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ある男

ある男  監督 石川慶
感想。内容に触れてます。原作は未読で、ネトフリでの鑑賞。

 「先生は在日っぽくない在日ですね、それはつまり在日っぽいてことなんです」というセリフがいい。私は在日韓国人3世なのでとてもよくわかる。
こういうサスペンスの引き立て役くらいライトに「在日」が使われるのは個人的に大歓迎、というか日本映画の武器として大いに使えばいいと思っている。因みにライトにというのは歴史観や思想をわざわざ提示しなくても別にい良いという意味。
 個人的な「在日」表現についての感慨はさておき、この台詞映画の本質としても芯をくっている。自分の存在を消したいと思う、そのことこそ自分の存在を否応なく認識させられる。自分の存在を消したいと思うに至り、どれくらい具体的に行動するかが、自身がいかに自己の存在を意識しているかの強さの具合を表している。
 ある男の場合、不幸な身の上だったり、国籍が生きづらさに結びつき、自己逃避の沼へ入り込んでいく。個人が否応なく生まれ落ちた環境要因が原因で起こる様々な苦しみを、声高ではないが確かな筆致で映画は描き出す。
サスペンスと社会正義と日本映画的な情緒を絶妙なバランスで描き出す様はまるで複雑な建築のような映画だと感じた。
 個人の好み的には、主人公の城戸を案内役にもう少しメタフィクション的なサスペンスに寄ってもいいのかなと思った。日本映画的な情緒を抑えて映画の本質である沼に鑑賞者をより引きずり込ませるというか。ただ監督のインタビューなんかを読むと今回はもう少し日本映画的なものを意識しているようだったのでこのバランスも納得。
 最初と最後に登場する絵画はルネ・マグリットの作品「複製禁止」というタイトルだそう。鏡に向かって正面に立っているのに顔は映らず、後ろ姿だけが映っている鏡を描いた絵に「複製禁止」というタイトルをつけたルネは中々に意地悪。

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