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南北相法(前編/巻ノ五)

水野南北居士 著
門人 平山南嶽・水野八氣 校

《人中(にんちゅう)を論ず(人中は鼻の下から、口の間の事を言う)》

一 人中は神気の強弱を知る。また、命の長短を知り、子孫の有無を論ずる。

△ 人中が短い者は根気が薄く、思慮が浅く、涙もろい。また、少しの事に驚き、人と長く付き合う事が出来ない。

△ 人中が優しく、素直に観える者は、心が素直である。また、心が優しく、涙もろい。少しの事に驚く。

△ 人中に締まりがある者は、心に締まりがある。相応の福分がある。

△ 人中に締まりが無い者は、心に締まりが無い。ゆえに、運が開き難い。

○ 善(よ)い相があっても、人中が締まらず、上唇が少しはね上がる者は、必ず善いと言うべきではない。物事を進めようとしても、滞りが多い。また、根気が薄く、辛抱するという事を知らない。しかし、門歯(前歯)が抜け落ちる頃から、運が自然と良くなる。常に人中が締まっている者は、門歯が抜けた年から非常に悪い。よく考えなさい。

△ 人中に髭(ひげ)が多く生える者は早々に、全ての事に満足出来るようになる。

一 人中に髭が少ない者は、不平不満が多く、感謝心が無い。ゆえに、望み事は十分に叶わない。よく考えなさい。

一 人中に横筋がある者は、子供に縁が薄い。また、子供がいたとしても、頼りにならない。もし、子供が多い時は、老いてから苦労が多い。

一 人中に髭が少ない者は、気転が利き、才能がある。

□ 人中に髭が多い者は、気転が利かないが、心が豊かである。

△ 人中が長く、上唇が歯に等しく付く(歯ぐきがみえない)者は、非常に良い。人の上に立つ事があり、自然と人を用いる。貧しく暮らす者には、力になってくれる人がいる。また、物を支配したり、家を支配したりする事がある。

△ 人中の溝が深い間は心が定まらず、運を開く事が出来ない。その深い溝が浅くなるにしたがって、心が自然と安定し、運も自然と開く。よく考えなさい。

遠山万作喜が問う
人中は神気の強弱を知り、子孫の官を司る、と言うのは何故でしょうか。
答える
人中は口と同様に、神意の気が集まる場所である。ゆえに、心が喜び笑う時は、人中が自然と開く。逆に、神気をつめる(集中する)時は口を塞(ふさ)ぐゆえ、人中が自然と締まり、無意識に「心気」を保つ。よって、人中において神気の強弱を論ずる事が出来、寿命の長短を知る事が出来るのである。また、人中は任脈に対応しており、気血の通り道である。ゆえに、子孫の官を司る、と言う。

*任脈…古代中国で体系化された経絡のひとつ。十四経脈、奇経八脈、十五絡脈のひとつでもある。経絡は気・血・津液(気血榮衛)が流れるとされる道すじの事で、全身に分布し、人体の各部を連絡しているとされる。

*人中には任脈と督脈が通る。

*十二経脈…手の太陰肺経、手の陽明大腸経、足の陽明胃経、足の太陰脾経、手の少陰心経、手の太陽小腸経、足の太陽膀胱経、足の少陰腎経、⑨手の厥陰心包経、手の少陽三焦経、足の少陽胆経、足の厥陰肝経。これに督脈と任脈を合わせて、十四経と言う。

*奇経八脈…衝脈、陽蹻脈、陰蹻脈、陽維脈、陰維脈、帯脈、督脈、任脈。

*十五絡脈…絡脈とは、経絡から分かれる側副路のようなもので、十二経の絡脈と、督脈、任脈、脾の大絡の三つを合わせたものを十五絡脈と言う。

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