「不定期シリーズ」と「シーズン制」

 参考に挙げた「時代劇」「刑事ドラマ(話数は多いが20年に満たないもの)」を除くと、TBSは『3年B組金八先生』と『渡る世間は鬼ばかり』が、テレビ朝日は『はぐれ刑事純情派』と『科捜研の女』(ただし、『科捜研の女』は「作品内時間」の動きがはっきりしないので、『相棒』を代わりに挙げてもいい)が俎上に上げられる。  
 TBSの特徴は「不定期」に放映されるシリーズであることと、脚本がほぼ一人で書かれていること。非常に作家性が強く、それゆえ小山内美江子は製作側との確執が生れたという話もあるし、橋田壽賀子が亡くなってしまったあと誰かが脚本を書き継いでいく可能性も低いだろう。すなわち主演のみならず脚本家の観点からも「複製不可」なのである。

 テレビ朝日の特徴はもちろん「シーズン制」であることと、メインライターがいるものの複数の脚本家が分担していることにある。そのせいかジャンルとしては「警察もの」に偏っていて、話の連続性も薄い。

 とはいえ脚本家が多い分、アイディアも豊富になり、あるゲストキャラクターが次は違う脚本家によって再登場させられ、肉付けされ、やがてレギュラーに昇格するようなことも起こる。

 さらに、これは『相棒』において顕著な現象だが、「次シーズン」がほぼ約束された状況になると、必ずしも1つのシーズンで伏線を回収しきらず、数シーズン経ってから再度再開するパターンも登場している。

 これら2局と比較すると、日本テレビやフジテレビの「長寿ドラマ力」はかなり弱い。日本テレビの『あぶない刑事』もフジテレビの『北の国から』も最初こそ連続ドラマとしてはじまっているが、その後は映画もしくはテレビスペシャルとして不定期に存続してきたシリーズである。先に触れた『踊る大捜査線』も作品の存在感こそ強かったが、同様に不定期に存続して15年で完結してしまった。

 これにはキャスティング方針も大きく影響していると思われる。日本テレビやフジテレビのドラマが、キャストの「瞬発力」を重視しているに対し、TBSやテレビ朝日は「継続力」に重きを置いている(ように見える)。訴求したい「観客層」も微妙に異なっていて、作品の勢いを目指すか、安定感を目指すかの違いが出てくるのだ。

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