湯たんぽみたいだった|ハンバートハンバートツアー2023-2024「ハンバートのFOLK村」大阪公演
1998年に結成されたデュオ、ハンバートハンバート。プライベートでもパートナーである佐藤良成さんと佐野遊穂さんが作り出すのは、フォークやカントリーをルーツとした独自の音楽。
柔らかなメロディーとは裏腹に、人生の影の部分にフォーカスした歌詞も多く、その言葉をあたたかな声で届ける世界観が魅力だ。
2024年1月20日、そんなハンバートハンバートのライブに初参戦した。感想を一言で表すとタイトルの通りだ。湯たんぽみたいなライブだった。
湯たんぽは昔ながらの暖房グッズ。お湯を沸かし、それを中に注ぎ、蓋をし、カバーをかけて、お布団の中に持っていく。ちょっと手間がかかる。
けれど体の近くに置くと、心地良く熱が広がる。不思議なくらい指の先から心臓まであたたまる。寝る時から朝まで温かい。それどころか、ときどき熱が出そうなくらい熱く感じることもある。
「ハンバートのFOLK村」が始まると、手間暇かけて作り上げられた音楽がじんわりと私を温めた。ライブが終わる頃には、激しく踊ったわけでもないのに体はほくほくで熱々だった。その熱は寒いはずの帰り道にも心地よく体に残り続けた。
「湯たんぽやん……。」と思った。
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2023年はハンバートハンバート結成25周年のアニバーサリーイヤーだった。この年発売したアルバム「FOLK4」は、カバー&セルフカバーシリーズの第4弾。新曲2曲を含む全12曲を、二人きりの弾き語りで収録している。
「ハンバートのFOLK村」はこのアルバムを引っ提げてのツアーだ。結成25周年・初参戦ということで、個人的にはかなりのワクワク感とともにこの日を迎えた。
会場は老若男女であふれていた。抱っこされている赤ちゃんから杖をついたご夫婦まで。金髪の女性(私)もいれば、ドレッドヘアの男性もいた。ハンバートハンバートのファン層の厚さを感じる。
彼らのステージは、愉快なMCから始まった。面白くて衝撃を受けた。(あとで調べると2人の面白トークはライブ名物のようだ。)
フォークな夫婦漫才とでも言おうか。2人の声や醸し出すあたたかな空気は楽曲と同じだけれど、会話の内容は寄席で笑いを取る漫才師のようだった。
「それでねそれでね、あれ、なんだっけ?」と終始キュートな遊穂さん。「そうなんだ、そうなんだ、それは大変だったねー、いやまだ話すの?」と完璧な合いの手&軽快なツッコミを繰り出す良成さん。
長年公私のパートナーとして連れ添った2人の、あうんの呼吸が心地良い。
それにしても良成さんの「もう20分経つけど1曲しか歌ってないよ?」には笑った。
ここからはセットリストにも触れながら語りたい。(万が一曲順などに記憶違いがあっても、生ものの保存は難しいよねとご容赦いただきたい)
「今すぐ Kiss Me」
「ドキドキすることやめられない」と歌う遊穂さんの、澄み切った声と笑顔が心に残った。“歌うのが楽しくて今日もここに立ってる!やめられない!だって楽しいもん!”という無邪気さが眩しい最高のスタートだった。
「恋はいつでもいたいもの」「格好悪いふられ方」「もうひとつの道」
屈託のない明るさのあとに、うまくいかない恋の歌が3曲続いた。
どこか投げやりな要素が入っているハンバートハンバートの恋の歌が好きだ。歌詞の中の主人公が愛しくてたまらなくなる。肩を組んで励ましたい。
5曲目からは、「見知らぬ街」「うた」「君と暮らせば」「花咲く旅路」「雨雨雷時時霰」とアルバム収録曲が披露された。この日のためにひたすらアルバムをリピートしていたのだけれど、生の2人の歌声はそれはそれは想像以上に力強く、感動で体温が上がった。
「僕はもう出ていくよ」
「25周年だから、僕が18か19のとき初めて作った曲をやります。」ギターを置き、キーボードの前に座ってから良成さんが言った。驚いた。初めて作った音楽が、こんなにかわいくて切ない恋の歌なんて。
デビューアルバム「FOR HUNDREDS OF CHILDREN」に収録されたオリジナルバージョンでは遊穂さんだけで歌っているのに対して、今回のカバーでは2人で歌っている。ぜひ両方を聴いてみてほしい。良い意味で全然違う。年を重ねて深みを増した2人の歌声、というか空気すべてが素敵だった。
(ライブでは音源よりも、良成さんが歌うパートが多かった気がするけれど記憶違いだろうか……。ライブだけのアレンジがあったのかを確かめに過去に戻りたい。)
オリジナルバージョンはこちら↓
続いて「ひかり」「タクシードライバー」と映画のような世界観の2曲が演奏されてから、THE BLUE HEARTSのカバー「リンダリンダ」で会場は大いに盛り上がった。絶対に本家を知らないと思われる、よちよち歩きの子どもが首を振って音に乗っていた。
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観客を一つにした「リンダリンダ」以降は、これまでの代表曲が惜しみなく披露された。きっとどのハンバートファンにも想い出深い曲ばかり。だからこそ語りたいことはたくさんあるけれど、ここにすべては書ききれない。
だから、私が最も胸を締め付けられた曲と、ライブのクライマックスについてだけでも書き残しておく。ここまで読んでくれた人がどれだけいるかわからないけれど、ここまで来たからにはあと少しだけ付き合ってほしい。
「ぼくのお日さま」
自分の気持ちをうまく言葉で伝えられない「ぼく」の、葛藤や悔しい想いを歌った曲だ。
生きていると必ず感じるもどかしさや苦しさ。それらが2人によって代弁されて、涙が出そうだった。会場にいる誰もがそうだったんじゃないかと思う。
ハンバートハンバートの歌の根底には、人間のドロっとした感情、ずるさ、報われない想いがある。それでもそれぞれの「お日さま」を味方に、どうにかこうにか生きていく。
そして“どうせ生きるならできるだけ楽しく愉快に”と優しさで仕上げられている。
ハンバートハンバートはロックで優しいといつも思う。そこが最高にかっこいい。この曲を聴いて改めて感じた。
「黄金のふたり」「メッセージ」
大団円を感じさせるラスト2曲には、感情移入し尽くした映画がハッピーエンドで終わるような、喜びと寂しさを感じた。
「おじさんになったね 自分だっておばさん」と歌う「黄金のふたり」のあとに、初期に発表された「メッセージ」のセルフカバーで締める粋さ。痺れた。(「メッセージ」もぜひオリジナルとセルフカバーを聴き比べてほしい…!)
25周年という節目のツアーを、2人が心から楽しんでいるのが伝わってきた。
アンコールは「うちのお母さん」と「おなじ話」。ハンバートハンバートの名を全国に広めた「おなじ話」は、2人にとって特別な曲だと何度も語られている。そんな特別な曲を直に聴けて幸せだった。
最後のMCで「これからもこんな感じでなんとか続けていくからさ、お互い健康に気をつけて、また会いましょう!」と手を振ってくれた2人。必ず元気でまた会いたい。
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2024年4月には、2024年春ツアー「ハンバート家の新学期」が始まる。冬の湯たんぽライブを終えて、春のライブはどんなあたたかさなんだろう。
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