ポテンシャルしかない路面店。元小学校の先生が、カフェ「私立珈琲小学校」を開くまで@錦糸町
●「小学校の先生」から「コーヒー屋さん」に
今回訪れたのは、錦糸町にオープンした『私立珈琲小学校』。通称、『珈琲小』です。オープンした吉田さんは元小学校教員で、まちの人々から「吉田先生」と慕われています。
このお店には、地域の方はもちろん、吉田さんの教員時代の生徒・保護者さんも「通学」しているようで、街にたたずむ、あたたかな空間になっていました。
「学校って、子供は先生を選べないので、先生のことが嫌いでも通わなきゃいけない。僕、それが子ども達に申し訳なくて。美容院やレストランのように、相手に『選ばない』という自由を持ってもらえる仕事がしてみたくなったんです」
そう話す吉田先生は、笑顔とユーモアの溢れるとっても温かい方。「吉田先生のことが嫌いな生徒なんて、いなかったのでは?」と、取材班の私たちは思わず顔を見合わせてしまいます。
そんな吉田先生が教員を退く際、周りの方は応援してくれたそう。
それでも当時、職員室でコーヒーを飲んでいた「クラスの吉田先生」が、お店でコーヒーを振る舞う「まちの吉田先生」になるなんて、誰も想像していなかったのではないでしょうか。
●『ポテンシャルしかない路面店』との出会い
吉田先生は教職を退くと、専門学校や国内外のワークショップでコーヒーを学び、いよいよお店を始めます。期間限定オープンや移転を何度か経験した『珈琲小』は、次の"校舎"をここ錦糸町に構えることになりました。
「物件探しは苦労しましたが、『R不動産にはイケてる物件が多いらしい』と聞いていたのでもちろん見ていました」
物件を絞った吉田先生は、それらの「商圏調査」を実施。現地に何度も足を運んだり、近所の人に「コーヒー好きですか」と聞いて回ったり...。路上インタビューをする吉田先生を想像すると、なんだかほっこりしてしまいます。
「やっぱりR不動産って、『きらっと見える物件』を見つけてくれるサイトで。『あ、たしかにこの物件、可能性あるかも』と思わせてくれるので、心持ちが変わってきました」
そうして吉田先生が出会ったこの物件は、東京R不動産が『ポテンシャルしかない路面店』というタイトルで、お店を始めたい人を募っていた場所でした。
この物件の「ポテンシャル」とは...
これらの魅力を併せ持つ、「お店をやりたい」と思っている人にとって夢のような募集には、素敵な方々からの申し込みがたくさん集まりました。そして熟考の末に選ばれたのが、この『珈琲小』だったのです。
そこには、「コーヒーやパンを通じて、ちょっと廃れてきてしまったこの街に賑わいが戻るとうれしい」という大家さんの強い想いがありました。
●目指したのは「ピカピカすぎない小学校」
「小学校」というコンセプトは店名だけにとどまらず、お菓子やパンの売り切れを「早退」、さらに何日間か出せない状況は「欠席中」と表すなど、お店全体で表現されています。
吉田先生はそんな空間をつくる際、「ピッカピカの新校舎ではなく、ずっとそこにあったような校舎」を意識したんだそう。
「ピカピカすぎて、お客さんが『なんだここ?』と、気軽に入ってこれないのも嫌だなあと。大きなネオン看板を出したり、外に椅子をばーっと並べたりもできたのですがそうではなく、『街に馴染む』ことが長く愛される店づくりに必要かなと」
たしかに、派手な風貌で街に登場してみたとしても、その「目立つ」瞬間がピークになってしまいそうです。まちとの境界を曖昧にして「馴染む」ようなお店にすることを、始めから考えられていたんですね。
「大人数のお客さんが来たら、近くの広いコーヒー屋さんを紹介したいですし。自分の儲けだけを取ったって、上手くいきませんからね」
●「僕の大好きな人たち」で構成された店内
そんなお店のロゴは、『珈琲小』のために作られたオリジナルフォントで使作られています。揺らぎのある文字デザインは、小学生が集まったり動き出したりするような、わんぱくな印象が。
この英語ロゴを知人でもあるデザイナーさんに提案してもらった時、吉田先生は「以前の校舎まで使っていた『漢字ロゴのインパクト』を手放すのは勇気がいるなあ」と感じたそう。
しかし「プロの意見はちゃんと聞きたいから、信じてみよう!」と、今回はこの英語ロゴに決定。その結果、漢字ロゴだった頃よりも、看板を撮るお客さんが増えたそうです。
そしてロゴだけでなく、吉田直嗣さんのコーヒーカップ、イームズのスツールなど、お店の中にも「ご縁のあった人たちや、僕の大好きな人たち」に関わるものが。
商品であるコーヒーにもしっかりとこだわりのある吉田先生ですが、空間を構成する物にもさまざまな想いが込められているんですね。
●「バリアフリー」はハードもソフトも
最後に、これからの『珈琲小』について尋ねると、「入口をバリアフリーにしたい。店を始めてみたら、目や身体が不自由な方もたくさんいらっしゃって」とのこと。
たしかに見てみると、入り口には15cmほどの段差があります。
「でも単に『ハード面』を整えたら終わりではなく、そういった方々もスムーズにご案内できるような、スタッフや雰囲気といった『ソフト』面も対応していきたいですね」
そんな話を受け、ここで一つ、ご紹介したいエピソードが。
実は今回のインタビューが始まる時、吉田先生の第一声は「学校に通われたご経験はありますか?」。取材にあたり、「取材をする側」の我々が過ごした学校にまず目を向けてくださるなんて、私は驚いてしまいました。
「学校に通った経験」と言っても、その規模や地域によって形は様々ですよね。「一括りに『共通の土壌』があると思いながら話してしまうのはなぁ」と吉田先生は考えていたそうです。
そんな気遣いもできてしまう吉田先生たちなら、ソフト面の心配はきっと不要に違いありません。
さまざまな「ポテンシャル」を持った物件は、あたたかな先生たちよって最大限に生かされ、誰もを迎える『私立珈琲小学校』になっていました。みなさんもぜひ、ふらりと「登校」してみてください。
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