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ルイ・ヴィトン、香りのスペシャリストと調香師


ルイ・ヴィトンの香水、そのストーリーをみなさんはご存知でしょうか。

ふらふらとウィンドウショッピングをしていた休日。
たまたま空いていたヴィトンのお店に足が向いた。

表参道の路面店。
たぶん、日本で2番目に広い店舗じゃなかっただろうか。

百貨店に入っているお店と違い、
一足踏み入れると、重厚な皮の匂いがほのかに漂う。

「本日は何かお探しでしょうか。」
そっと上品で柔らかい声をかけられ、香水が気になっていることを伝える。
わたしはバッグにはあまり興味がない。
その代わりにいい匂いに惹かれてしまう。


店の奥まったところ、フレグランスのエリア。
偶然、"香りのスペシャリスト"がいらっしゃった。
軽く挨拶を交わして、香水のお話をする。


重いウッディやバニラ、オリエンタルな香りが好きなんです、と話すと、
彼は微笑んで「ヴィトンのバニラはとても重厚ですよ。」とムエットに香りを乗せてくれた。

「私はいつもこれをつけています。
綺麗に香りが残るので、スタッフは私がいると匂いでわかるみたいです。」

濃厚で甘く、微かなビターココアが大人っぽさを残す。

「香りはその人の第一印象を深めてくれます。
イメージに合う香りを纏うと、初対面でも記憶に残りやすく良い印象を与えることができるのです。」
私は差し当たり、ダンディなおじさまでしょうかと付け加えた。
確かに、“Contre Moi"は成熟した色気の中に穏やかだけれど強かな熱意を感じる。


「お客さまは、若くてフレッシュで可愛らしくていらっしゃいますね。

Contre MoiやHeures d'Absenceもとても素敵ですが、少し重すぎてしまうように思います。

今しか纏えない、今のお客さまにぴったりの爽やかな香りはいかがでしょう?」

Heures d'Absenceは女性に人気。
柔らかで大人びたフローラルノート。
ミモザとムスクでうっすらとベールを被せてパウダリーに仕上がっている。
艶やかに可憐に。一見正反対の要素が溶けあって、魅力的な大人の女性に仕立ててくれる香り。


ダンディな彼が勧めてくれたのは、
Le Jour Se Leve。
マンダリンが主役の香り。
お花の甘さ、ジャスミンサンバックの花の蜜のような香りが合わさって、シトラスの主張をまるく柔らかくしてくれている。
そう、夏にぴったり。

あとは、Apogee。すずらんの香り。
Roses Des Vents、バラの香り。
お姫様みたいに優しくてふんわり華やか。


うんうん、わたしのイメージってこうなのね。
色気あるお姉さんには まだなれていないのね。


どれも奥深くて複雑で素敵な香りですねと並べたムエットを匂い比べていると、おじさまは調香師について話しはじめた。

「ジャック・キャヴァリエをご存知ですか?」

「いいえ。」

「ルイ・ヴィトンのすべての香りを作っている調香師です。」

後で調べたら、世界三大調香師の一人、らしい。
ルイ・ヴィトンは、ブルガリやYSLなど世界的ブランドで、数々の名香を作り続けた彼に惚れ込み、どうしても彼にヴィトンの香水を作って欲しかった。
香りのマエストロである彼はとても多忙でなかなか依頼できずにいたが、ようやく想いが実ったのだという。 


「ヴィトンが香水をリリースしたのは、遅かったでしょう。」

「確かに、CHANELやPRADAはかなり前から出していますね。ヴィトンも最初より種類が増えているような印象を受けますが。」

いくつか香りが出来上がった段階でリリースし、
その後もCalifornia DreamやSun Songなど新しい香りを丁寧に紡ぎ続けているそう。

ひとつ、興味深いお話が印象に残っている。
おじさまとキャバリエ氏のお話。

「一度、キャヴァリエ氏と食事をご一緒したことがありまして。
私は調香師の方は、煙草を吸わないと思っていたのです。繊細な香りの違いと日々向き合われていますから。
ですが、彼は食後に煙草に火をつけました。
不思議に思い尋ねると、『香水にもシガーは使いますし、感覚が鈍ってしまうようなことはありませんよ』とおっしゃいました。」
まさにプロフェッショナルですね。とおじさまは楽しそうに笑った。

わたしは流石フランス......としみじみしていた。
日本の禁煙大切ムードに比べて、彼らは今も路上でもぷかぷかと煙草をふかしている。
古くからの香水大国でもあるし、きっと香りの混ざり合いに慣れているのかもしれない。



そして、思い出したように、
「Contre  Moiよりもっと重くどっしりした香りですが、よろしければ、ウードもお試しになりますか?」
Nuit de FeuとLes Sables Rosesを手に取った。

Nuit de Feuは、砂漠の夜の焚き火を彷彿させる香り。
スモーキーだけど魅惑的。
素敵に年を重ねた30~40代の男性のイメージ。

Les Sables Roseは、バラと沈香。
どこまでも静かで落ち着いていて、深窓のお嬢様みたい。
決して煌びやかではないけれど、
底知れず賢くて美しい印象を持たせてくれそうな香り。

両方とも普段使いは難しそうですね、と伝えると、
「そうですね。これは、下着や服で隠れるお肌につけて楽しむのが良いかもしれません。

 それこそ、レッドカーペットを歩くようなパーティにも負けないくらい、強くて華のある香りですね。」



それから、このとてつもなく大きい香水は何用なのか、今日は比較的空いていて見やすいですねなどとお話をした。

素敵な香りばかりだったので、少し持ち帰って悩みますね、と伝えると、おじさまは名刺を渡してくれた。
「表参道や銀座にいることが多いですが、
 またご相談などありましたらいつでもご連絡ください。」



休みの日に度々わたしにばっちりの香りを探して歩くことも多いけれど、ここまで素敵な出逢いはこれっきり。

わたしの理想の女性像、大人っぽくて艶やかで華やかなひとになって、大好きな重厚な香りを纏えるその日まで。


Au revoir、おじさま。

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