塾講師の挑戦

「須藤さん、やっぱり地方と都会では明らかに教育に関して意識の格差がある。福井の子どもが不利だよ。」

これは勤めていた先輩講師から言われた言葉だ。僕の職業は塾講師。
大学卒業後、公務員になるも教育への可能性を感じて塾業界に転職した。以来、福井で講師として小学生から大学受験生まで教えている。そんな僕はこの春、塾講師として修業するため福井から上京してきた。
 
福井県といえば、知名度こそ高くないものの日本海に面しており自然に恵まれた地域である。全国学力テストで毎年上位に並び「教育国」として知られる。そのため、教育関係者が他県から視察に訪れたりもする。
しかし、自分が学生だった頃から福井の子どもたちが本当に学力がトップクラスなのか疑問に感じていた。東京の御三家のような入学することが超難関の学校もないし、そもそも中学受験もする生徒の割合も少ない。進学校と呼ばれる高等学校はあるもの難関大学への進学人数で言えば、突出した成果があるのかと言えば否だ。都会と比べ、競争環境が厳しいわけではないのに学力トップという結果だけが一人歩きしているのは統計上のマジックではないかと。
 
勉強や受験の話になると決まって「いまの日本の受験制度を見直すべきだとか」「勉強だけがすべてではない」といった話が出る。それはもちろんそういったことを考えるのは大事だが、勉強という“素材”を使って子どもたちの心が動く機会になれば、それこそ教育の醍醐味だ。
 
冒頭の先輩講師は長年、予備校で受験の世界にいたからこそ率直に感じたことを言った。
コロナ禍を機に仕事のオンライン化が進み全国に授業動画をはじめ新たなサービスが出てきたとしても、対面で人と人が交わる授業という場でこそ生まれるものは多々ある。競争環境がある都会では、生徒のニーズに合わせ様々な先生の授業を受ける機会があるが、地方ではそうではない。人からの直接の影響を受けられるかどうか、という点で確かに格差がある。そういったことが先輩の真意だろう。

子どもたちの心を動かす授業をいかに提供できるかが、講師の仕事だ。福井の講師の質が悪くて、都会の方がよいという意味ではない。最先端のものが集まり、しのぎを削る環境でこそ養われるものはあるわけで、自分も講師として都会との違いを体感したかったし、そこから教育に関しての視点と取り組みが変われば、地元福井の子どたちにもよい影響を与えることができるのではないかと思った。そこで講師としてさらに鍛錬するため上京を決意したのだ。

さて、上京してこれからどんどん修行するぞと片意地張っていた自分に上司から言われた言葉が「その子のもつ奥行きを見なさい」だった。地方あと都会の差なんてスケールの大きなことを考えていた自分だったが、相手にするのは一人一人の子ども。それぞれに違う家庭環境、境遇がある。このタイプの子どもはこう対応する、なんてマニュアルみたいなものは本当の意味で作ることはできない。

最初に学んだことは「教育」という大きな問題を考える前に、まずは目の前の子どもというたったひとりの人間を知ろうとしなさい、ということだった。なぜその状況でその反応をした?と踏みこんでみると、実は寂しかったからかもしれないし、友人とうまくいかないことがあったかもしれない。自分は教える立場であっても同時に学ぶ立場なのだと気づかされた。
 
将来、教育を通し子どもと地域にいい還元をしたい。心を揺さぶる授業をしていくためにまだ道は始まったばかり。

Written by たくみ


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