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手付かずだった裏山を整備し、人が集える気持ちの良いを森をつくる

東京チェンソーズの森づくりについて、3月のnote記事で基本方針を紹介しましたが、
今回は2021年から施設に隣接する”裏山”の整備を進める医療法人を例に、東京チェンソーズがどのように森づくりを進めて行くのかお伝えします。

同法人では手付かずだった森を整備し、”気持ちが良く、職員が憩える場所”にするという方針のもと、年度を分けて作業を行ないました。

学校や企業で敷地内に森・森林エリアを持つところは多いと思います。

しかし、時間がなく整備や管理に手が回らない、その方法が分からないーーーそんな方のご参考になればと思います!


活用されていなかった”裏山”

八王子市の北部、神奈川県との都県境となる陣馬山方面へ伸びる陣馬街道沿いに位置する医療法人「永寿会」。
敷地内には2つの病院と介護老人保健施設、保育園等があるほか、建物の裏手に森を所有しています。

森を所有したのは約40年前ということですが、それ以降、あまり活用はされていませんでした。

整備前の状況。植物が鬱蒼と茂り、人が入り込むのは困難

整備が始まる前の2021年の時点では、裏山全体に笹の一種である”篠竹”が群生し、施設側からの見通しが悪く、職員が近づくことはほとんどなかったといいます。
駐車場に枯れ枝が落下したり、車両に樹脂が付くなどの事例もあったそうです。

「裏山を整備したい」

永寿会が東京チェンソーズに裏山の整備を依頼したのは、施設管理部門の担当者が立ち寄った銀行で、たまたま手に取った雑誌で東京チェンソーズの記事を見たことからでした。

永寿会ではその頃、施設内の緑化を進めようとしていた折で、病院のある八王子からも近い、東京の同じ西側の地域で森林整備を営む東京チェンソーズのことが印象に残ったようです。

そこから、施設内緑化の計画が裏山の整備にまで膨らみました。

気持ちの良い森をつくる

依頼を受けた東京チェンソーズでは、まず、永寿会の職員を対象にしたアンケート調査を実施しました。

篠竹を刈り払い、除去する

その結果、裏山の存在は「知っていた」「なんとなく知っていた」が多数を占め、気になっていたこととしては「まったく管理できていないこと」「未整備のまま放置されている」「イノシシが生息し病院敷地まで出てくる」。
整備が進んだ後、どのように活用したいかという問いには「散策してみたい」「患者さんを連れて行ってあげたい」などの回答が上げられました。

つまり、その存在は知っているが、未整備の現状では近づけない。整備が進めば散策などで利用したいという意見がほとんどでした。

東京チェンソーズでは人の営み・暮らしに寄り添った森林のことを「美しい森林」と考え、企業理念に「美しい森林を育み、活かし、届けます」という一節を掲げています。

そこで今回は永寿会にとっての「美しい森」ーーー働く人や利用する人が散策したいと感じる「気持ちの良い森」を目指し、「森林空間リノベーションプロジェクト」と題する3ヵ年の計画を提案しました。

作業道を作る

具体的には篠竹の除去、間伐、作業道の作設を実施します。

篠竹を除去することで、

  • 施設側からの見通しを確保し、職員が親しみや関心を寄せやすくする

  • 土質を改良し、雨水の浸透力を上げ、流失を防ぐ

  • 全体が明るくなり、イノシシが住みにくくなり、生息数の減少を図る

間伐することで、

  • 森林空間に陽光が差し込み、裏山を植生豊かな森へ導く

作業道を作設することで、

  • 雨水がダイレクトに施設側に流れることを防ぐ

  • 森林内に人が入りやすくなる

  • 間伐材が搬出できる

以上の作業をエリアを分けて3ヵ年で実施し、「気持ちの良い森」を目指します。

「整備が進み山が生き返った」

現在は他部署に異動されましたが、2021年からの3ヵ年、施設を管理する部門に所属し、東京チェンソーズの仕事を法人内で一番間近に見てきた飯塚崇智さんに、当時のことをお聞きました。

整備中の現場で。中央に飯塚さんを挟んで東京チェンソーズの思(左)、城定(右)

ー飯塚さんが赴任されたとき、裏山はどんな感じでしたか? 

飯塚:6年前に赴任しましたが、その頃はまったく手入れされていませんでした。木の背が高くて、台風の時などはしなったように揺れていたので大丈夫かなと心配に思ったのが第一印象です。

ー職員さんが裏山に入ったりということは?

飯塚:なかったです。篠竹がひどくて近づき難く、入ろうと思うような場所ではなかったですね。

ーその後、施設緑化の過程で東京チェンソーズを知り、裏山も整備の対象になりました。

飯塚:そうです。まず初めに裏山を見てもらったんです。
そうしたところ、活用法が分からず放置していた裏山が、「宝の山です」と言われ驚きました。
チェンソーズさんがいろいろと方法を提案してくれて、職員や患者さんが散歩できるような森を目指そうということで整備が始まりました。

篠竹除去前
篠竹除去後

ー手入れされた裏山を見てどう思われましたか?

飯塚:「まず篠竹を刈る」ということで、実際に刈り払い作業した場所を見ました。あのジャングルのような篠竹が刈られて、見通しがとても良くなっているんです。風も通るし、健康な山になりました。

篠竹は一度刈っても、翌年また芽が出るなど一気に根絶できるものではないですが、数年おきでも刈ればだんだん勢力が弱まっていきます。

ー前はイノシシがよく出るということでしたが、最近はいかがでしょう?

飯塚:足跡があるので今もいるとは思いますが、前ほどではないですね。前はこの建物の方でも見ましたが、最近それはないですね。

ー明るいと隠れ場所がないので、減っているのかもしれないですね。

飯塚:そうですね。

ーあと間伐もしているので明るくなっています。

飯塚:確かにそうですね、光が入って山が生き返るという話も聞きますが、まさにそういう感じです。

ー作業中、よく様子をご覧に来られると現場を担当する城定に聞いてます。

飯塚:はい、行くたびに作業が進んでいて、たとえば、作業道が伸びて別のルートとつながったなど、そういうのを見ることができて良かったです。多分、裏山の変化を会社で一番肌で感じることができたんだと思います。

森のメンテナンスを継続

永寿会では現在、2021年に始まった当初の3ヵ年計画は終了しましたが、継続して森のメンテナンスを行なっています。

建物に近いナラ枯れ被害木を伐採作業中

まずは裏山全体に広がっている”ナラ枯れ”被害木の伐採作業に着手しました。

ナラ枯れとはコナラやミズナラなどナラ科の樹木を中心に広がる、ナラ菌を原因とする伝染病のこと。
罹患すると水を吸い上げることができなくなり枯死し、倒木や落枝の原因になるので、早めに伐採するなどのケアが必要となります。

永寿会・裏山のナラ枯れ被害木は数十本あり、単年度に一気に作業するには多いため、施設建物に近く危険度が高いと思われるところから年度を分けて進めて行くこととなりました。

少々脱線しますが、ナラ枯れの遠因として人の生活スタイルが変わったことがあげられるそうです。
薪を日常的に使わなくなったので、薪炭用にかつてはまだ若いうちに伐られていたコナラが大きく育ち、菌を媒介する昆虫(カシノナガキクイムシ)が入りやすくなったといわれています。

見えてきた「気持ちの良い森」

飯塚さんは「人が入るようになってから落枝や倒木があると困るので、今伐ってもらっています。さらに今後も定期的にメンテナンスしてもらって、ナラ枯れが一段落したところでみんなに公開できればいいですね」と話していました。

整備前は「近づく気になれなかった」裏山ですが、職員や保育園の子どもたちが散策できるような「気持ちの良い森」が少し先の未来に見えてきています。


永寿会の現場はこれまで何度も行きました。

初めはまだ作業に着手する前で、本文中にあるように篠竹が跋扈し、鉈をふるいながら道を確保し、数人が縦一列になって恐る恐る進んだものでした。

それが今は幅2.5mの作業道もあって、山歩きに慣れない方も入りやすくなっています。
篠竹で閉ざされていたことが嘘のように明るく視界が開け、光も風も豊かな気持ちの良い森に変わっています。

作業を担当する城定が「一生この現場にいたい」と話していました。働く人にも「気持ちの良い森」になってるようです(笑)

永寿会・飯塚さんに作業の説明をする城定






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