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④「ゴジラ」と「機動戦士ガンダム」

人間を越えたキャラクター

『ゴジラ』と『ガメラ』、あるいは『機動戦士ガンダム』と『宇宙戦艦ヤマト』の対比ではなく、あえてここでは「ゴジラ」と「ガンダム」を考えてみたい。

 以前も述べたとおり、「最長」の「ビッグストーリー」は1954年に第1作が公開された「ゴジラ」シリーズだと考えている。一方、作品規模でいえば1979年開始の「ガンダム」シリーズが「最大」といっても過言ではないだろう。(2018年にNHK・BSプレミアムで行われた「全ガンダム大投票」ではアニメ56作品とされており、話数換算すれば800話は超えているはずだ)

 ただし、「ガンダム」シリーズすべてを扱うのは荷が重いので、「宇宙世紀」シリーズに限定して取り上げることにする。

 ちょうど四分の一世紀離れてはじまった2つのシリーズだが、これまでの例に倣えば、「単数原点性」という点では共通しているといっていい。「初代ゴジラ」「ファースト・ガンダム」を意識せずに製作することはありえないということだ。しかも、当たり前のことだが、タイトルロールが「人間」ではないので、キャラクター寿命には何の制約もない。

 ただ「複製可能性」キャラクターかどうかは大きく違う。厳密にいえば「ゴジラ」にも世代的・造形的にバリエーションはあるが、基本的に「複製不可」といっていいだろう。「メカゴジラ」や「スペースゴジラ」、また「ミニラ」や「リトルゴジラ」なども出てくるが、「ゴジラ」が登場しないゴジラ映画はありえず、「Zゴジラ」や「ゴジラZZ」が主役になることもないからである。

「ガンダム」のほうは、そもそも複数作られたプロトタイプの1つとして登場しているので「複製可能」が大前提である。作品のバリエーションがこれだけ多く生まれたのも「ロボットもの」の必然といっていい。

 これらのことを踏まえて両者のキャラクター歴をざっと見ていこう。

〔ゴジラ〕

・1954年 第1作『ゴジラ』
 いわずと知れた第1作。監督の本多猪四郎は1911年生の軍隊経験者。

・(1956年 『空の大怪獣ラドン』)
・(1961年 『モスラ』)
 これらも本多猪四郎監督作品。のちの「モンスターバース」的展開はすでに60年以上前に日本ではじまっていた。

・1962年 第3作『キングコング対ゴジラ』
 1955年の『ゴジラの逆襲』のあと、7年ぶりに登場した初のカラー作品。1255万人というシリーズ最大の観客動員数を誇る。

・(1965年 『大怪獣ガメラ』)
「昭和ガメラ」の第1作は『ウルトラマン』の前年に公開。配給は「大映」で、会社倒産とともにシリーズも終わる。

・1965年 第6作『怪獣大戦争』
 ここまでずっと500万人以上の観客動員数をキープしている。『ゴジラの逆襲』以外は本多猪四郎監督作品。

・1968年 第9作『怪獣総進撃』
 ここまで観客動員数250万人以上をキープしている。

・1969年 第10作『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃』
 第1作から15年。この作品から「東宝チャンピオン祭り」で新作が公開される。

・1975年 第15作『メカゴジラの逆襲』
 第1作から21年でいったん終幕。本多猪四郎監督によるゴジラ作品はこれが最後(通算8本目)になる。観客動員数は97万人。

・1984年 第16作『ゴジラ』
 シリーズ開始30周年。この作品はまだ昭和の公開だが「平成ゴジラ」シリーズの第1作とされる。

・(1995年 『ガメラ 大怪獣空中決戦』)
「ガメラ」シリーズもまた30周年に「平成ガメラ」3部作の1作目が公開。「ゴジラ」と同じ「東宝」の配給になる。

・1995年 第22作『ゴジラVSデストロイア』
 第1作から41年。プロデューサー田中友幸・音楽伊福部昭の2人の最後の作品。「平成ゴジラ」シリーズでは第19作『ゴジラVSモスラ』の420万人が最大の観客動員数。

・1998年 ハリウッド版『ゴジラ』(トライスター版)
ローランド・エメリッヒ監督作品。この間、国内では「ゴジラ」は休止。代わりに「平成モスラ」3部作が製作されている。

・1999年 第23作『ゴジラ2000 ミレニアム』
ハリウッド版『ゴジラ』が1作品で終わったため、「ミレニアムシリーズ」と銘打って国内での製作が再開される。

・2001年 第25作『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』
「平成ガメラ」3部作の金子修介監督作品。「ミレニアムシリーズ」では最多の240万人の観客を動員した。

・2004年 第28作『ゴジラFINAL WARS』
 シリーズ開始50周年でふたたび終幕。観客動員数は100万人に終わる。

・2014年 ハリウッド版『ゴジラ』(レジェンダリー版)
 シリーズ開始60周年での2度目の再開は、のちに「モンスターバース」という世界観で括られるハリウッド版の第1作。

・2016年 第29作『シン・ゴジラ』
 庵野秀明監督による国内リブート版。560万人の観客を動員した。

・(2017年 『キングコング:髑髏島の巨神』)
「モンスターバース」2作目。

・2017年 アニメ版『GODZILLA 怪獣惑星』
 Netflixが製作し、国内では劇場公開もされたアニメ映画の3部作開始。

・2019年 レジェンダリー版第2作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』
「モンスターバース」3作目。モスラ・ラドン・キングギドラが登場する。

・2020年 レジェンダリー版第3作『Godzilla vs. Kong』
「モンスターバース」4作目。約60年ぶりにキングコングと対決する。

〔ガンダム(宇宙世紀シリーズ)〕

※カッコ内は「宇宙世紀(U.C.=Universal Century)」

・(1974年『宇宙戦艦ヤマト』放映開始)

・1979年 TV『機動戦士ガンダム』(U.C.0079 - 0080)
 いわずと知れた第1作。富野喜幸(現在は由悠季)監督は、本多猪四郎監督の30年後の1941年に生まれた。第1話の放送は『宇宙戦艦ヤマト2』の最終回と同日だった。

・1981年 映画3部作『機動戦士ガンダム』(U.C.0079 - 0080)
 初回放送後に人気に火がついて、3部作の映画になった。

・1985年 TV『機動戦士Zガンダム』(U.C.0087 - 0088)
 前作終了(つまり、いわゆる「一年戦争」の終結)から6年後(時代設定としては7年後)にはじまった続編。

・1986年 TV『機動戦士ガンダムZZ』(U.C.0088 - 0089)
 さらに続編。この間、世界設定は同じだが、主人公は毎回変わっている。

・1988年 映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(U.C.0093)
 アムロ・レイとシャア・アズナブルの話が完結する。

・1991年 映画『機動戦士ガンダムF91』(U.C.0123 - 0128)
・1993年 TV『機動戦士Vガンダム』(U.C.0149 - 0153)
 富野由悠季監督による別シリーズの模索がつづく。

・(1999年 TV『∀ガンダム』(正暦2345))
 正確には「宇宙世紀」シリーズではないのだが、この時点までに作られたすべてのガンダムシリーズを総括した作品。2002年に劇場版2部作も公開される。この時点で最初の作品から20年。ここで1つの区切りがついたといってもいい。

・2001年 マンガ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』
 第1作に関わった安彦良和によるコミカライズが『ガンダムエース』で連載開始。2011年に完結。マンガ形式での「語り直し」とでもいうべき内容で、「原点」(=「ファースト・ガンダム」)への回帰が行われた。さらにそれ以前の、いわゆる「プリクエル」的なエピソードも語られた。

・2005年 映画3部作『機動戦士Ζガンダム A New Translation』(U.C.0087 - 0088)
 富野由悠季監督の手で「新訳版」3部作が製作される。これによって「時間軸」に変更が生じた。

・2007年 小説『機動戦士ガンダムUC』(U.C.0096)
・2010年 OVA『機動戦士ガンダムUC』(U.C.0096)
 福井敏晴によって『逆襲のシャア』後の「シークエル」が小説化され、OVA7部作(イベント上映も行われた)になる。ドズル・ザビの娘ミネバが登場する。

・(2012年『宇宙戦艦ヤマト2199』イベント上映開始)

・(2014年 TV『ガンダム Gのレコンギスタ』(R.C.1014))
 富野由悠季監督による15年ぶりのテレビシリーズ。「R.C.」とは「リギルド・センチュリー」の略で「宇宙世紀」の延長線上にあるとされている。

・2015年 OVA『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(U.C.0057 - 0079)
 安彦良和のコミックのうち、第1作以前の「プリクエル」となる「シャア・セイラ編」と「ルウム編」を6部作にした。

・2016年 TV『機動戦士ガンダムユニコーンRE:0096』(U.C.0096)
『機動戦士ガンダムUC』をテレビシリーズに再構成した。

・2018年 映画『機動戦士ガンダムNT』(U.C.0097)
 放送開始40周年を記念して「UC NexT 0100」プロジェクトが発表され、その第1弾として『機動戦士ガンダムUC』からつながる物語が映画化された。ここでもまた1つの区切りがつけられたといっていい。

・2019年 TV『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』(U.C.0057 - 0079)
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』をテレビシリーズに再構成した。

・2019年 映画3部作『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(U.C.0105)
「UC NexT 0100」プロジェクトの第2弾として、ブライト・ノアの息子ハサウェイを主人公にした映画3部作の公開が予定されている。富野由悠季監督による原作は1989年に発表されている。

・202?年 レジェンダリー版『機動戦士ガンダム』?
「UC NexT 0100」と並行して、「モンスターバース」を手掛けているレジェンダリー・ピクチャーズがハリウッド版ガンダムの製作を進めている。

戦争を語る媒体

「ゴジラ」に関しては「30年周期」でリブートが行われ、その周期で考えて第3期に入っているといえる。奇しくも「ガメラ」も同じく30周年でリブートされている。

「ガンダム」のほうは「ヤマト」のリブートが38年後だったので「40年周期」としてもいいのだが、「20年周期」で区切りがつくと仮定しておく。

 こちらも第3期に入ったばかりのところでハリウッド版製作が進んでいるのが面白い。レジェンダリーは巨大ロボットが「カイジュウ」と戦う『パシフィック・リム』も手掛けており、新たに「ロボットバース」などという構想を打ち出すこともありえなくはない。

 これら2つのシリーズは、作り手が一世代違うためかアプローチは異なるが「戦争」をテーマにしている点では共通している。

「ゴジラ」が象徴しているのは、軍隊経験のある大人の世代が描いた、「原爆」に代表される「絶対悪」としての「戦争」、「ガンダム」が舞台としているのは、戦時中を経験している子供の世代が描いた、子供たちを巻き込む「暴風雨」としての「戦争」である。

 どちらもシリーズを語り継ぐ世代はどんどん若くなっていき、双方の「第1作」が作られた真の背景を身をもって経験している人が少なくなってきている。だからこそ、たった1つの「原点」に常に立ち返ることが求められているのだ。

 そして、これは結果論ではあるが、どちらも人間の寿命をはるかに越えるキャラクターを、いわば「タイトルロール」に据えたことで、世代を越えてストーリーを語る「依り代」を作り上げた。

 大抵のことは、次の世代が「同じ体験をする」ことで引き継がれていくものだが、こと「戦争」に限っては「同じ体験をさせない」ように引き継いでいかなければならない。

 その際、重要な媒体となるのが、「ゴジラ」や「ガンダム」のような「人間を越えたキャラクター」なのだ。だから、これらのシリーズが完全に終焉する、あるいは「原点」に立ち返ることを捨てて本質的に変化してしまうことがないように見守っていく必要がある。

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