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3.多様性は個人や社会をどう変えていくのか

少し間が空いてしまいましたが、5月5日生配信した東京レインボープライド2021の企画「多様な”かぞく” を考える 〜選択的夫婦別姓・特別養子縁組・同性婚〜」のトーク内容第三弾をお届けします。

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「やっとそういう立場の人たちの気持ちに思いを馳せることができた」

杉山 最後のテーマで個人や社会の変化について話したいと思います。久保田さんにお聞きしたいんですが、久保田さん自身が特別養子縁組のお子さんを育て始められたことによってすごく価値観が変わったと。多様な家族に触れたことで、家族だけじゃなくていろんな価値観が多様化したとお話されてたと思うんですけど。そういったご自身の変化をお聞きしたいです。

久保田 かつての自分は、何かが違う人たちに気を配ることはできなかったかもしれないって思うんです。ところが自分は子供ができない不妊症であるとわかったことで、当たり前が当たり前じゃないと気付いたわけです。でも、周りの人たちはみんな当たり前に生きてる。ワイドショーとかで司会をしていると、~~さんがおめでたになりました良かったですねって。そこに何の疑問も持たないで私もそう伝えてました。
 自分が当たり前でないとわかった途端にですね、自分は普通になれないダメな人間なんだ。どうやったら普通になれるだろうなって悩んでたんですよね。でも、あるときから自分らしさっていうのは、否定しても否定のしようがないので、それを受け入れてできることって何かなと思ったら、そこには選択肢ってあったんです。当たり前に普通に生きている人にとっては、そのあたり前からそれてしまう人の気持ちってなかなか想像できないですけれど、これはみんなに起きうることだと思うんです。私の場合は子どもができないということは、当たり前には全く届かないんだと思ったことで、やっとそういう立場の人たちの気持ちに思いを馳せることができたって思います。

杉山 当事者と非当事者とか、マイノリティとマジョリティとか、もしかして被害者と加害者も表裏一体ってことですよね。

久保田 「今、私は当たり前で普通に何の疑問もありません」っていう方でも、いつどこでこの社会、普通とは違うのかもって思う瞬間があるのかもしれないなと思うんですね。

杉山 ご自身がお子さんができないということがわかって、今まで思い描いていた「女性とはこうあるべき」みたいな像から外れたときに、そういう像が久保田さん自身をがんじがらめにしてたみたいなことや、そこから視野が広がったっていう感じはあるんですか。

久保田 一歩出てみると、世界は広いなって思いました。いろんな価値観があるし、それは海外に行ったってのも大きかったんですね。外に出ると価値観もガラッと変わって、夫婦別姓どうぞという感じで、養子縁組うわーおめでとうっていう感じ。だから、外から見てみるといろんな選択肢があっていいんだよなって、そのことによって救われる人はたくさんいて、それは当たり前に生きている人は当たり前にしてていいんです。けどそうじゃない人の幸せになる権利もあるし、ほんのちょっとしたことで180度変わるんです人生が。考え方だったり、制度のありようだったり。

杉山 久保田さん個人の思いが変わったように、制度が進むことによって社会全体の価値感が、より視野が広がることに繋がってくるんですかね。

久保田 そう思います。それが悪いということは私にとって思いつかないんですけれど。

声を上げることで変化が生まれる

杉山 この憲法記念日にも最高裁判所長官が選択的夫婦別姓と同性婚に触れながら、新しい課題にも裁判官は広い視野を持って接するべきみたいな発言がありました。

寺原 弁護団でもすごく話題になってます。なかなかないことです。長官は最高裁に15人いる裁判官の長なわけです。その方が最高裁に事件がたくさん行ってる中でわざわざその二つの訴訟に触れて、家族の多様な形が社会に浸透してきて、それが訴訟になってるんだから、そういうことも踏まえてちゃんと判断しなきゃねっていうことをおっしゃったってことは、すごく社会の変化を象徴している場面だと思いました。

杉山 何によってこの変化が起きてるんだと思いますか。

寺原 TRPの今回のテーマと重なるんですけど、声を上げることだと思うんです。別姓も同性婚も特別養子縁組も何十年も前から声を上げる方がいらっしゃった。多くの方が様々な場所で活動をして、ずっと積み重ねをしてきて、同性婚で言えばその積み重ねの結果が札幌地裁の判決だと思っているんです。今、弁護団してるんですというと応援してくれる方がたくさんいらっしゃって、頑張ってくださいって言っていただくんですが、そのときに申し上げるのは、一緒に頑張りましょうということ。セクシュアルマイノリティーでも、マジョリティでも、みんなが当事者で、静かに応援してるだけだと残念ながら世の中は変わらない。ちっちゃくてもいいからアクションを一緒に起こしていただきたいなっていう気持ちをお話をするようにしています。

久保田 具体的にどういうアクションがいいんですかね。何かやろうと思った時に。

寺原 国会が法律を変える場所、いろんな制度を変える場所なんですけども、国会議員が実感を持ってないと思うんです。特別養子縁組でこんなに困ってるとか、同性婚や別姓選択がないことによる苦悩について。実感を持っていただくには、各自が住んでいるその地域から選出された国会議員さんに、ぜひお手紙を書いてくださいとお願いしています。1行でもいいし、当事者でなくても構いません。
 国会議員の中には、悪意があるから進めていないわけじゃなくて、自分の地域とは関係ない話だと誤解している方もいらっしゃる。地元の有権者から生の声を聞いたら、人として無視ができないし、実感が湧いてくるので、ぜひ皆さんやってくださいとお願いをしています。

杉山 僕自身もLGBTQの啓発活動に関わるようになって最近感じてる変化は、つい最近まで「LGBTQどう思いますか」って聞くと、いいんじゃないですかって言ってくれる方がだいぶ増えてきた。ただ、「もしあなたのお子さんがそうだったらどうですか」って聞くと、「ちょっと自分の子だったら...」っていう方が多かった。最近ではそれも変わってきて「いいですよ、うちの子供がそうだって。みんな自分らしくあるのがいいですよね、多様性ですよね」っておっしゃる方もだいぶ増えてきた。
 一方でもしそうだったとして、「お父さんお母さん、なんで皆が結婚できるのに私だけできないの」って言われたら、どうしますか。「あなたはマイノリティで生まれたんだから幸せになれなくてもしょうがない。我慢しなさい」というのか「どんな子だって幸せになれる機会があるんだよ」って言える大人であるのかということが求められてるんじゃないかと感じているところです。どんなことでも声をあげることが全て繋がっていくんだっていうのは、僕もぐっときたお話なんですけれども、青野さんも「変わることを確信している」と何かのインタビューで話していたと思うんですけれども、もう一歩前に進めるためにはどういったことが必要だと思いますか。

青野 裁判ってすごく良い手段だなと思ってます。選択的夫婦別姓の話でいくと、2015年に棄却された後、四つの裁判が起きたんです。これが裁判所にはプレッシャーになったんじゃないですかね。自治体の活動も大事で、自治体から国会に陳情を上げる仕組みがあるんですよね。
 自分の地域の区議会議員とか市議会議員とかを説得できれば、国会に向けて陳情が出せる。この仕組みも選択的夫婦別姓で頑張っていて、50も60もの自治体から陳情があります。あとやってほしいのはソーシャルです。やっぱりインターネットの時代なんで、心のこもった困りごとの発信をすれば、いろんな人が読んで心を動かされてたくさん拡散してくれます。だからぜひインターネットで発言することにチャレンジしてほしいと思います。

選挙で意思を示していく

杉山 この三つのテーマで互いに協力できることとか、発信し合うこととか、何か一緒にできることってありますか。

青野 普段からネットで繋がって、拡散しあってると思います。こういうイベントでご一緒する機会も増えましたしね。

久保田 私の関連で言いますと、里親制度は自治体によっては委託をされているんです。カップルで子育てをしたい、でもする手段がないと思ってる方でも積極的に里親制度をまずは登録されるのは、今の法制度からいうと可能な一つなんで、その件数がもっと増えて、自治体によってはそれで考え方が変わる流れにならないものかなと思いました。 

寺原 自治体のパートナーシップ制度も法的効力はないですけれども存在はする。今ある制度を可能な範囲で利用し、声を上げていくことで、困ってる人がいてニーズがあることが可視化されていきます。別姓だったり、養子縁組だったり同性婚で分野は違うけども、自分らしく生きたい、子ども達にも自分らしく生きていって欲しい、それを包括する社会であってほしいっていう思いは共通しているはずので、その中の一つがブレイクすれば、他のことについても社会の認識は高まっていくと思います。

久保田 施設にいる子供たちの行き先の候補が増えていくのは、すごく良いことだと思います。繋がっていけると良いなって。

青野 今年は衆議院選挙がある。反対してる議員を落としましょうよ。ここはメディアの人も巻き込んでいきたいです。賛成なのか反対なのかはっきりしてくれと、そうしないと票を入れないぞと。立法されてない理由は、国会議員がさぼってるわけですから、そういう国会議員を外しちゃえばいいわけです。やってる議員を国民の力で当選させればいいわけなんで、一つの活動としてはやるべきじゃないかなと思います。

寺原 夫婦別姓と同性婚については、誰が賛成、反対、どちらとも言えないと答えてるかとリスト化してる方がいて、検索すると出てくるので、そこでわかります。ただ、この人反対なんだろうなって方も「どちらとも言えない」となっていたりするので、賛成って人を推しとけば間違いないのかなと。

杉山 「どちらとも言えない」が増えてるってことは、反対とも言いづらくなってきてる。議員の方たちも感じているということですよね。前は反対してる方が票が集まると思われたのが、反対というと票が減るかもしれないと変わってきたのかなと思います。選挙に行って、自分たちの意思が反映される政治家に投票することをしっかりやるってことですね。

久保田 政治は変えられないからしょうがないとほっとくと、実は私たちの生活に密着しています。青野さん頑張ってるから応援しようとか、そこのは買って、この人たち嫌だから買わないとか。そういう選択、消費者としてビジネスの世界ではできると思うんですけど、政治はあの人変わらないからとほっとくと勝手に決められちゃう。ぜひとも参加しなきゃいけないとはすごく思いましたね。

個人が尊重され、より幸せな社会を実現する

杉山 価値観はどんどん多様化していると思うんです。日本社会で多様な価値観が共通認識になったとき、どんな社会になると思われますか

寺原 私は、同性婚を認めるかどうかは日本社会が個々人の生き方を尊重する社会に移行していけるかどうかの試金石だと話しています。その人たちだけの問題ではなくて、一緒に生きている日本全体の問題、マジョリティの責任という観点でもそうですし、誰もがマイノリティになりうるという意味でもそうですし、いろんな意味で全員が当事者なのでマイノリティが生きやすい社会は全員で生きやすい社会だと、いろんなとこで言われてることですけども、本当にそうだと日々実感をしています。
 そういう社会に変わっていくことは間違いないですし、個人的にも変わったなと思うところと共通するんですけど、もし同性婚だったり、別姓だったり、特別養子縁組でこうあるべきっていう法制度に変わったなら、「行動すれば、日本の社会を自分たちの力で良い方向に変えていけるんだ」っていう、実績、自信になると思うんです。私は以前はあまり政治的なことに興味なかったんですけど、同性婚だったり別姓に関与するようになって、他の政治的な話題にも関心を持つようになりました。日本人は政治的なことだとタブー感があって引いてしまうカルチャーがあると思うんですけど、成功体験を持つことによって、他のことについても能動的に政治に関与していく方向に変わっていくんじゃないかと期待してます。

久保田 子供がより幸せになれるんじゃないかっていう感覚があるんです。今の法律をいろいろ見ていくと、これまでの大人たちの考えが中心になっていてマイノリティーとされる、例えば女性もマイノリティかもしれないし、子供の目線がなかなかなくて、同性婚とか、選択的夫婦別姓とか、いろんな人たちの考えが反映できることは子供たちのことも反映できることになるし、特別養子縁組でいうと、もっと施設から家庭で過ごす友達も増えるだろうし、子供にとって幸せな方に選択肢が多い社会になれるんじゃないかな。

杉山 子供たちがむしろ幸せになるじゃないか、と。青野さんいかがですか。

青野 ネガティブなことをあえて言いますと、制度ができても風土は変わらないということを、僕たちは理解しておいた方がいいと思います。制度はできました。それで多様な個性を尊重しながら生きる風土ができるか、それはまた別の話です。海外で多様な家族観が認められていても未だに人種差別が残っていたり、宗教上の対立をしていたりするわけです。多様性を認めるって口で言うのは簡単、日本だってそうです。男女平等の憲法ができてからもう75年経った。いまだに男女平等ができてない。風土を作るのはまた別の話だから。制度は大事。ないと選択することすらできませんから。でもそれがゴールじゃなくて、そこから先もっと僕たちは、多様な個性を尊重していく風土を作らないと、この努力はずっと続くっていう認識はしておいた方がいいと思う。

杉山 風土はどうやって変えたらいいんですかね。

青野 風土を変えるのは一朝一夕にはいかない。長い時間の対話と、対立と葛藤を乗り越えながら築いていくもんだと思います。そこから逃げないことですよね。いろんな人がいる。意見が合わない人がいる。でもね、殴り合うんじゃなくて対話していこうよと。対話を大事にするのが多様な個性を尊重する社会のキーワードかと思います。

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第4回目に続きます。

TRPチャンネルにて公開していますので、そちらもぜひご覧ください。